West Beachで飼ってる犬。

コウルカ。付き合ってない。エロない。でも犬と飼い主。
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朱羽 @blackxorange

朱羽さんは、「夜の公園」で登場人物が「裏切る」、「犬」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://t.co/htIj5r3 #rendai オーケー。待ってろ、3秒だ。

2011-06-12 02:18:46
朱羽 @blackxorange

メモ:「『わん』って言ってみろよ、オラ」

2011-06-12 03:12:00
朱羽 @blackxorange

この遊びを提案したのは、俺の方だった。  切っ掛けなんてのは、結構どこにでも転がっている物で、その日もなんて事ない場所から姿を現した。帰りにコンビニに寄ると言ったのは、コウだ。毎月読んでる漫画雑誌だか何だかの発売日だそうだ。俺は先月読んだ漫画の内容を次の付きまで覚えていられない。

2011-06-12 19:02:56
朱羽 @blackxorange

だからコウが読み終えたそれをぱらぱら見たりはするけど、さして興味はなかった。単車を降りて店内に入って行く後ろ姿を見送って、何をするでもなく後部座席へぼんやりと跨ったまま運転手の帰りを待つ。

2011-06-12 19:04:48
朱羽 @blackxorange

未だコウの体温が残っているシートを指先でつ、と撫でると、なんだか酷くいやらしい事をしているみたいで思わず笑いが漏れた。駐車場に面した壁は一面ガラス張りで、コウが本のラックの中を探している姿も遮りなく見る事が出来る。その姿を追いながらゆるゆるとシートを撫で付ける。

2011-06-12 19:07:12
朱羽 @blackxorange

そんな不毛な、しかも変態じみた行為を繰り返していたからか、ふと隣を横切った気配に気付くのが遅れた。甘い匂い、長い髪。肩ぎりぎりまで見える袖とホットパンツという、健康的なまでに露出度の高いお姉さんが、駐車場を横切ってコンビニの前へと歩いて行く。

2011-06-12 19:09:04
朱羽 @blackxorange

その足元を見て、思わずぎょっとした。お姉さんの隣を、膝くらいの高さまで背丈のある大型の犬が歩いていたからだ。ぞわ、と背中を這い上がる寒さに、僅かに震えた。コウ、と小さく洩らした助けは届かず、まだコウはラックの中を物色している。バカ。弟がピンチな時に漫画なんて、どうでもいいだろ。

2011-06-12 19:14:48
朱羽 @blackxorange

コンビニ前に備え付けられた公衆電話の柱にリードを結び付けて、お姉さんも中へと入って行く。俺も、コウの元に行きたい。けど、中に入るにはあの犬の傍を通らなくちゃいけない。あのリードの長さから、入口ギリギリを通ったとしても、届いてしまう。怖い。

2011-06-12 19:15:55
朱羽 @blackxorange

単車の上は、犬のリードを精一杯伸ばしても届かない。だから、ここに居れば、安全だ。そう言い聞かせるようにして、犬から逸らしていた視線を元に戻した時、俺は絶句した。結びが甘かったのか、犬のリードは柱に巻き付いてなんか居なかった。赤いリードを自分で咥えて遊ぶ犬の姿に、眩暈がする。

2011-06-12 19:18:12
朱羽 @blackxorange

情けない話だが、怖いものは怖い。ヒーローにだって弱点はある。それがあの犬ならば、俺は逃げる事が正義だと信じている。そっと、音を立てないようにシートへ手を付く。ゆっくりと地面に脚を下してから、犬がこっちを見ないようにと出来るだけ息を殺して他に止められていた車の後ろに隠れた。

2011-06-12 19:21:11
朱羽 @blackxorange

その時だった。間の抜けたチャイムのような独特の音を立てて、コンビニのドアが開く。次いで直ぐ、ルカ、と聞き慣れた声がして、俺は簡単に返事をしそうになる声を飲み込んだ。「ここも売り切れだ、他にどっか売ってるとこ――ルカ?」

2011-06-12 19:24:25
朱羽 @blackxorange

単車の上に俺が居ない事に漸く気付いたのだろう。コウの声が途切れる。コウ、ここだ。助けて。そう言いたくても犬に気付かれるのが嫌で声が出ない。はっきりとした記憶もないのに、襲われた時の恐怖だけが胸中を占める。「おい、ルカ」コウの声は、思ったよりも焦っていた。

