ライオット・オブ・シンティレイション #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ニンジャスレイヤーAoM】 ・ニンジャスレイヤーはマスラダ・カイ ・近未来、サイバーパンク。サイバネティクスや電子ネットワークの世界 ・現在、プレシーズン4。プレシーズン4は独立した日常的なエピソードで、以前のシーズンからの引き継ぎやシーズン4への強い伏線等はない。一話完結

2020-11-19 20:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーAoM プレシーズン4 【ライオット・オブ・シンティレイション】#1

2020-11-19 21:02:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオサイタマ、ウシミツアワー。重金属酸性雨の霧雨にネオンライトが混じり、極彩色の霧を生み出す。上空のホロ・トリイをマグロツェッペリンの群体が通過すると、ホロ広告ボムが音声とともに弾ける。「アカチャン。オッキクネ」「アカチャン。コンナニ、ソダッテネ」「ヒートリー……コマキタネー」 1

2020-11-19 21:04:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッケ!」「ハッケ!」「ハッケヨソイ!」広告音声に負けじと奇声をあげるハッケ・プリースト集団が街路を練り歩き、忙しいサラリマンやNERDZ、パンクス、アニメボーイ、コムソ、ローゲニン、ケモノパンクス、リキシパンクス、サラリパンクス、編笠武装商人、強制処置医、カルティストが行き交う。2

2020-11-19 21:08:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「最悪死ぬ」とレリーフされたマンホールの蓋が開き、ガスマスク装着の作業員が地上待機の監督の足を見上げて何らかの工具を掲げる。「これ、そのへんに置いといていッスか?」「ア?てきとうにやっとけ」「ハイ」マンホールが再び閉まると、自転車配達員がジグザグ走行で水溜りを撥ねて走り抜ける。 3

2020-11-19 21:12:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安い、安い、実際安い」「アカチャン!」「十人十色、十人十色……」幻惑的に滲む広告音声とネオン・チョウチン立ち並ぶ飲み屋街を自転車配達員が通過する。「オゴーッ!」「部長飲みすぎるからですよ」「俺は社長になる!」泥酔嘔吐部長サラリマンとカカリチョだ。セッタイも後の祭り。 4

2020-11-19 21:15:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「知ってる?タッチアップにはアイスダイヤ一択よ」「マ?」「むしろ生体爪の良し悪しは摂取する蛋白質の質の如何。サプリ飲んでる?」「マ?」ケモノパンクスが暗がりで互いの獣性を品評しあう会話が後ろに通り過ぎ、自転車配達員は大通りを右に曲がろうとする。そこにスモトリ。「グワーッ!」5

2020-11-19 21:20:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAASH!自転車が転倒し、倒れた彼の頭の横をカンオケ・トレーラがノーブレーキ通過する。「ザッケンナコラー!」自動ヤクザクラクションを発しながら。「ア、アイエエエ」倒れた彼が危うく身を起こすと、ブチまけた配達のオカモチは……無事であった。オカモチを片手で受け止め、通行人が微笑んだ。6

2020-11-19 21:23:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「立ちな。死ぬぜ」PVCテックウェアを着たアフリカンの男はもう一方の手を差し伸べて配達員を助け起こすと、オカモチを渡し、自転車を立たせてやった。「ア、アリガト」「同業者のよしみだな」彼は配達員の肩を叩き、グッドサインすると、身を翻して跳んだ。「イヤーッ!」看板を蹴り、屋上へ。 7

2020-11-19 21:27:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニ、ニンジャ、ナンデ?」仰天する自転車配達員を尻目に、彼はトントンと数度その場で跳ねてから、走り出した。ビルからビルへ飛び移るなかで、その走りはぐんぐん加速する。斜めに背負ったヒキャク・バッグの中には直方体の高密度ケースが数個。今日の荷物だ。 8

2020-11-19 21:29:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安い、安い、実際安い」「アカチャン、スゴクオッキ」マグロツェッペリンの広告音声が降ってくる屋上高度の煩さは、地上の喧騒とさほど変わらない。だが彼のようなニンジャにとってはとても快適な移動ルートだった。然り、彼はニンジャであり、ヒキャク・パルクールなのだ。彼の名はザナドゥ。 9

2020-11-19 21:32:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザナドゥは地球の裏側、マナウス・シティからネオサイタマにやって来た。ヒキャク・パルクールを生業にしたのは、なるべく早くネオサイタマの地理を頭に叩き込みたかった事もあるし、定時で働く為に来たわけではないからだし、ヤクザとして組織暴力を振るうなどまっぴらだったからだ。 10

