太極伝奇まとめ

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その目に輝く星を見よ🐼 ＝Ep10「月野奇譚 太極伝奇 -干戈騒乱-」外伝＝ ⚠本編設定に関する重大なネタバレを含みます⚠ 〜英知：15年前〜 父を心から尊敬していた。 父は首都で働く役人で、司法に携わる仕事をしていた。 いつも明るく笑顔に溢れて、実に公平な人だったから、天職だったと思う。 実際、本人もそう言っていた。 自分の仕事が好きで、誇りがあるんだ、と。 例えば、俺が５つ年の離れた妹と喧嘩をしていたとする。 幼い妹が大きな目からボロボロと涙を流して泣いていると、大抵の大人は話を聞く前に俺を怒る。 「ダメじゃない、お兄ちゃん」 と。 けれど、父はそうではなかった。 「おっと、どうした？」とおどけた感じで場を和ませて、それから妹と俺の両方の言い分を聞く。 そして仲裁をしてくれた。 「気持ちは分かる！けれど、そういう言い方をしてしまうと、相手を傷つけてしまうよ？」 「なるほど。では、どうしてそうなってしまったのか、一緒に考えようか？」 子供の言い分であっても軽んじず、目線を合わせて納得するまで話してくれた。 その姿勢を崩さずに仕事に取り組むものだから、当然評価が高かった。 市場で出会うおかみさんたちにも、父のことを褒められることが結構あって、そういうときの母は「あらそんな」と言いながらも、どこか誇らしそうで……。 俺も隣で胸を張っていたものだ。 平民の出でありながら、どんどん出世していく父。 だからこそ、目をつけられたのかもしれない。 ＊＊＊ 「英知」 ある朝、いつも以上にゆっくりとした動作で支度をしていた父が、振り返り俺を呼んだ。 「はい、父さん」 父は大きな手を俺の両肩に乗せて、ニカッと白い歯を見せて笑った。 「母さんと、妹を頼むぞ」 「……父さん？」 ずっしりとした重さがある手は、暖かかった。 まっすぐに俺の目を見る父さんの目は、いつも以上に澄んでいて、輝いていた。 茶色の目の中に、キラキラした星が見えた。 晴れ晴れとした顔には、強い意思と気迫が。 ぶるりと背筋に震えが走った。 背後で扉が開く。 逆光の中、何人かの男の人が立っているのが分かった。 「…父さん…」 「行ってきます！」 何かを言わねばと思ったのに、何も言えないまま父さんの手は離れていた。 父さんの笑顔に、俺は笑顔を返せなかった。 キラリと瞬いた星の輝きが、いつまでも頭の中に残っていた。 それが、父を見た最後だった。 ＊＊＊ 『賄賂を貰っていたらしくて…』 『俺は、押収物の横流しをしていたと聞いたが…』 『不正な経理が見つかったらしい』 『あんな顔して、裏では……』 『俺達市民の味方だと思っていたのになぁ』 『はっ、所詮はあの人も『お役人様』の一人だったってことだろ』 市場で母さんと俺に声をかけてくる人はいなくなった。 何かを買う時も、最低限のやり取りだけして、それが終わればさっさと家に帰るようになった。 以前は寄り道をせがんでいた妹でさえ、空気を読んで『まだ帰りたくない』と駄々をこねることをしなくなった。 この頃俺は、よそよそしい、という言葉の意味を肌で知った。 皆が、俺達によそよそしかった。 ただ……母は、いつでもまっすぐ顔をあげていた。 母と目が合って、目をそらすのはいつも相手の方だった。 父が何故帰ってこないのか。 父は今、どこで何をしているのか。 母は何も教えてくれなかった。 もう少し大きくなったら教えてくれると、約束してくれた。 それから、笑った。 「お母さんは、お父さんを信じているわ」 その笑顔に、最後に見た父の笑顔が重なった。 決意を持った強い目には、星が浮かぶ。 重いものに潰されそうになっても、負けない輝きが、とても……とても美しかった。 その星を、俺も持ちたいと心から願った。 ＊＊＊＊ 「これが、通行手形……」 「あぁ。これさえあれば関所で止められることはない」 「お前の働きによって父親の処遇が変わる」 「務めを果たせよ、罪人の息子」 父さんが冤罪であることは、間違いなかった。 不正をしていたのは貴族出身の同僚たちで、父さんはそれを告発しようとしていた側だった。 けれど、何がどうしてそうなったのか。 告発者であるはずの父さんが、丸々、罪を被ることになったのだ。 それが15年前の真実だった。 「……」 ねぇ、 父さん、 母さん。 俺はある人の目に、星を見ました。 その星はきっと、皆を明るい方へと導いてくれる星だと思いました。 彼のためなら、立ち向かえると思いました。 ……もしかしたら俺の選択が、二人を、それから遠い親戚のもとにいる妹さえも、辛い立場に追い込むかもしれません。 でも、だけど、許してください。 俺も、心を決めたんです。 逃げないって決めたんです。 今、俺の目にも、星はありますか？ 「君が……新しい時代を作るんだ！」 ＃スケステ ＃太極伝奇 ＃スケステ太極

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