安保学者は「予測」とどう向き合っているか・・・ウクライナ戦争を題材として

幸か不幸か、OIST型のモデルが「まだ」適用されていない時代における「安保研究者の向き合い方」が明示されていたので、ここにまとめる。
1
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

予測云々について。自分的には違和感がある。まあ、世界に向き合う態度が違うというだけのことだろうけれど。 安全保障研究において、予測が外れるのはいつものことだ。冷戦の終結も、北朝鮮が崩壊しなかったことも、米中の軍事力拮抗も予測できてない。

2022-04-10 11:21:38
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

そもそもトレンドならともかく、個別のイベントの予測はまずできない。当たったとしても偶然だ。理由はすべての情報が手に入るわけではないから。フィアロンのいう通り、完全情報が実現し、で約束遵守の問題がなければ戦争は起こらないだろうが、そもそも完全情報が現実世界では実現しない。

2022-04-10 11:21:38
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

完全情報でないのは研究者だろうがOSINTだろうが情報機関だろうが同じこと。そうなるとトレンドを読むことはできてもイベントの予測はできない。例えてみれば、野球でもサッカーでも、1シーズンを通しての順位を予想する方が、個別の試合の勝敗を予想するより簡単だというようなものだ。

2022-04-10 11:25:00
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

ではどうやって未来の分析をするのか。そこで使われるのがシナリオ研究。それなりにもっともらしく、かつ「こうなったら困る」シナリオをいくつか作り、対応を考えていく。よく誤解されるが、シナリオは未来予測ではない。未来の不確実性をストーリー化して議論しやすくするツールにすぎない。

2022-04-10 11:29:03
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

シナリオ研究にはそれはそれで弊害があると最近は考えているが、ここでは省略する。よく準備されたシナリオはそのシナリオが発生するにあたっての条件が明確に示されている。私は2016年の大統領選挙にあたり、トランプ当選のシナリオを作った。これは私がトランプが当選すると思っていたわけではなく、

2022-04-10 11:36:40
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

当選する時の条件を整理したもので、その条件を前提としてその後の展開も描いてみたが(ヒラリー当選のシナリオも作った)、その後のトランプ政権の展開はそのシナリオの範囲を大きく外れるものではなかった。

2022-04-10 11:36:42
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

繰り返すが、これは私が選挙結果の予測に成功したということではない。複数作ったシナリオの1つが実現したというだけのこと。 安全保障においては、こうやって複数の可能性を考えていくので、当たったとか外れたとかそういう判断基準はそもそも重要じゃない。

2022-04-10 11:36:43
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

また、特に戦争の場合は、ルトワックのいう逆説性の論理も当てはまる。戦争が起こると予測し、準備していれば戦争が実際に起こる可能性は下がる。逆に戦争が起こらないと予測し、無防備でいれば逆に戦争が起こる可能性は高まる。

2022-04-10 11:42:48
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

その意味で、客観的な立場からの予測を発言すればいいということではない。実際、私はこれで物凄く後悔していることがある。

2022-04-10 11:42:49
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

もし予測が当たりまくるという人がいたら、そもそも反証可能性がある形で発言していないと思った方がいい。 将来予測で重要なのは前提条件をはっきりさせること。そうすれば、予測が外れたときの修正もロジカルにできる。問題は適切な前提条件を選び出すことで、予測そのものじゃない。

2022-04-10 11:44:47
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

ところで、「核を持つ好戦国が戦争を起こせば、その核が他国の介入をも抑止してしまうという現実に打ちひしがれている」核抑止論者って誰だろう?私??これは核抑止論の予測そのもの。

2022-04-10 12:10:59
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

しかも私を含む抑止専門家の国際コミュニティはまさに「核を持った現状打破国との戦争」に何が必要かコロナ前から議論してきた。そこでは 、抑止、ディエスカレーション、核使用への対処、戦争終結といった論点が含まれている。私のメディアでの発言の基礎には、こうした議論の積み重ねがある。

2022-04-10 12:11:00
高橋 杉雄/Sugio @SugioNIDS

いまの戦争は、そうした議論のなかで「考えてきた状況の1つ」。ウクライナでの戦争は、台湾や朝鮮半島とならんで「起こる可能性のある戦争」と考えられ続けてきたのです。 (以上)

2022-04-10 12:13:19