何を話すのだろう。
初めて食べた真っ白なパンがとても柔らかかったこと、一緒に出たポタージュスープやら肉やら野菜やらがとても美味しかったこと、初めて眠ったベッドの暖かかったこと。子供のような明るさで、驚きと楽しさと嬉しさを話す。
2011-09-26 05:12:46冬に暖炉にあたれること、常に屋根のある場所で眠れる安心のこと。季節にあった良い服を着れる事、読みたい本を読む事が出来る事。日々をある程度満足に過ごせていること。そういう事を話すのだろう。
2011-09-26 05:19:03初めて食べた白パンは、初めての"仕事"のせいでどうやっても胃に入らず、何度も吐いてしまった事。真っ白なスープがどれほど飲みづらく感じたかという事、肉類を口にするたびに生臭さと生暖かさを、吐息の煩さと臭いのことを思い出してしまって、全く口にしなくなった事。
2011-09-26 05:31:08初めて眠った上等なベッドは確かに暖かかった、でもそれはすぐ側に自分を抱く誰かがいたからでもあった。常に屋根の下に居なければならない穏やかな絶望、破り捨てられる為に美しい服を選ぶ寂しさ、どんなに本を読んだとしても、直接目にする事の出来ない世界の数々。
2011-09-26 05:35:45身体は子供を孕まない、代わりに心が狂気を孕む。訥々と言葉を零す度に、視線はずっと遠くへ向かっていく。あの時の死の向こう側、それはもう何一つ自分の経験だと実感出来ない。探る様子は、物語を思い出すのにも似ている。
2011-09-26 05:42:25何処かで青ざめて止めるんだろうか。そうしたらきっと、もういいの? と笑うんだろうな。いたずらっぽく、子供らしい笑みを浮かべて。
2011-09-26 05:44:48地雷を踏まれる事さえなければ、テーブルマナーを覚えるのに苦労した話だったり、様々なルールとそれについての失敗だったり、同僚から又聞きしたおかしな話だったり、笑い話で済むような話ばかりをするんだろうな。
2011-09-26 05:48:19外の話には飢えているだろうな。新聞では手に入らないような、例えば川辺に季節の花が咲いた、新しく出来たパン屋が美味い、近所で結婚した奴がいる、雨上がりに虹を見た、そういう話かもしれない。
2011-09-26 05:55:16経験に基づくエグい話――さっきの白パンの話だったりは、好奇心に吸い寄せられた猫を殺すつもりでするんだろうな。でも遮られず、じっと真剣に聴かれてたら、何処かで「ねえ、もっと話さなきゃだめ?」って寂しそうに言うんだろうな。
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