食べると不死身になれる、って伝説がついてるレアなファンタジー生物を探す男の話。3

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

「素直に茶番って言えばよかったのに。…そうでもなかった?ば、ばか!あたいがおばあちゃんのことほんとに好きだったみたいに言うなっ!利用してただけだし!」

2020-11-03 15:19:02
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「誰がツンデレ羽虫よっ!」 「な、なんだよ急に大声出して…頭に響く」 「え?ああ、なんか突然失礼なこと言われた気がして…ツンデレは私の属性じゃないっての」 「デレないもんなお前…」 「誰にも媚びないわ!誇りある種族としてね!」 「妖精に誇りとかあんのか…」

2020-11-03 15:21:03
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ふん。…そう言えば、結局アンタとジンロウってどんな関係なの?」 「はぁ?なんだいきなり…別に、研究者と協力者だよ。今回は上に後援者がいるけどな」 「ふーん。男女の間柄とかじゃないの?」 「ちげぇよ。生まれた時から一緒にいるんだぞ?」

2020-11-03 15:23:15
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「幼馴染だったの?それはそれで意外ね」 「んー…まあな。ずっと一緒なんだよ、ずっとな」 「…?」 何やら意味深な言い方をルフが問い詰めようとした時だった。 「あ、あの…」 おずおずとネンジャがイルラの寝室の扉を開けた。

2020-11-03 15:27:50
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「お客さん、です…」 「…客だぁ?」 露骨に訝しい顔をしたイルラが追い返せと言おうとするが、少女の後ろに丈高い影を見てため息をつく。 「やあ、お休みのところすまないね」 身なりのいい、若い男だった。

2020-11-03 15:30:30
江口フクロウ@眠み @knowledge002

そそくさとネンジャが逃げるように去っていく。ルフはいつの間にか姿を消していた。 「構わねぇさ。こんなところまでご足労いただいて悪いね、旦那」 目上相手故に一応ベッドから身体を起こすが、それだけだ。 「なに。街歩きもなかなか悪くないさ。…実を言うと、私はこの辺りで育った人間でね」

2020-11-03 15:34:33
江口フクロウ@眠み @knowledge002

応じる男の方、ジンロウとイルラの後援者も特に気に留めていないようだった。どころかその身分からすれば秘中の秘であろう事実をさらりと暴露してみせる。 「…今をときめくガームレス卿がとんでもないことを言い出すじゃねぇか」 「私とて一人の人間だということだよ。…具合が悪そうだね」

2020-11-03 15:37:33
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「良くねぇ薬を吸っちまってね。あんたも気をつけな」 「ふむ…私の依頼でそうなってしまったのは申し訳ないな。後で何か届けさせよう」 「いらねぇって…それで?進捗を聞きに来たのか?報告書は出してるはずだが」 「ああ。そうだった、彼から進展があったと聞いたのでね」

2020-11-03 15:41:21
江口フクロウ@眠み @knowledge002

イルラは目を細めた後、ゆっくりベッドの横の棚へ手を伸ばす。 小さな抽斗から出したのは、黒い塊だった。ゆったりと壁に背を預ける貴族へぞんざいに投げ渡す。 ガームレスも受け取ったはいいが、未知の物体に対し困ったように掌の中で転がしてみせる。 「…これは?」

2020-11-03 15:45:45
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「火口で生まれ溶岩の中で生きるとされるリザード。その鱗だ」 「なんと…では、伝承に辿り着いたのだね!」 「…そいつは溶岩へ浸かった後だ。あいつが火口でなんとか拾い上げたが、だいぶ古い」 「…ん?」

2020-11-03 15:52:09
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「残念だが、旦那。食えば不死を得られる伝説の生物、リザードは溶岩へ落っこちて死んでる。ただの火に強い大トカゲだったんだよ」 「…そんな。それでは」 「ああ…西の森にいたとされる妖精、南の海にいたとされる人魚に続き実在は証明できなかった」

2020-11-03 15:55:22
江口フクロウ@眠み @knowledge002

そこまで慇懃だった男は、炭化した鱗を握って項垂れた。 「…東の荒地にいた霧の民も、前回調査の結果からするに望みが薄い。まあ、連中は元々皆殺しに遭ってるから元から期待はしちゃいなかったが。…申し訳ないが、依頼人。あんたの立ち上げた不死への研究は、失敗だよ」

