銀狐の社

寺生まれの毛利さんシリーズ7話目です。  ※オリジネタ
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種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 携帯からポップなノリで歌い替えられた般若心経が流れる。毛利のためにダウンロードしたそれが、今は耳に付く。30秒ほど流れたその音楽は一度止み、すぐさま同じ音楽を繰り返したが、出る気にはなれなかった。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:01:47
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 曇り空の元、電灯をつけない薄暗い部屋の中、何を見るともなしにボーっと視線をさ迷わせる。最近では左目の熱を感じる事は随分と少なくなった。その代わり、腹の奥底から怒りが、臓腑を焼くような憤怒の炎が湧き上がり、無性に何かを殴りつけたくなる事が増えた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:02:28
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 俺にはまだその怒りを形にする術がない。だが、これが霊を祓う原動力になるらしい。グッと握り拳を作って掲げてみる。なんの変哲もないはずのその腕が、何故か紫色に燃えているようなビジョンと被り、更に握る力を強めた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:03:14
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「……家康は、何が言いたかったんだ」元に戻すってのは、いったい何をだ。毛利に言わせれば、今の俺こそが在るべき姿に戻っていっている状態らしい。元々このような力を持っていた記憶なんてない。なくなった記憶ってのが関係しているのだろうか。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:03:59
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 携帯は相変わらず場違いな明るい音を垂れ流す。それを手に取る事もせず、俺はふらりと立ち上がった。当てなんてない。なんとなく、この場所に居たくなかった。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:04:42
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 赴くままに足を動かしてたどり着いたのは、電車を一本乗り継いだ終点駅。ここまで来ると山ばかりが目立ち、後は畑と少しの民家と寂れた感じのするスーパーがポツンと突っ立っているだけだ。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:06:05
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 携帯は置いてきた。後でどれだけ嫌味を言われるか知れたもんじゃねぇが、それでもよかった。空はどんどんと雲行きを怪しくしていっている。もしかしたら降られるかもしれないと思いながらも、足は勝手に動いた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:06:50
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 一般のハイキングコースとは別の、地元民くらいしか立ち居らないんじゃないかというような細い道を見つけ、一つの山に上り始める。険しい道を進む時は頭を使う必要がなくて、少しだけ気分が救われた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:07:45
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「はっ、はっ……」息を切らしながら前を見れば、道が二つに分かれている。一つは、山頂に向かう道。もう一つは、見た目にはなんとなく枝が開けているような気がする程度の獣道。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:08:48
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 普通ならよっぽど山に慣れてでもいない限り、獣道の方は道があるなんて気付かないだろう。そのくらいのわかりにくさだ。けれど、その先に目を向けると、グラリと足元が揺らぐような怒りが込み上げてきた。確実に、何かが存在する。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:09:36
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null じっとりと湿った空気の中、汗を噴き出させながら道なき道を進む。半袖だったので所々で引っ掛けて血が滲んだ部分もあるが、そんな事も気にかからない。それよりも、この先に居るであろう奴をぶん殴りたくて仕方がなかった。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:10:49
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 早く、早くと急くような心の声に後押しされて、僅かに開けた所まで一度も足を止めずにたどり着く。息を整える間も惜しく辺りを見渡すと、小さな社を見つけた。森の中に埋もれるようにひっそりと作られたそれの前には、細いしめ繩が何重にも張ってある。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:11:41
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 近付いて見れば、もう社自体が古い物なのか雨風に曝されてボロボロになっていた。だというのに、しめ繩だけが間に噛まされた紙まで白さを保っていて、違和感がある。そっと触れてみれば、まだ縄の繊維が毛羽立ってもいなかった。やはり、新しい。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:12:40
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 何となしに手を動かして、俺はその縄を引き千切っていた。自分の手からダラリとはみ出す縄に、一瞬呆然とする。何故こんな事をしたのか、自分でも理解が出来ない。けれどそれを考える前に、無意識に身体が一歩後ろに飛び退っていた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:13:51
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 瞬間、何か素早いものが目の前を薙いだ。銀色が目の端に映り込んだかと思うと、今にも壊れそうだった社が急に吹き飛ぶ。違う、鋭利な何かで素早く切り付けられ、その破片が散らばったんだ。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:15:45
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 吹き上げられた破片が身体にぶつかるよりも早く、やはり無意識のまま身体の右側の空間を殴り付けた。グニャリという手応えと、ギャイインッ!!という犬の鳴き声のようなものが耳に入る。そのまま右に顔を動かして視界に入ったものを見、思わず目を疑った。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:16:58
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 銀色の毛皮を持つ、狼……違う、狐だ。どんよりとした空の元、木々によって更に薄暗い森の中だというのに、まるでそれ自体が光を帯びているのではないかと思うほど、銀がはっきり目に突き刺さる。形こそ獣だが、その光はまるで鋭い刃物のようだった。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:18:01
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 身を伏せて今にも飛び掛からんとする狐に対して、腹底に溜まっていた怒りが叫ぶ。      ―あれを焼き焦がせ   ―血ヘドすら燃え尽かすのだ   ―殺せ   ―簡単に殺してはならぬ   ―苦しめよ   ―生まれ出た事を懺悔するほどに   #kaidan_bsr

2011-09-03 02:19:30
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 頭の中で言葉が反響する。誰の言葉だ。   関係ない、殺せ―      グッと腰を落とし、狐を睨み据える。ギラギラと光る金色の瞳は俺を真っ直ぐに突き刺す。負けじと俺も拳を握り締め、睨む力を強めた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:21:34
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 巻き上げられた社の破片がパラパラと落ちる。その中でも大きな物が岩の上に落ち、カツン、と音を立てた瞬間、狐が牙を剥いて後ろ足で地面を蹴った。それを理解するより前に鋭い爪が肩に食い込み、バランスを崩して後ろに倒れる。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:22:41
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「あ、がッ!」ゴツゴツとした木の根や石が剥き出しの地面に押し倒された。腰辺りを強かに打ち付け、すぐには起き上がれそうにない。眼前には狐の牙が迫っている。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:23:43
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null けれど、頭はやけに落ち着いていた。この近さならば、当てられる。しめ繩を握り締めたままの拳を振り上げ、狐の鼻っ柱に思い切りブチ込んだ。ギャウンッ!!と悲鳴を上げてよろけた獣の首の毛を引っ掴み、もう一発殴りつける。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:24:41
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 死ぬまで殴りつけるつもりだったが、暴れて手に噛み付いてきたので舌打ちをして岩に叩きつけるようにして離した。空中で体勢を変えた狐は岩の上にスタッと着地する。開いた口からは俺の血と奴の血が混ざって流れ落ち、右側の犬歯は一本折れているのが見えた。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:26:05
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 噛み付かれた左手も、爪が食い込み流血している肩も、何故か痛みは感じなかった。ただその場所が燃えるように熱い。銀色の獣の方も、まだこちらに向かってくる気のようだ。勝手に口端がつり上がっていく。 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:27:33
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「来いよ化け物が!俺はテメェらなんかに殺られるようなタマじゃねぇぜ!!」身体を起こして笑いながら叫べば、狐は金の瞳をカッと見開き、もう一度飛び掛ってきた。拳を振り上げれば、視界の端で紫の炎が燃える。           「そこまでです」 #kaidan_bsr

2011-09-03 02:29:01