マスター・オブ・パペッツ #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキは一息つき、水飲み場のコマイヌ像を見た。「ア……」コトブキは背筋を伸ばし、向き直った。そこに立っていたのは、マークスリーであった。風が木を揺らし、葉が舞った。「ドーモ。コトブキ=サン」マークスリーはコトブキを、じっと見つめた。やがて言った。「貴女に、お話があります」 0

2021-06-14 21:36:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エ?何?」「コクッテンノ?」ラジオ体操をしていたトイコとヨウナシがこれを目撃。体操を中断し、互いにしがみつき、動揺しながら見守った。コトブキはマークスリーを見た。マークスリーは顔を赤らめた。「お話とは、なんでしょうか」「……決闘に臨むのは、僕と決まりました」「なんですって?」 1

2021-06-14 21:40:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺し合いになるでしょう。その前に、僕は」マークスリーは苦しげに己の胸を掴んだ。「……貴女に、秘めたる気持ちを、伝えに来たのです」「「アー!」」トイコとヨウナシが嬉しそうに悲鳴を上げた。マークスリーはそちらを睨み、美しき敵意によって二人を黙らせた。二人は腰をぬかして座り込んだ。 2

2021-06-14 21:43:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここには邪魔が多すぎる。来てくれませんか」マークスリーは公園の丘になった場所の石トリイを示した。コトブキは僅かな時間、逡巡した。相手はニンジャスレイヤーが警戒を促した「狩人」だ。今ここにニンジャスレイヤーは居ないが、緊急連絡手段を残していった。呼べばすぐにここへ来る。 3

2021-06-14 21:47:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかしコトブキは目の前のマークスリーに対し、まだ測りかねているところがあった。彼女には自我があり、ニンジャスレイヤーの言葉通りに動くオイランドロイドではないのだ。襲いくる狩人、そしてカリュドーンの儀式に対し、まだ彼女自身が見定めきれていない事が沢山あるのだった。 4

2021-06-14 21:52:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

人質事件の折、マークスリーは自ら助力を買って出、実際助けてくれた。本来であれば手を貸す義理など何処にもなかったのだ。それをマークスリーは騎士道精神じみた理屈によって動いたのである。狩人とは、邪悪な神話ニンジャの代理戦士であると聞く。意に沿わぬ行動を押しつけられている可能性も! 5

2021-06-14 21:57:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もしその捻れを看破することができれば、カリュドーンの儀式そのものにダメージを与え、ニンジャスレイヤーを助けられるかもしれない。さらにその一方で、マークスリーの助太刀行動それ自体が、ニンジャスレイヤーと繋がりのあるピザタキに取り入る為の欺瞞的行為である可能性も充分にあった。 6

2021-06-14 21:59:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コンヴァージと凄まじき死闘を繰り広げ、爆発四散させるに至った発端の出来事について、ニンジャスレイヤー自身は多くを語らない。だが尋常ではない負傷があった。伝えられた七人の狩人と、既にただならぬ何かがあったのだ。その経緯について思い巡らすだけで、彼女の電子的鼓動は乱れるのだ。 7

2021-06-14 22:02:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マークスリーはコトブキに対して敵意を向けていない。少なくとも、その眼差し、仕草、全体のアトモスフィアは彼女に対する害意を伝えてこない。彼女の洞察力をすら超えて、よほど手練手管に長けた存在であれば、実際お手上げではある。だが彼女はリスクを冒そうと決意していた……! 8

2021-06-14 22:06:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ニンジャスレイヤー=サンはいつもボロボロになっている。私にも覚悟がある。むしろ、この身体は修理すれば治るのだ!)コトブキが己にキアイを入れ直し終えた時、既に二人は石のトリイをくぐり、やや丘がちになった公園のはずれのポイントに到達していた。乾いた風がバンブー植え込みを揺らした。 9

2021-06-14 22:10:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……一方のマークスリーは、彼女に並び歩き、その決然とした横顔が朝日を受けて輪郭を白く光らせるさまを神秘的に感じ、自らの美しさをもひととき忘れて、(なんという事だろう)と感嘆していた。これほどに心が動かされることは、あるいはKOLへの、エリザベートCEO陛下への背信となるだろうか。 10

2021-06-14 22:13:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(否……否、否!)マークスリーは思わず強く首を振り、己の考えを否定した。この情動は卑しき欲望ではない。マークワンが陥ったような肉欲の堕落と己のこの清らかな胸の痛みを混同するのは、畢竟、KOLの苦渋に満ちたバイオホムンクルス開発史に対する侮辱となろう。(僕はCEO陛下の夢そのものだ!)11