2020-11-03 15:58:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「そんな…だ、だが君たちのもたらしてくれた、持つものを存えさせる命溢れる石傷をたちどころに治してしまう薬草、光る鱗粉で全てを破壊する月下蝶たちは本物だった!なら、不死に関わるものたちだって…!」

2020-11-03 16:27:21
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「何をもって本物とするか、だな。雷を撃つことで心臓を動かし続ける石、貼りついた周囲の性質を真似る草、蝶に至っては蝶じゃなかった。なんか…人型みたいな…まあアレのことはいいか…」

2020-11-03 16:46:43
江口フクロウ@眠み @knowledge002

これまでに発見した成果を数え上げるのをやめ顔を上げるもガームレスはまだ沈んでいるようだった。 「…旦那。何故俺たちみたいなろくでなしを雇ってまで不死を望む。人々が大事に伝えてきた、あるいは伝えまいとねじ曲げた幻想を暴き、時に金にするような奴らを、あんたは信用して金を出した」

2020-11-03 20:37:49
江口フクロウ@眠み @knowledge002

女はベッドを降り、寝間着にそのまま白衣を羽織る。 「最初に言ったことだが、俺たちも不死に関する伝承を追ったことがいくらかある。だが、どれもこれもろくでもないオチだったよ。今回みたいななーんも見つからない、なんて理想的なくらいだ。…それでもまだ諦めないか?」

2020-11-03 20:50:03
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「…諦めないさ」 「…」 「諦めないとも。希望はまだ、潰えていない」 「…そうかよ。ま、雇われた以上は最後まで付き合うさ」 口ではそう言ったがすげなく部屋から出て行く女をガームレスは見送った。

2020-11-03 21:17:57
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ああ、そうさ…彼がいるからね」 口元に笑みを浮かべて。 理想に燃える男は、どこまでも夢を見る。

2020-11-03 21:26:53
江口フクロウ@眠み @knowledge002

翌日。 ついに四匹目の幻想生物が無事研究所へ到着してしまった。 イルラは何も言わなかった。

2020-11-07 17:48:57
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「もう好きにしてくれ…俺も好きに研究するから…」 「わーい。じゃああたい早速本屋行って来るね」 「ま、まって…案内するから…」 「近くの広場で歌っている詩人さんがー、なかなかいいんですよねー」 「はいはい、ちゃんと魔法かけてからねー」

2020-11-07 17:51:40
江口フクロウ@眠み @knowledge002

幻想生物たちも自由だった。 「あ、ジンロウ。今日はアンタもいるの?そう、ならついてきなさい。聞きたいことがいっぱいあるんだから」 「わ、わたしもジンロウさんと、いっしょに…」 「また歌ってほしいですー」 「わざわざ来てやったんだから解釈探すの、手伝ってよ?」

2020-11-07 17:54:14
江口フクロウ@眠み @knowledge002

男はゆっくりと、しかし安易に頷く。 世界中を歩き回り時にぼろ布のように傷ついても足を止めないその体力と信念があればあるいは、普通の観光になら耐え得たかも知れない。 「大体アンタ連れて来といて放置ってなんなの?しばらく仕事はナシ!しっかり相手して行きなさいよね」

2020-11-07 17:59:52
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「わたし、いろいろなところへ行って、いろいろべんきょうしたんですよ…!でも、ヒトとはあんまり話せないままなので…練習に付き合ってくださいね…!」 「ジンロウさんはーいろんな歌を知ってるってイルラさんが言ってましたー。全部聴きたいですー」 「あたいのことも面倒見てよねー」

2020-11-07 18:14:24
江口フクロウ@眠み @knowledge002

例えば、食べると不死身になれる、って伝説がついてるレアなファンタジー生物を探すジンロウという男がいたとしたら、その人生の蜜月とは久方ぶりに足を止めた代わりに振り回され続けたそこからの一ヶ月ということになるだろう。

2020-11-07 18:26:46
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ジンロウ…ほんと、お前ってやつはどうしてこう厄介事を…まあいいさ。俺は、俺たちはお前についていく。そう決めたんだからな」

2020-11-07 18:30:52