偽言使いと偽善使い

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おさけ @GALAXY__BEAUTY

桜が散り始めた頃、オレの生活もすっかりこの街の色に染まっていた。間には出会いがいくつかあって、大切なもののうちのいくつかを誰かに奪われ、理不尽な暴力を知った。歯を食いしばることも覚えたが、それ以上にこの街の圧倒的なリアリティを目に、オレは以前より遥かに打算的になった。 1/15

2011-08-11 23:51:18
おさけ @GALAXY__BEAUTY

最近は窓から外を見ている時間が増えた。校庭では、無知を自覚する気もないような奴らが楽しそうに下校していた。知らないってことがどれだけ幸せなのか、あいつらはわかってない。記憶の鎖。一度知ってしまったことは、立場が変わっても消えてなくなったりはしない。 2/15

2011-08-11 23:52:47
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「っと……、なあ、そこのキンパツ?」唐突に話しかけられた。「わり、えーっと……」「土御門だにゃー」振り返ると見るからに冴えないツンツン頭の同級生がいた。会話したことはなかった。オレは仮面を心の中からすばやく取り出して装着する。 3/15

2011-08-11 23:54:10
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「おおー、そうだそうだ土御門! よろしくな、俺は……」「上条当麻」「え」一瞬だけ表情が硬直した。「うにゃ、有名人だぜよ」絵に描いたようなお人よしが顔に出ている。自称も含めて、ついたあだ名が確か―――。「偽善使い」「は?」「独り言だぜよ」 4/15

2011-08-11 23:56:58
おさけ @GALAXY__BEAUTY

夕暮れが緩やかに時を刻んでいた。空が紫色になって淀む。「なあ、能力検査、受けた?」「んにゃ? 一応うけたけど」「見た感じどうせ結果よさそうだもんな。俺なんかさ…」どうでもいいような会話だった。「……それより、偽善使いってどういう意味なんだぜよ?」「え?」 6/15

2011-08-11 23:59:19
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「よく自分で言ってるやつだにゃー。フォックスワード。偽善者? 自嘲癖でもあるのかにゃー?」「お、お前って結構イヤなヤツだったりする?」オレは頭の中でこの男の器量を測っていた。「フォックスワード。偽善ってわかっても言葉が出ちまうとか、そんなとこか」「………」 7/15

2011-08-12 00:00:30
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「この街に来て、実力も伴わない人間が、次にすがるものが言葉。なんていうか、随分と短絡的だぜよ」「ははは、そりゃまたきっつい『言葉』だな」煙に巻こうとしているのが伺えて、オレは先手を打つことにした。「オレはそんなもの信用しない」「……」 8/15

2011-08-12 00:02:59
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「強い言葉があれば、強い相手を説得できるわけじゃない。曖昧な言葉。差し手としては有効かもしれないが、信用はできない。どんなときでも、最後に力を持つのは『行動』だ、偽善使いサン」「なんでそう思うんだ?」「経験したからさ」 9/15

2011-08-12 00:05:47
おさけ @GALAXY__BEAUTY

それからは無言だった。沈黙が共通言語になるほどの関係ではないから、ネガティブな空気がオレたちを包む。もっと反論してくるかと思ったのに拍子抜けだった。試すようなマネをしたのは悪いとは思うが、それだけのこと。「あれ、寮……一緒??」「んにゃー。お隣さんだぜよ」 10/15

2011-08-12 00:07:29
おさけ @GALAXY__BEAUTY

ドアの前で、オレはこれ以上会話を続けるつもりがなかった。挨拶もせずに部屋に入ろうとする。「なあ」上条当麻はまだそこにいて、こちらをどこか落ち着いた瞳で見つめていた。「さっきの話だけど」「まだ続きがあるのかにゃー? オレの『言葉』が気に入らないって?」 11/15

2011-08-12 00:08:25
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「そうじゃない。ツチミカド、が『行動』するってんなら、それはそれでいいんじゃねえか。多分、お前は俺なんかと違って優秀なんだろ」「…さあ」「でも、言葉が力を持ってないなんて悲しいこと言うなよ。確かに、時と場合によっちゃ口先だけの戯言になっちまうかもしれねえけど」 12/15

2011-08-12 00:10:03
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「俺は言葉の力ってやつを信じてる」「お得意の偽善かにゃ?」「そうじゃない。自分のことを聖人君主だとは思ってないし、全員を説得できるなんて思ってねえよ。だから土御門みたいに『行動』で人を説得できるやつはすごいと思う。でも」「だったらなんでお前は俺に『話した』んだ?」13/15

2011-08-12 00:12:01
おさけ @GALAXY__BEAUTY

沈黙が再びオレたちを包んだ。頃合だと思った。なるほど、これが『あの』上条当麻。「……ぷ」「……え?」オレは仮面をもう一度素顔にあてて、この男と改めて向かい合った。「なーんちゃってにゃー。ちょっとした冗談だぜよ。思いのほか熱いこと言われて興が冷めちゃったぜい」 14/15

2011-08-12 00:13:28
おさけ @GALAXY__BEAUTY

「な、なんだよ。人が真面目に答えてやったっつーのに。適当なこといってただけかよっ!」「ま、偽善使いサンは思ったよりも熱い男ってことかにゃー。―――カミやん。いつかオレにもその『言葉』、聞かせてほしいもんだぜよ」「か、カミやん?」言ってすぐにドアを閉めた。15/16

2011-08-12 00:16:10
おさけ @GALAXY__BEAUTY

出掛けに忘れていたサングラスが、靴箱の上で恨めしそうにこちらを見ているのを確認する。「―――偽善使いか」ひんやりとした感触。トレードマークを装着して、視界が少しだけ暗く沈んだ。 16/16

2011-08-12 00:16:46
おさけ @GALAXY__BEAUTY

つっちーとかみやんは偽悪者と偽善者、理想主義と現実主義、言葉と行動、表裏一体の関係が素敵です

2011-08-12 00:29:59