2021-06-14 22:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

心の揺らぎこそ、チャドーの真髄にして、マークツーの至れなかったハーモニーへの手がかり。KOLは感情のブレを敢えて残した、否、感情のブレがなくば、バイオホムンクルスは祝福された存在とは言えぬのだ。(この愛は試練)マークスリーは俯き、美しい唇を噛んだ。(……そうか、これは、愛だ!) 12

2021-06-14 22:21:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここでいいですか?」コトブキが周囲を見た。明るいオレンジの髪を風が揺らす。(安い!安い!実際安い!)(朝からモチベーションMAX!これ飲んで!)遠くを飛ぶ早朝広告ツェッペリンの放送がここまで届く。マークスリーは懐に手を入れ……そして、PVCに包まれた赤い薔薇を、差し出した。 13

2021-06-14 22:24:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあ!薔薇ですか?」「KOLの英国式庭園にて手折った……オーガニックの薔薇です」「オーガニック」「今こそ、僕のこの心の躍動の正体についての思いは確信となった。それは貴女への想いです。コトブキ=サン。赤い薔薇の花言葉。それは……!」「……愛……」コトブキは呟いた。 14

2021-06-14 22:28:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マークスリーは薔薇を差し出したまま、待った。そして説明した。「然り。愛です。ヒトメボレをご存知ですか。コトブキ=サン。僕は貴女の存在そのものに敬意を抱き、深く愛するに至ったのだと……そう、思います」「……何故……?」コトブキは表情を曇らせた。マークスリーも怪訝になった。 15

2021-06-14 22:31:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マークスリーはバイオホムンクルスであり、見つめた相手の頬を染め、振る舞い、言動、すべてが好ましく、アイドルとなることを宿命づけられた存在である。「何故、とは?」「まだ、わたしは貴方のことを詳しく知らないので、それを知ってからでも遅くはないのではないでしょうか」「何ですって?」 16

2021-06-14 22:34:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「つまり、わたしは……その……」コトブキは言葉を探した。マークスリーは咳払いした。「貴女のその戸惑いは、いわば、さっきまでの僕と同様だ。人によって作られた存在ゆえに、感情に対して戸惑う。わかります。ですが、僕のこの気持は真実だ。必ずわかる筈です」「それは……」「時間が無いのだ」17

2021-06-14 22:37:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マークスリーはコトブキの手を取り、薔薇を握らせた。「オミクジは既に、次の狩人として、この僕を選んでいる。オミクジが狩人を選び、その後、いずれ鐘は鳴る。そうなれば、僕はニンジャスレイヤーとの決闘に臨む狩人となる!宿命なのです!」「それが何故決まっているのですか!?憎いのですか?」18

2021-06-14 22:40:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「憎……貴女は、何を?」マークスリーは瞬きし、コトブキを見つめた。「騎士というのは主君に忠誠の証を見せ、イサオシを捧げるものだ。そしてその勇猛さによって民を導く。至らぬゆえにジゴクを這う者たちに、行いをもって光の道標となる。ノブレス・オブリージュこそ使命だ」「それで決闘を?」 19

2021-06-14 22:47:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンンッ……」「貴方自身は特にニンジャスレイヤー=サンを敵視しておらず、それなのに決闘をするのですか……?」「わかってください。それが主君の命なのです。イクサとはそういうものだ。お互いの憎しみではなく、主君や祖国の利害が重要なのです」「なんだか……何かが……」コトブキは戸惑う。20

2021-06-14 22:53:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マークスリーは勢い込んだ。「その戸惑いはわかります。貴女はあの汚らしい……失礼……キタノ・スクエアに暮らしているから、あの場所の者たちに対して同情心が育っている。それは自然な感情です。恥じる事はない。ですが、貴女は!貴女はもっと輝ける筈なんだ!」「エッ……!?」 21

2021-06-14 22:56:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキは目を見開いてマークスリーを見ていた。四枚羽のオイランドロイドの刻印が瞳の中に浮かんでいる。マークスリーはさらに力を込めた。「貴女は僕と同様、人の手で作られた存在です。そして……人の手で作られながら、人を超えた存在なのです。僕らには自我があり、人を超越する知性がある!」22

2021-06-14 22:59:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わ……わたしは……」コトブキはぱちぱちと瞬きし、深呼吸を始めた。マークスリーは訝しんだ。「貴女の体機能は呼吸が必要なのですか……?それとも擬似的な反射……?とにかく……あんな卑しい人々の棲まう場所は、貴女にはふさわしくないんです。僕と共に来てほしい。KOLこそが僕達の……」 23

2021-06-14 23:02:35