酒井啓亘京都大学教授のウクライナ戦争におけるICJ仮保全命令雑感

酒井啓亘京都大学教授のウクライナ戦争におけるICJ仮保全命令雑感
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酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ICJ仮保全命令雑感。暫定措置(1)ロに軍事活動即時停止(2)ロは命令・支援する軍事組織が自身の軍事活動を推進しないことを確保(3)両国とも紛争の悪化防止。(1)(2)で中ロの判事は反対票。モロッコの判事も実質的に反対(3)は全員一致。5名の判事が宣言、1名が個別意見。

2022-03-17 21:31:16
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ICJの仮保全命令には法的拘束力あり。命令不遵守自体より裁判所の立論に注目。仮保全段階は管轄権も一応の認定だけで後日覆る可能性も。ロの条約違反認定もこの段階では行われない。最終判断に予断を与えず(ただし中国の判事は本命令が予断を与えると批判)。

2022-03-17 21:31:59
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

管轄権の一応(prima facie)存在には紛争の一応存在が必要。反対派はロの武力行使は自衛権に基づき、ジェノサイド条約は無関係と主張。命令では、ウの行為が同条約上のジェノサイドか、さらにロの武力行使が同条約の防止義務の履行手段かで両国間に見解対立。同条約上紛争の一応の存在。

2022-03-17 21:32:59
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

論点の1つは、ロの武力行使が自衛権のみに関係するのでジェノサイド条約は無関係とみるか、ウによるジェノサイドを主張することで武力行使により同条約のジェノサイド防止義務をロが履行しようとしたといえるかどうか。後者なら同条約の裁判条項で管轄権が一応確認可能となる。本命令は後者を支持。

2022-03-17 21:34:07
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ICJは武力行使に係る行為でも2以上の条約(ex.国連憲章とジェノサイド条約)に関係する可能性を排除せずこれまでの判例の立場を踏襲。南シナ海やチャゴス仲裁のように紛争を性格づけて真の紛争を探求する立場と対照的。ジェノサイド条約の裁判条項では条約の解釈・適用のほか履行も注目すべきか。

2022-03-17 21:35:53
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ジェノサイド条約締約国は誠実にジェノサイド防止義務を履行して国連の目的と一致する必要。同条約が締約国の一方的武力行使は許容しているか疑わしいとして、この段階ではロに不利な理由付け。ウにはロの軍事活動に服しないplausibleな権利あり。その不尊重は回復しがたい侵害を惹起し緊急性あり。

2022-03-17 21:37:03
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

仮保全措置は裁判所の職権で要請以外の措置も可能。(1)(2)はウ寄りだがジェノサイドへの言及回避。(3)はウクライナにも課されているのでウ指名の特別選任裁判官のほか、ジャマイカの判事も賛成票だが宣言で異議。

2022-03-17 21:37:38
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

中国・モロッコの判事はNATO空爆事件仮保全命令と本命令とが矛盾すると非難。対してドイツの判事は両事件の違いを指摘。前者の事件では空爆行為がジェノサイド条約に関係することをユーゴが証明せず、後者はウがジェノサイドを行ったとロが主張することで同条約に関係することをウが証明した点。

2022-03-17 21:38:20
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

命令はジェノサイドの存在・不存在に予断を与えないよう配慮しつつ、両国に紛争悪化防止を指示してバランスをとる内容。命令理由の中ではロによる武力行使が文民等に大きな被害を生じさせていることを事実として述べる一方、これに懸念を表明するような表現は控える抑制的な態度。

2022-03-17 21:38:59
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

司法機関としての役割を現実的に考えるべき。裁判で紛争がましてや武力紛争が解決されるはずがない。最終的な解決は当事者の政治的意思に。裁判所の判断は、紛争の法律的側面につき解決策を提示し、残された政治的に解決されるべき点を明確にするもの。本命令はそのための準備段階であることに留意。

2022-03-17 21:41:27
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

この仮保全命令が有するかもしれない政治的インパクトについてはその道の専門家の検討に委ねますが、こうした国家を部分的にでも法的議論の舞台に引きずり出す努力を積み重ねることこそが国際社会における法の支配につながるはずと信じています。

2022-03-17 21:49:53
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

その意味では、ロシアが欧州評議会を脱退して(正式には追放されてですが)、欧州人権条約がロシアの事案にいずれ適用されなくなり、欧州人権裁判所の舞台から逃げ去ったことは、きわめて残念なこと。

2022-03-17 21:52:06
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ロシア大統領府、国際司法裁の軍事行動停止命令を拒否  afpbb.com/articles/-/339… @afpbbcomより

2022-03-18 07:49:42
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

国際法に基づく判断への挑戦。国家が国際法をつくり、その国際法を実施する。だから国家の同意こそが国際法の基礎であり、国際法を機能させる。国際法の正統性と実効性は国家の同意に由来するという伝統的な考え方がそこにはある。

2022-03-18 07:49:57
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

しかし国際法はその形成によりそれ自身の正統性を保持するようになる。国際社会は国家以外のアクターを取り込み、国際法も国益以外の価値を保護法益とすることで発展する。社会規範の一部としての国際法は社会意識・正義の進展に応じて発展を遂げる。地球環境保護には表立った批判はできない。

2022-03-18 07:50:34
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

他方、国際法が希求する価値の実現が国家の行動に委ねられる部分も多く、最終的に国際法の実効性が担保されるための装置が国家の同意であることもまた厳然とした国際社会における現実。国際法の作用はそれ自身の正統性と国家に依存する実効性との間の乖離で揺れ動く。

2022-03-18 07:51:17
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

自国の安全保障上の利益が平和や人権に優位すると考える国家の思考は、国際法の観点からは、国家中心的な伝統的国際法規則に正統性を認め続けてその実効性確保に走る姿に見える。現代国際法規則とその価値が有する正統性を犠牲にして。

2022-03-18 07:52:06