2020-11-19 21:36:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

手首に装着したデバイスは青緑の光で彼のバイタル状態を伝える。そして減ってゆく数字が配達タイム・リミットを示す。ザナドゥは自身の能力を過少申告している。それによりギャランティーのランクは下がっているが、かわりに配達中に少しの時間的余裕を得ることができる。まだまだ余裕だ。 11

2020-11-19 21:40:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

とはいえ、ダラダラとサボるためにそういう真似をしているのではない。停止は禁物。彼はビルの縁に立った。六車線道路を挟んで対岸にやや高いビル。「行けるか……?まあ、行けるだろ」彼は呟く。対岸のビルには素晴らしい給水タンクがある。「いいぞ。いい」下の交差点で衝突爆発炎上音がした。 12

2020-11-19 21:42:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おお、おお。派手じゃねえか。クワバラだな」ザナドゥは衝突事故を見下ろし、あらためてキアイを入れると、数度のバック転のあと、助走をつけて……跳んだ。「イヤーッ!」側転からのフリップ・ジャンプ。そして空中で身をひねる……「ア!?」ザナドゥは驚き、空中でバランスを崩す。 13

2020-11-19 21:45:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

屋上の世界にもう一人いた。その者は対岸のビルの上に、ちょうどザナドゥの進行方向に交差するように着地し、そのまま走り去っていった。赤黒の風を残して。「ヤバ……グワーッ!」SMASH!ザナドゥは高さが足りず、ビル側面に生えた「電話王子様」の看板に衝突。危うく身を支えた。「チクショ!」14

2020-11-19 21:47:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオンがバチバチとスパークし、ザナドゥを慌てさせる。「クッソ!」彼は看板をよじ登り、なんとか屋上に這い上がった。既に赤黒の影の存在はない。「ニンジャかよ。チッ」興味無さげな一瞥に何故か少し屈辱をおぼえたが、ネオサイタマではこんな事もあるのだろう。気持ちを切り替える。 15

2020-11-19 21:50:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

腕のデバイスを見る。今のタイム・ロスはやや痛い。しかし……「ほっとけねえもんな、こんなのは」ザナドゥは給水タンクを見た。彼は腰のポーチからスプレー缶を取り出し、シェイクさせながら、タンクに向かった。ブブブブ。蝿めいた音を立てて監視ドローンが浮上する。「イヤーッ!」スリケン破壊。16

2020-11-19 21:52:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大急ぎでやるからよ」シャカシャカと振ったスプレーを、薄汚れたタンクに噴き付けていった。彼はありがたいフクスケと、ネオンの桃を二色で見事に描いていった。ここまで出来るようになるまでに、実際随分と「修練」を重ねてきた。それまで何も身につかなかった彼が、初めてモノにした技術だ。 17

2020-11-19 21:59:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の故郷、マナウス・シティは、透明の高所チューブで高層ビルを繋いだ都市だった。貧富の差が極めて激しく、チューブを使って移動し、空中庭園で憩う者たちと、荒廃したまま放置された地上の街に暮らす者たちの見る景色は違った。当然、彼も下から上を見上げるばかりだったが……ある日、変わった。18

2020-11-19 22:02:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空中庭園の誰かが投げた中身入りのエナジードリンク瓶が脳天に直撃し、脳みそをはみ出させて死ぬであろうところ、彼は神秘的な夢から覚めると、ニンジャとなっていた。そして、上の世界にあがる権利を強引に手に入れた。そこにはしかし、先客たちがいた。彼同様、強引に上へあがった者たち。 19

2020-11-19 22:05:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザナドゥにはニンジャの脚力と腕力があった。ビルの側面を駆け上がったのだ。だが彼らは違った。彼らは様々な違法テクノロジーの助けを借りてチューブの高さまで上がり……そして、やる事といえば、チューブの表面にグラフィティを描く事だった。バカな暇人どもだ、彼は当初はそう考えた。 20

2020-11-19 22:08:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし……命をかけて(実際、見つかれば射殺もされる)バカな落書き犯罪行為を繰り返していた彼らには、彼らなりの切実な理由と意志があったし、ほどなくしてザナドゥ自身も、その切実さと意志を共有する側になっていた。そしてそんな小規模の集団の中にも、とんでもないタツジンは生まれるものだ。21

2020-11-19 22:12:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのタツジンをザナドゥが直接目にしたのは、結局、一度だけだ。だがそれで十分だった。……「よし」ザナドゥはやや距離をとってフクスケと桃を眺め、別角度からも確認した。「いいじゃねえか」彼は深く呼吸し、そして、パンと手を叩いた。ネオン・グラフィティが反応し、ホロ幻像がたちあがった。 22

2020-11-19 22:16:04