『TOUGH』x『アークナイツ』SS 9話 『拈華微笑』

モチャーン三世 @mocharn3rd

小さめの会議室に、熹一とカシャ、ロビンとパフューマーがいた。熹一以外は席に座っている。 　ぱし、と熹一は一拍、拍手した。 「これは"パーミング"って呼ばれる技術や。手の冷えと目の疲れを軽減してリラックスさせる効果がある。これからワシのやることを真似してほしい」

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熹一が掌を互いにこすりはじめると、3人も同様にした。 「まず、10秒以上、できれば2～30秒以上、手をこする、それから目を閉じて、掌でお椀をつくるようにしてかぶせる。しばらく体の力を抜いて掌の温かさを感じる。ここで目が休まるんや」

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「たんに1分くらい仮眠をする手もあるが、手が温まることと目が温まることでの気分の切り替えはまた別モンやで」 　カシャが目を覆いながら訊く。 「たしかに気持ちいいけど……温めたおしぼりとか、あったかいアイマスクつけるのじゃダメ？」

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熹一は鷹揚に答える。 「別にそれでもええけど、道具不要、身一つでリラックスできるっていうのがポイントだからな。自分で自分を癒す技術は資産だからな」 　ロビンが目を覆いながらうんうん頷いた。 「おしぼりとか用意できる時ならともかく、用意がしにくい室外だとこれは使えそう」

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「ロビンは目の付け所が違うのう」 　パフューマーが目を覆うのをやめてぱちぱちと開閉する。 「手は目に直接触れてないとはいえ、ある程度清潔な時のほうがいいわね」

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「それはそうやな……ここにいるみんなは戦闘以外は目を凝視する系の仕事が多いと思うんで、目を上下左右、ナナメに動かしたりぐるぐる動かしたりするのも効果的だと思う」 　カシャが少し手を挙げる。 「ラナさんがいる前でこれ言うのも厳しいんだけど、もうちょっとラクな方法とかない？」

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「そう来るか、いちばん目を酷使してそうなカシャが」 「言っちゃ悪いと思うんだけどさ、"外に服を買いに行く服がない"みたいなヒト相手にどうするのさキー坊」

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「本格的にそういうヒトは、ワシに教えを乞うたりせんで。 　さっきも聞いたかもしれんが、カシャは"目を温める"っていう方法を知ってて実践してるからええんや」 「ううん？」 　カシャが首をかしげる。

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「大事なのは"自分で自分を回復させられる"っていう自信と、その方法を知っているっていう確信や。 　これは医療じゃなくてあくまで健康運動だから」

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熹一はこのころ、健康セミナーをロドスの中で開いていた。 　医療行為にならない程度の、健康にいい運動を教える。 　ケルシーや医療オペレーターたちに資料を提出して、許可を出された内容を公開する。

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知名度と信頼度なしに、自分の持つ技術など広められない。これは、灘・真・神影流を経営して思ったことだった。

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ロドス会議室。 　アーミヤがケルシーに問うた。 「なんで急に灘関係者が増えてるんです？」 　ケルシーがホワイトボードにビルの図形を描く。 「アレックスが所持している施設の捜査をしているのは知っているな」

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アーミヤが頷いた。ロドスには、前にチェンとの合同捜査で手に入れた、スプラトの隠れ家の情報があった。 「灘神影流がこの世界で流れるルートを制限するのが目的だ」 　ビルの横に丸を描いて、その中に「Nada」と書き入れる。

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「既にアレックスが伝授して流したものは戻せないが、あの道場が機能し続けていてはいけないから、破壊するなり接収するなりする必要があった」 　ビルの下に2つの矢印を引き、それぞれ「×」と、舟の図形を描いた。舟はロドスだ。

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スプラトが頷く。 「ええ。さすがに研究の成果を破壊されるのはもったいないですからね。それならと接収してもらおうということですよ」

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「そして、既にアレックスなりVR学習で灘の技を習得しつつある者たちにも制限が必要だ。あの道場には、前からイーサンやアンジェリーナたちに偵察させていた。それからアレックスのリストを参照し、龍門で犯罪の疑いのある者はチェンに情報を流しておいた」

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龍門近衛局を略したような施設と、コミック調のチェンの顔が描かれる。ロドスの図形から矢印が引かれて「情報」と書かれた。

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アーミヤの兎耳がぴんと立つ。 「いつの間にそんな……」 「イーサンがいろんな組織にいた頃に見たことがあるワルがちらほらいたようだからな。それからアレックスが持っていた情報も併せた」 「そういう意味じゃないですけど……続けてください」

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「それからキー坊に"指導"という形で突入させることで、VR灘神影流の修行者たちに喝を入れる形になった。あの施設に不法侵入しているという形でチェンに捜査させる手もあったが、ロドスの戦力になる者もいると考えて前者を採用した」

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「教え子の研究成果を吸い上げるのは楽しいですか？　ケルシー先生」 「楽しくない。君が"ロドスに匿って欲しい"という態度に、その対価をして技術と人材を得よう、という対応だ。

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ケルシーが深呼吸する。 「話を戻そう。ロドスがその力で道場を制圧するよりも、キー坊が"指導"したほうが灘神影流の本当の強さが体感できるだろうし、話を受け入れるだろうと考えた。これで先日のスプラトビル突入の話は終わりだ」

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アーミヤが顎に手をやって一度うつむき、それから顔を上げる。 「ケルシー先生、キー坊にロドスで道場を開かせようという話ですか？」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「そんな余裕はないだろう。ただ、アーミヤ、君は知っているはずだ。チェンとの合同捜査のときに、灘の技を悪用して辻斬りをした者を。そしてキー坊がそれに怒ったことを」 「……」

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アーミヤが再度うつむく。スプラトもあさってに目をやった。 　ケルシーは「Nada」の丸の傍に熹一とスプラトのアイコンを描く。

モチャーン三世 @mocharn3rd

「アレクサンドル、君は色んな者たちを弟子として迎え入れたな。凶悪な者、疑わしい者はチェンに任せた。そもそも練度の低い者は解放した。 　そして先に言った通り、灘の技術を覚えるルートはいま、ロドスにある。