What's your wish ? ~太郎と私の物語~

連作してみたついのべです。
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雪月 @setugetufuka

ある日、仕事の帰りがいつもより遅くなり疲れて歩いていると、電柱の下に何かが置いてあるのに気が付いた。ぬいぐるみ? 子供の頃大切にしていた物と似ていたので、興味をもって近寄ったのがいけなかった。「僕が見えるの?」ぬいぐるみは人懐っこく話しながら近寄ってきた。 #twnovel

2011-07-30 23:16:43
雪月 @setugetufuka

「僕は僕を必要とする人にしか見えないんだ」どうしてあんなところにいたのか聞くと、ぬいぐるみの形をした変なものは答えた。「皆、最初は見えてもそのうち僕が見えなくなる。今まで一緒に暮らしてた人もそう。そうすると僕はもうそこにいられない」なんとなく寂しそうな声だった。 #twnovel

2011-07-30 23:56:34
雪月 @setugetufuka

「僕は君が望むものになれるんだよ。今ぬいぐるみなのも君が無意識にそう望んでるからなんだ。」喋るぬいぐるみは言った。「これから僕に何になって欲しい?」今のままぬいぐるみで、あなたのままで。そう答えたらぬいぐるみは困惑した。「僕のまま…ってそんなの初めてなんだけど」 #twnovel

2011-07-31 23:17:08
雪月 @setugetufuka

名前は『太郎』ね。うちにきた喋るぬいぐるみに名前を付けた。人にも動物にも機械にだって用いられる、とっても便利な名前。私が望めば何にだってなれる、と言うこの子にぴったりだ。太郎は嬉しそうに「うん」と頷いたあと「実は僕、ぬいぐるみになるのも初めてなんだ」と言った。 #twnovel

2011-08-01 19:55:27
雪月 @setugetufuka

ぬいぐるみの太郎はいろんな事をよく知っていた。長い年月を多くの人と暮らしてきたからなのかも。私は太郎に何でも話した。時々太郎の事も聞いてみる。前に太郎と暮らしてた人は、どうして太郎の事見えなくなっちゃったの?「内緒。でも今でも大切な友達だよ」なんだか妬けた。 #twnovel

2011-08-01 22:19:16
雪月 @setugetufuka

ぬいぐるみの太郎をくすぐる。きゃーきゃー言って転げ回る太郎を見てふと思った。私にしか見えないんだよね。他の人は触れるの? 「触れないよ。説明してもわかんないと思うけど」偉そうに。更にくすぐる。「きゃー」ずっと一緒にいようね。約束だよ。「わかったからもうやめてー」 #twnovel

2011-08-02 21:30:49
雪月 @setugetufuka

ねぇ太郎。お母さんになれる?「姿を変えるって事? やってみるけど…」ぬいぐるみの姿が崩れて女性になり、顔がだんだん…。あ! だめだめ。戻って。一瞬浮かんだ顔はあの人だった。やっぱり今の私にとっては、あの人が母親っていう事なのね。お母さんの顔、覚えてないしな…。 #twnovel

2011-08-04 00:55:24
雪月 @setugetufuka

ぬいぐるみの太郎と暮らし始めて半年が過ぎた。太郎は話し相手には最高だった。慰めてくれたり、一緒に怒ってくれたり、時にはアドバイスまでしてくれる。人の気持ちがわかるって凄いよと言うと、太郎は悲しそうな顔をで「全部、君がこう言って欲しいと望んでる言葉だよ」と言った。 #twnovel

2011-08-04 23:38:31
雪月 @setugetufuka

ぬいぐるみの太郎の言葉は私が望んでいる言葉。どんなに独り善がりで間違った事を言っても全て肯定してくれる。まるで幼い子供が一人でお人形ごっこをしているように。ぬいぐるみと話すなんてバカみたい。太郎があの人の姿に変わっていく。嘘! そんなの望んでない。「やめて!」 #twnovel

2011-08-05 01:02:03
雪月 @setugetufuka

太郎ははっと息を飲んだ。ぬいぐるみのままだった。「僕は君の…」太郎は悪くない。わかってるけど、今は何も聞きたくなかった。私がもう寝ようと言うと太郎は泣きそうな声で「明日はまたいつも通りだよね?」と言った。私は聞こえない振りをして布団に潜り込んだ。 #twnovel

2011-08-05 01:10:18
雪月 @setugetufuka

幼い頃に母を亡くした私は、太郎によく似たぬいぐるみといつも一緒だった。夜怖くても、一人で寂しくても、ぬいぐるみを抱き締めれば安心できた。でも新しい母は私からそれを取りあげ捨ててしまった。「そんな歳になってもぬいぐるみと話すなんてバカみたいじゃない」あの人が笑う。 #twnovel

2011-08-06 00:22:00
雪月 @setugetufuka

継母の声を聞いたような気がして目が覚めた。動悸が治まらない。太郎がぬいぐるみ姿で現れたのは、やっぱりあのぬいぐるみと関係があるからなんだろうか。聞いてみようと探したけれど、太郎はどこにもいなかった。もしかして出ていったの? それとも。嫌な考えが頭をよぎる。 #twnovel

2011-08-06 00:35:39
雪月 @setugetufuka

「やっぱり僕の事が見えなくなっちゃったんだね」太郎の声がした。「今までもこんな感じだったから。もしかしたらと思ったんだけど」えっ、 そんなの嫌だ。また見えるようになるよね? 動転する私に、太郎ははっきりと言った。「たぶん無理だと思う。もうすぐ声も聞こえなくなる」 #twnovel

2011-08-06 23:50:32
雪月 @setugetufuka

太郎は続けた。「あのね。僕は人の心の隙間に取り入るものなんだ。ぬいぐるみの姿に意味はあっても、それはもうどうしようもない事だったりもする。変な風に考えて悩んじゃだめだよ。それから、こうなったのは君のせいじゃないからね。自分を責めちゃダメだよ」 #twnovel

2011-08-07 00:00:10
雪月 @setugetufuka

太郎の言葉に泣きそうになる。こんな時まで私が望むような事ばかり言うんだね。「僕の本当の気持ちを言ったんだけど…」溜め息が聞こえた。「でも仕方がないか。僕はそういう生き物だから。でもこれだけは信じて。君の聞きたい言葉と僕の言いたい言葉が重なる事だってあるんだ」 #twnovel

2011-08-07 00:22:16
雪月 @setugetufuka

「僕の言葉の全てが嘘だったわけじゃないから」くすん。太郎は鼻を鳴らした。「 もしまた会えたら…」それから先はいくら待っても聞こえてこなかった。また会えるんだろうか。しばらくは泣いて過ごした。そうして太郎の言葉を思い出す。「もうどうしようもない事を考え過ぎないで」 #twnovel

2011-08-07 23:59:16
雪月 @setugetufuka

私は太郎の言葉が嘘ばかりじゃなかった事を知ってる。だから最後の「もしまた会えたら」を信じてみようかな。なにしろ捨てられたぬいぐるみにだって再会できたんだもの。「僕に何になって欲しい?」太郎の声を思い出す。ぬいぐるみのままで…。また会おうね、ぬいぐるみの太郎。 #twnovel

2011-08-08 00:17:22