照夜玉闇より疾く【完】

晁蓋の愛馬赤光と色々な人物を巡る長編です
0
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段景住「今日も独りだな、お前は」 赤光「…」 段「いつまで独りで、駆けているのだ?」 赤「…」 皇甫端「もうよせ、段景住」 段「…」 皇「嫌がっているのが分からんか?」 段「分かる。分かるがな」 皇「…」 段「…それでも見てらんねえで、関わりたくなる気持ちってのは、お前に分からねえか?」

2021-10-22 12:00:04
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

皇「いや、よく分かるよ」 段「だったら」 皇「そして、それが自身の満足にしかならんということも、分かってるんだろう?」 段「それを言っちまったら…」 皇「主人を亡くした馬は赤光だけではないぞ、段景住」 段「…そうだよな」 皇「段景住よ」 段「…」 皇「赤光は月が似合うのを知っているか?」

2021-10-22 12:00:04
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段「月が?」 皇「夜に会ってみるといい」 段「…気が向いたらな」

2021-10-22 12:00:04
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

?「そこの商人」 ?「…」 ?「お前だ、片腕の商人」 ?「私ですか?」 ?「忘れたか、俺を」 ?「商人になった前のことは、全て」 ?「今の名は?」 ?「今の、というのがよく分からないのですが」 ?「…」 段亭「段亭と申します」 ?「今は」 亭「おっしゃる意味が、分かりません」 ?「よく言う」

2021-10-22 12:30:10
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

蘇定「蘇定だ。覚えているだろう?」 亭「はじめまして、蘇定殿」 蘇「白々しいのは相変わらずか」 亭「…ところで、なんのお話ですか?」 蘇「なんの、とは?」 亭「商いのお話ですか?」 蘇「…勘に触る男だ」 亭「申し訳ございませんが、おっしゃる意味が」 蘇「俺を覚えておけ。それだけでいい」

2021-10-22 12:30:11
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

亭「かしこまりました、蘇定殿」 蘇「…」 亭「商いの話がございましたら」 蘇「それは無い」 亭「失礼いたしました」 蘇「今はな」 亭「…」 蘇「…」

2021-10-22 12:30:11
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

柴進「今の男は?」 段「武人の方です」 柴「縁のある男か?」 段「いいえ」 柴「そうか」 段(今は…) 柴「段亭?」 段「失礼しました。柴進殿」

2021-10-22 17:23:00
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

?「今の商人は?」 蘇「決して、忘れるな」 ?「殺すのか?」 蘇「忘れないだけでいい」 ?「…」 蘇「ひとつ覚えておけ」 ?「なんだよ」 蘇「お前の相手になる男ではない」

2021-10-22 17:23:00
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段景住「そういえば、月夜で赤光を見た事はなかったな」 段「今日のお月さんは綺麗なはずだ」 赤光「…」 段(なんだよ、あれは…) 白光「…」 段(こんな美しい馬を見たことねえ) 赤「…」 段「なんで俺のところに来るんだよ?」 赤「…」 段(ああ…この感じは、なんだったかな)

2021-10-22 17:36:36
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

赤「…」 段(抑えろ、段景住!) 赤「!」 段(ちょっとだけ、ほんのちょっと外を駆けるだけだ!) 赤「!」 段「行くぞ、赤光!」 段(何も考えらんねえ) 赤「!」 段(馬に乗るってのは、こんなに気持ちのいいものだったかな?) 赤「!!」 段「もっと駆けろ!赤光!」 赤「…」

2021-10-22 17:36:36
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段「赤光?」 ?「やかましいな」 段「!?」 ?「なんだ。馬泥棒か」 段(ああ、思い出した) ?「見事な白馬だ…」 段(この感じ、初めて馬を) ?「もらって行こう」 段(盗んだ時だった…)

2021-10-22 18:01:18
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段「」 ?「段景住!?」 段(ああ、俺は死んだんだ) ?「…この矢は抜かない方がいいな」 段(身体が持ち上がったよ) ?「安道全先生の所へ!」 ?「この馬は?」 蘇定「馬泥棒が駆け回っていた」 ?「すげえ馬じゃねえか!」 蘇「天からの授かりものかな」

