- mocharn3rd
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クリスマス。 熹一は、ドラゴン・ハウスでブタマンを食べていた。 ここは東京。ブタマンは関西圏が主流で、東京圏では数少なかったため、通販で仕入れていた。
2021-12-25 21:01:57一人でホールのケーキを食べるのは飽きるので、いろんな味のケーキを買ってきていた。 シャンパンを開けて飲みながら、過去を思い出す。
2021-12-25 21:02:07「サンタさんなんていないんだぜ」 「おるわっ」 小学校ではサンタクロースいる派・いない派が騒いでいた。我関せずみたいな子供たちの方が大勢だが、キー坊はそっち側だった。 灘神影流の跡取りとして、そういう「浮かれた事」に左右されるのはダメだと思っていた。
2021-12-25 21:02:17「キー坊はどうやと思う?」 クラスの女子に言われた。 「ボクはおってもおらんでもええと思うけどな」 「へー、オトナなんやね」 「それほどでもないわ」
2021-12-25 21:02:26その年のクリスマスの夜に、キー坊は枕元に気配を感じた。 布団を蹴とばしてすぐさま飛び掛かる。 「捕まえたで、サンタさんっ!」 するとサンタクロースはキー坊のタックルを流れるように捌いて担ぎ挙げたのだ。
2021-12-25 21:02:35「熹一くん、メリークリスマス!」 サンタクロースは絵本やいろんな映像でみるように体が大きく、頼りがいがあった。 「あのな、クラスのみんなはサンタさんがおらんとか言うとったんや! サンタさんは、サンタさんはほんとにおったんやな!」
2021-12-25 21:02:52「いるとも」 サンタクロースは深く頷いた。 キー坊はにんっと笑うと、すぐに不安そうな顔をする。 「それじゃあ、サンタさんが来ない家とかはどういうことなんや? サンタさんがお父さんだっていうやつもおるし」
2021-12-25 21:03:12「……」 サンタクロースがキー坊を床におろして、しゃがんで、言う。 「サンタはたくさんおって、みんなのもとに頼まれて来とるんだよ。みんながみんなサンタを信じてるわけじゃないし、サンタも難しいんだ」
2021-12-25 21:03:31「なぁ」 キー坊はサンタクロースに質問する。 「えんとつからサンタさんが入れないのは、うちがえんとつないから仕方ないとして、サンタさんはどうやって入って来たんや?」 一瞬空気が変わったが、キー坊は気づいていない。
2021-12-25 21:04:06「窓からや」 「窓から! 他の子も言うとったけど、やっぱりサンタさんは超人なんやな! 憧れるで~!」 「じゃあ、他の子にもプレゼントがあるから、この辺で失礼するよ。熹一君。おじいちゃんやお父さんの言うことをよく聞いて元気で過ごすんだよ」 「おうっ!」
2021-12-25 21:04:29熹一は七面鳥を食べていた。 「当時のワシもワシやけど、おとんもおとんやろ。サンタクロースの設定を色々仕込んだ上で、説得力ある話をしてくる」 食べきってからシャンパンで流し込むと、ウェットティッシュで手を拭いた。
2021-12-25 21:04:48再び、過去を思い出す。 「サンタクロースって、おとんだったんやろ?」 中学生になったキー坊が静虎に尋ねる。 「ああ」 「えらい色々用意してくれてありがとな。純情なワシはすっかり騙されとったわ」
2021-12-25 21:05:00静虎がキー坊の頭を掴む。 「騙された、と二度と言うな」 キー坊が静虎の手首をつかみながら、半笑いで返す。 「嫌やな、言葉が間違っとったわ。いい思いしてくれたのに失礼やった! ごめん!」 静虎はキー坊から手を話す。 「そういう意味やない。サンタクロースっていうのは幻想や」 「えっ」
2021-12-25 21:05:16「ただし、伝えられるべき幻想なんや。今度はお前が年下の皆にサンタクロースを教える番や。ワシの話した"設定"は覚えとるな?」 「えーと、サンタクロースはたくさんいるとか、みんながサンタを信じとるわけやないとか……」 「ああ」
2021-12-25 21:05:33静虎はキー坊の頭を撫でる。 「サンタクロースへの"憧れ"や。それがあれば、お前はいつだってサンタクロースになれる」 それから、キー坊はPTAとか地域の催しでサンタクロース役を請け負うことになったのだった。
2021-12-25 21:06:06時間は現在に戻る。 熹一は、掌と拳を突き合わせた。 「よっしゃ! "暗黒武闘会"クリスマススペシャル開始するでっ! 今日のカードはこれやっ」 ドラゴン・ハウスの闘技場は熱にまみれていた。 闇の興行師としての宮沢熹一のクリスマスが始まった。
2021-12-25 21:06:34