『皆様こんばんは、迷信深い老人の孫です。祖父は腰痛で療養中のため、四月馬鹿はしばらくお休みいたします。楽しみにしていた方がいらっしゃったらすみません。発言の内容は普段とまったく変わらないので、引き続きお楽しみください』
2021-04-01 18:02:32『もう、滅んだ時からずっとそんなことばかり言ってるんだから。いいじゃない、元村人みんな、保険金だ見舞金だのおかげでだいぶ潤ってるんでしょ?』
2021-04-01 18:20:51『そうそう、すごい山津波だったよね。ゴルフ場をつくるって工事に入ってた業者さん、機材から何からみんな流されちゃったみたい。人的被害がなかったのが不幸中の幸い、奇跡的だって』
2021-04-01 18:34:09『警察の人はまるで誰かが誘導したみたい、なんて言ってたけど、そう都合よく山崩れがあることなんて分かったりしないよね。あれ? でも、あの日はおじいちゃんにうるさく言われて山を降りたって村の人が言ってたような――おじいちゃん、もしかして山崩れが起きるの、知ってたんじゃない?』
2021-04-01 18:40:52『実家の蔵にあった古い和綴じの本でしょ? 蔵が流されなかったから整理に行ったついでに読んでみたけど「大雨の日に"西女の石"を動かせば山崩れが起きる」って書かれてるだけだったよ。それにしても不思議だよね、災害がいつ起きるというより、まるでどうすれば起こせるか書いてるようにも読める』
2021-04-01 18:58:20『他にも「長福寺の池に水を溜めると夜名沼が涸れる」とか、「四方津社の祠に叫ぶと、村中に音が響く」とか、面白いことが書かれてたよ。村の人たちに話を聞いたけど、夜名沼が干上がったのも、村中に変な音が聞こえたのも、ちょうどあの山崩れのしばらく前のことなんだっけ』
2021-04-01 19:06:33『うん、おじいちゃんは人に会うごとに必ずそう言ってたんだってね。そのせいかはわからないけど、不思議な事が立て続けに起こっても何となくみんな受け入れてしまった。山崩れが起きるとおじいちゃんが主張して、実際に山崩れが起きても、まあそんなこともあるかな、と思ってしまう程度には』
2021-04-01 19:11:39『普段から迷信を馬鹿にするなだ何だと口うるさいおじいちゃんに、面倒だからとりあえず従っておけ、という雰囲気もあった。業者はあの晩には帰っていたし、この日は偶然農協の慰安旅行で、村に残っていた人はいつもよりかなり少なかった。――山崩れがあの日だったのは、本当に偶然なのかな?』
2021-04-01 19:22:30『それにしても、"西女の石"はかなり大きい。簡単に動かせるようなものじゃない、ましてや老人が一人で、というわけにはいかないよね』
2021-04-01 19:32:46『そういえば、工事業者は何か必要があってダイナマイトを持ち込んでいたらしいね、それもこの山津波でどこかに行ってしまった。もしそれがいくらかなくなっていたとしても、証拠はどこにもない』
2021-04-01 19:43:13『さて、これはあくまで私の妄想だけど。その昔、自分の家に伝わる古文書を読んで、おそらく実験もして、理屈はともかく山崩れを起こせるはず、ということを知った「誰か」は、いつかそれを実行してみたいと思ってしまった。そこから計画が始まった。迷信深い老人として振舞うのもその一環』
2021-04-01 19:53:03『神がいると信じられる山を切り崩し、我が物顔で蹂躙する業者と、搾取・分断される村を見て、彼はとうとう実行する機会が来た、と思い立ってしまう。古文書に書いてあることを実験し、その効能が今も生きていることを確認して、タイミングを選んで山崩れを起こす。』
2021-04-01 20:01:33