2021-10-22 18:01:19
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段景住「…ここは?」 皇甫端「目覚めたか、段景住」 安道全「命に、別状はなさそうだな」 薛永「神医のおかげだろう」 段「…なんで俺は、養生所にいるんだ?」 皇「礼を言え」 郁保四「俺が運んだんだよ、段景住」 段「郁保四が…」 郁「…見ていたよ、段景住」 段「…追いかけてくれたのか?」

2021-10-23 10:00:06
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

郁「牧で嫌な気がしたんだ」 段「…ありがとう、郁保四」 郁「全然追いつけなかったけどな」 段「ありがとう、本当に」 郁「…泣いてもしょうがないぞ、段景住」 段「ああ、そうだよな」 郁「養生したら、一緒に宋江殿の所へ行くからな」 段「…分かった」

2021-10-23 10:00:06
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

段景住「…段景住、出頭しました」 郁保四「郁保四も共に」 宋江「段景住」 段「はい…」 宋「お前にこの剣を授ける」 段「…この剣は」 宋「晁蓋の剣だ、段景住」 段「そんな大切な剣!俺ごときが持ってはいけません!」 宋「この剣を持って、赤光を取り戻してくるのだ」 段「…」

2021-10-23 19:06:04
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

宋「郁保四も共に行け」 郁「はい」 段「宋江殿」 宋「…」 段「必ず、赤光を連れて帰ります」 宋「おう」 段「!!」 宋「…」 段「この血が証です」 宋「よく分かった」 段「連れて帰れなかった暁には」 宋「よい、段景住」 段「…」 宋「信じているぞ」

2021-10-23 19:06:04
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

瓊英「義父上。葉清よりご報告が」 鄔梨「聞こう」 葉清「…」 鄔「泣いているのか、葉清?」 葉「いいえ、鄔梨様」 鄔「本当かな?」 葉「…」 鄔「葉清」 葉「…もしも、泣いていいのなら、泣き終わった後でご報告に参ります」 鄔「分かった。葉清。泣いてきなさい」 葉「よろしいのですか?」

2021-10-24 12:36:32
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

鄔「人間の感情を解き放つのに許可が必要かな、葉清?」 葉「…今、ここで暫し泣かせていただきます」 鄔「瓊英。葉清の元へ導いてくれぬか」 瓊「はい」 鄔「ここだな、葉清」 葉「…鄔梨様」 鄔「話は後で聴く」 葉「…」 鄔「今は葉清の感情の方が大切だ」

2021-10-24 12:36:32
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

葉「…申し訳ございません、ありがとうございます」 鄔「詫びも礼もいらないよ」 葉「…」

2021-10-24 12:36:32
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

鄔「葉清の哀しみと、怒りと恐怖が、聴こえるな」 葉「…はい」 鄔「目が見えないのは難儀な事ばかりではないな、瓊英」 瓊「…」 鄔「耳をすますと、お前の感情も聴こえてくる」 瓊「義父上…」 鄔「仕様がないとはいえ、奴らの恨みは高くついただろうな」 瓊「…私も、恐ろしいです。義父上」

2021-10-24 17:30:41
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

鄔「梁山泊の手を借りるわけには、いかないか」 葉「そんなことは!」 鄔「私の罪で、梁山泊を巻き込むわけにはいかない」 瓊「張清様のお力も?」 鄔「お前の礫が張清の代わりだ、瓊英」 瓊「しかし…」 鄔「代わりに彼らの力を借りる」 葉「あの二人を!」 鄔「既に密書を出したのだろう、瓊英?」

2021-10-24 17:30:41
すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

瓊「…お一人には」 鄔「もう一人はよい」 葉「出したくても居場所が分かりませぬからな」 瓊「大丈夫でしょうか…」 鄔「雲を捉えようと思うな、瓊英」 葉「今いる者で策を練りましょう。お嬢様」 瓊「そうですね」 鄔「その前にだ、葉清」 葉「はい」 鄔「我らの友、耿恭を弔おうか」 葉「…はい」

2021-10-24 17:30:41
1 ・・ 10 次へ