ラフ連作「てるてる坊主と雲の精」

2011年8月24日に投稿されたお話です。 @laughsketch の代理でまとめました。 スペシャルサンクス:つくしあきひと(@tukushiA)さん 続きを読む
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とある場所。とある時間のお話。

都市一番の大きさを誇る魔法図書館に、青い服をまとった魔女がやってきた。
彼女はブルー・M・ブルー。世の中では「彗星の魔女」と呼ばれている。

今日はどうやら図書館に予約していた目当ての本を手に入れることができたようだ。
帰ろうとしたとき、影から一人の野性の妖精が飛び出してきた。

彼女の名前はディナシー・スプライト。
妖精の国を治める王…だが、退屈なのでさまざまな世界を旅しているらしい。

「いろいろな世界を渡られてるんですよね!なんか退屈にならない話聞かせてください!」
野生の妖精は目を輝かせている。
同じ「世界を渡るもの」にとって、ほかの世界の話は魅力的なのだ。

幾百の星空を駆け、幾千の世界を渡るブルーにとって、
【野生の妖精が飛び出して道を阻んだ場合の対処法】はさすがに心得ていない。
が、さすがにノーサービスで追い返すのは悲しい。

そこでブルーは抱えている本を乗ってきたホウキに任せ、その場でこの間行った世界で聞いた話を語ることにした。

「むかしむかし、あるところに…」 


むかしむかし、あるところに雲の精がいました。

雲の精はとっても「なきむしさん」だったので、毎日たくさんの雨を降らしていました。

今日も一人で泣いていると、近くの家の窓から誰から
「泣くのはおやめ。せっかくのかわいい顔がくずれちゃうよ」
と声が聞こえてきました。

振り返ると家の窓に一人の少年が、ちょこん、と座っています。

「あなた…だれ?」
雲の精が尋ねると
「こんにちは。いや、はじめましてかな。僕の名前は”てるてる坊主”。
ずっと前からここに住んでいたんだけど、なかなか役に立たないことが多くて…今日も雨を止めることができなかったんだ…」

「私のせいで…ごめんなさい…私泣いてばかりで雨を降らせちゃうから…」
雲の精は今にも泣き出しそうです。

てるてる坊主は
「涙を拭いて。ボクはぜんぜん気にしてないからさ」
と袖の中から一枚のハンカチを雲の精にわたしました。

てるてる坊主は続けて言いました。
「ボクは別に雨を晴らすことができなくてもいいんだ。
それに変わる得意技があるから平気だよ。

それはね…」

「ほらっ!」

てるてる坊主が叫んだ次の瞬間、手から一輪の花が飛び出してきました。
「ボクはこうやって周りの人を笑顔にできる。
それでみんなの”気持ち”を”晴れ”にできれば、それだけで幸せなんだ。」

てるてる坊主はそういって雲の精の頭に一輪の花を付けてあげました。
ステキな髪飾りの完成です。

雲の精の顔は見る見るうちに明るくなり、泣き虫だった顔はどこかへ消えてしまいました。

そのときです。

なんと雲の精を包んでしまった雲が消えてしまったのです!

「あぁ、きっとキミの心が晴れてしまったから、包んでいた雲も消えてしまったんだね。
なんということをしてしまったんだろう…これでは雲の精として生きることができない」

さっきまで晴れやかだったてるてる坊主は、今にも泣きそうです。

雲の精は言いました。
「ううん、気にしていないよ。私の気持ちを元気にしてくれてとっても嬉しいわ。本当にありがとう。これからは…」

「てるてる坊主になる!」

雲の精は、てるてる坊主からもらったハンカチをかぶり、
空に負けないぐらい晴れやかな笑顔で、そう答えましたとさ。