【ケイジ・オブ・モータリティ】 #10

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

飛び上がり、叩きつけた拳が、ベルゼブブの鎖骨を割って突き刺さった。ニンジャスレイヤーが拳を引き抜くと、そこには燃える鎖がつながっている。ベルゼブブに絡みついていたヌンチャク・オブ・デストラクションが持ち主に繋がり、再びその腕の中へ吸い込まれてゆくのだ。 46

2021-04-20 23:25:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバッ……アバーッ……!」苦悶しながらホバリングするベルゼブブに、再度の拳を叩きつける……落下開始まで十分すぎる時間があった。ニンジャスレイヤーは引き抜いた拳をチョップ突きに構え直し……突き刺した。「イヤーッ!」「サヨ、ナラ!」ベルゼブブは心臓を貫かれ、爆発四散した。 47

2021-04-20 23:29:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは血を吐き、背中から落下した。落ちながら、鋭敏化したニューロンがもたらすスローモーション時間の中で、彼は訝しんだ。飛び散ったベルゼブブの血が空中にピシャリと固定され、そして集まり……アブストラクト・オリガミとなって静止したのである。コンヴァージと同様であった。48

2021-04-20 23:33:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン!鐘の音が鳴り響き、上空に黄金立方体が垣間見えた。イクサを見下ろす者達のうち、巨大な目玉じみた影の存在感が突如として強まった。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。異状はオリガミだけではなかった。飛び散ったベルゼブブの爆発四散パーティクルの中、燃え残りじみて、「王」の漢字。49

2021-04-20 23:35:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空を荒れ狂う蝿たち。爆発四散パーティクルの一粒一粒が、突如、腫瘍めいて空中で膨張した。膨張した腫瘍はより集まり、額に「王」の漢字をいただく名状しがたい姿を生じた。それはベルゼブブの残滓であって、もはやベルゼブブではないなにかだった。イクサを見守る影たちに不審のアトモスフィア。 50

2021-04-20 23:39:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーは消耗しきった身体を強いて受け身を取る。『イヤーッ!』超自然のカラテシャウトが響き、空を荒れ狂っていた蝿たちが渦を巻いて、ニンジャスレイヤーをめがけた。(((おのれ!ドゥルジ・ニンジャか!)))内なるナラクが吠えた。(((マスラダ!どうにかせよ!))) 51

2021-04-20 23:41:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーのニューロンがスパークした。空中に浮かぶ肉腫、あれがアンテナじみてドゥルジ・ニンジャとやらの力を発揮している事がわかる。横に転がって蝿の渦を躱し、スリケンを投げ返して破壊するのだ。……否、否!蝿はポンポン・ビルディングを壊滅し、さらなる死を招くであろう! 52

2021-04-20 23:44:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蝿は荒涼たる輝きをまとって降り注ぐ。引き伸ばされた時間のなか、ニンジャスレイヤーの状況判断が幾千もの可能性と打開策を探った。その時、ニンジャの可聴域の微かな領域に重なる奇妙な周波数が空を走った。『アカチャン……ソダッ…カチャン……テネ』ボンボリ区に乱立する広告スピーカーが源だ。53

2021-04-20 23:47:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キイイイイイイイ!奇妙な周波数が空を満たすと、蝿の突進が秩序を失い、四方八方に散った。『イヤーッ!』肉腫が痙攣し、蝿を再び統制しようとする。「スッゾスッゾスッゾ……スッゾスッゾスッゾ!」喚き声が下から這い上がってくる。ニンジャスレイヤーは裂け目を見る。 54

2021-04-20 23:51:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スッ……ゾコラー!」マグマめいた炎の塊が、裂け目の下、最上階から屋上へ飛び上がった。状況判断!ニンジャスレイヤーは全身のカラテを再び寄せ集め、最後の攻撃に出た。「イイイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを無数投擲し、燃え上がるヤクザは花火めいてカトンを放射した! 55

2021-04-20 23:54:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

散り散りに乱れる邪悪な蝿の雲に、炸裂打ち上げセンコ花火じみたカトンが叩きつけられた。カトンは連鎖爆発じみて燃えた!その爆発をニンジャスレイヤーのスリケンが貫くと、炎は広く遠く離れた蝿に燃え移り、燃え広がり、空を真っ赤に燃やしていった!「アアアアア!」インシネレイトが燃え叫ぶ! 56

2021-04-20 23:56:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……やれ!」声の方向にはガーランドが居た。やはり同様に屋上にエントリーしたと見える。ニンジャスレイヤーは構わず、手の中のスリケンに力を込め、肉腫をめがけて投擲した。「……イヤーッ!」ツヨイ・スリケン!螺旋回転するスリケンがドゥルジのアンテナを貫き、爆発四散させた! 57

2021-04-20 23:59:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BOOOM!KA-BOOOOM!赤い空に網目状にカトンの炎が走った。蝿達はもはや統制を失い、乱れ飛び、燃えながら落下し、やがてその密度は腐乱した沼程度にまで減じていった。「アアアアアア!アアアアアアアアーッ!」インシネレイトは叫び続け、燃え続け、そのまま仰向けに倒れ、動かなくなった。 58

2021-04-21 00:02:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……ガーランドがインシネレイトに屈み込み、ピシャピシャと頬を張った。「ウ、ア」焦点の合わぬ目を彷徨わせるインシネレイトの口に、ガーランドは携帯バッテラを押し込んで咀嚼させ、また頬を張った。「動けるか」「ンンッ……!」「よくやった。終わりだ」 59

2021-04-21 00:07:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「チャルワレ……チャレケ……」「下手人は死んで、一応のカタはついた。釈然とせん事もあるが」ガーランドは空を振り返り、空中に静止しているアブストラクト・オリガミを見上げた。「……ニ……ニンジャスレイヤー……が……」「ああ、そうだ」「何処だ……」「逃げたな」 60

2021-04-21 00:10:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「や、野郎!」インシネレイトは震える手を床に叩きつけた。「何なんだ……あの野郎……!アンタ追わねえのかよ」「俺にそんな元気があるように見えるか」ガーランドはインシネレイトの手を掴み、立ち上がらせ、よろめいた。今度はインシネレイトが掴まねばならなかった。 61

2021-04-21 00:14:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「き、気に入らねえ事が沢山あるぜ……!」インシネレイトが顔をしかめた。「そうか」「アンタの事も……クッソ、なんか気に入らねえしよォ!」「俺にナメたクチをきくのは今は見過ごしてやる。面倒だからな」ガーランドはインシネレイトを突き放し、裂け目の下に屈んだ。クレッセントが居た。 62

2021-04-21 00:17:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ヒートリ……キイイイ……コマ……キイイ……コマキタネ……』アンタイ・ヨロシ・パルスの周波数パターンを混ぜ込んだ広告音声が、ボンボリ区に鳴り響いている。クレッセントはUNIXデッキの集音器に掌を押し当てている。彼女はガーランドを見上げ、肩をすくめて見せた。「原始的な方法だが」 63

2021-04-21 00:20:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「蝿の件、このあと少し付き合え」ガーランドは油断なく念を押す。クレッセントはもう一度肩をすくめた。首肯のしるしだ。両組織間で折衝の必要があった。そのやり取りを見ながら、サイダ3はデッキに寄りかかって腰をおろした。広告音声のインフラはセキュリティが薄く、咄嗟のハックが可能だった。64

2021-04-21 00:23:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サイダ3の決死のハッキングを助けたのは、デジタル・オーディンを名乗る不気味なネットワーク存在だった。サイダ3の試みを助け、タイピング速度を補助した。苦しいミッションだったが、オーディンの傍らに光り輝くヴァルキルが現れ、進捗バーは一気に加速した。サイダ3は興奮の余韻に拳を握った。65

2021-04-21 00:26:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

たっぷり長くヨロシ周波数を流し終えると、クレッセントは一息ついてオキアミ・バーを齧り、サイダの肩に手を置いた。「さて。キミの仕事はとりあえず終わった」「ア、アア……ええと……」サイダ3は言葉を探した。クレッセントは猫目を細めて笑った。「立派だったじゃないか。ウチで働きたいか?」66

2021-04-21 00:31:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ええと……考えておく感じですかね」サイダ3は言葉を濁した。混乱と、恐怖からの解放に、彼はぼんやりしていた。ハッキングを助けた電子存在について、彼女に訊いてみたい気もしたが、何となく躊躇われた。「その……連絡先いただければ……」「フ」クレッセントは微笑した。 67

2021-04-21 00:34:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は名刺に何か書き加えて、サイダ3に渡した。サイダ3は胸を高鳴らせた。……一方、屋上では、ビルの縁から下を見下ろして、インシネレイトは顔をしかめていた。「クソみてえなビルだし、エレベーターもクソになってるし、足で降りなきゃいけねえんですよね。全くよお」 68

2021-04-21 00:36:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

吹き上がる風がインシネレイトの髪を揺らした。「足で降りたければ、止めはせんが」ガーランドが横にしゃがみ、己のタバコを咥えた。「VTOLが迎えに来る。俺はそれを使うぞ」「チッ」インシネレイトは頭を掻いた。「本当に調子狂うッスよ、アンタ」指先のカトンで、ガーランドのタバコに点火した。 69

2021-04-21 00:43:22