2011-06-12 19:26:12
朱羽 @blackxorange

そんなに待たせた事を気にしていたのか。少し意外に思いながら、犬には見えないよう車の影から手だけを出す。ひらひらと振ったそれに気づいたらしく、うろついていたコウの声が徐々に近付くのが判った。「…オマエ、何してんだよ…」「しーっ…犬、いるだろ」「……あー…」

2011-06-12 19:28:03
朱羽 @blackxorange

指差した先を見て、コウも少しだけ顔を顰める。犬は、いまだ自分のリードを咥えてはしゃぎまわっていた。コウが隣にいると、幾分冷静に、その姿を見る事が出来る。「コウ、バイクこっち持ってきて」「はぁ?」「俺、無理。あいつに近付くの」俺の犬嫌いは、コウが一番よく知っている。

2011-06-12 19:31:57
朱羽 @blackxorange

コウが一番傍にいたし、コウだけが犬から俺を守ってくれた。だから、まるで高校生のしかも「あの桜井兄弟」として恐れられているとは思えないような発言も、コウは溜息一つで了承してくれた。「ちっと待ってろ」そう言って離れていく背中が遠くなると、また犬への恐怖で支配されてしまう。

2011-06-12 19:34:42
朱羽 @blackxorange

いや、でも、まだ距離があるはずだ。そう思って、敵との距離を確認しようと、少し車の陰から乗り出したのが、失敗だった。目が合った。つぶらな瞳が、俺を見つめる。げ、と思ったその瞬間、真っ白なふわふわした塊が俺に向かって猛ダッシュで走って来た。

2011-06-12 19:35:57
朱羽 @blackxorange

「…っ…こ、う、コウ!コウ!!」絶叫に近い俺の声に、単車のエンジンを掛けていたコウが振り返る。あっという間に詰め寄る塊に、立ち上がる事も出来ない。襲われる、噛まれる。頭の中が真っ赤な色に染まっていく感覚に、コウの声が重なった。

2011-06-12 19:40:12
朱羽 @blackxorange

でも、それ以上にはっきりと聞こえたのは、聞き慣れない高い声だった。「待て!」強く瞼を閉じたせいで、状況は判らない。それでも、襲ってくると予想した痛みも獣の匂いも、何もなかった。

2011-06-12 19:41:29
朱羽 @blackxorange

恐る恐る目を開けてみると、俺の目の前にあの白い毛の塊がいた。はっはっと舌を出して、嬉しそうに尻尾を振っている。コウが走って来る。抱き起こされて、漸く尻もちを付いたような格好で犬の前に座り込んでいた事に気付いた。「ご、ごめんなさい!」もう一つ、やっぱり聞きなれない声が近付いてきた。

2011-06-12 19:44:04
朱羽 @blackxorange

すらりと伸びる白い脚を辿るように視線を上げる。小さなコンビニ袋を指先に引っかけたその人は、さっき俺の横を通り過ぎた露出の激しいお姉さんだった。犬が振り千切れそうな程尻尾を振って、お姉さんの足元をぐるぐる回っているのが、視界の端に見えた。

2011-06-12 19:45:57
朱羽 @blackxorange

コウとお姉さんが話しているのを横目に、俺は再び単車の上で座り込んでいた。まだ動悸が収まらない。小さな犬でさえ嫌なのに、あんなでかい犬に襲われかけただなんて、悪夢も良い所だ。何度目かの溜息を吐いた時、漸くコウが戻って来て、シートの前へと跨った。

2011-06-12 19:48:53
朱羽 @blackxorange

「悪かった、ってよ。リード結んだつもりだったって」「ごめんで済むならヒーローはいらない」「んな怒んな」コウに促されて視線を向けると、お姉さんがぺこぺこと頭を下げている姿が見えた。その横にいる犬も怒られたらしくさっき程ははしゃいでいない。

2011-06-12 19:50:37
朱羽 @blackxorange

一応愛想笑いと共に手を振って、コウの背中に頭を預ける。コウが何か小さく言ったけど、聞こえなかった。とにかく一刻も早くその場を離れたくて促すと、少しだけ困ったように笑う声の後、単車は軽やかに道路を走りだした。

2011-06-12 19:54:43
朱羽 @blackxorange

あれが切っ掛けだと言うのなら、本当に切っ掛けってのは些細な所から姿を現す物だ。その後に寄った別のコンビニで、コウは普段は買わないようなアイスを俺に奢ってくれた。

2011-06-14 00:05:22
朱羽 @blackxorange

なんで?と聞けば、要らねえなら返す、としか言わなかったから、俺は黙ってサイダー味の安いアイスを受け取って、運転をするコウの背中でひんやりと甘いそれを完食した。美味しかったけど、コウが何を考えているのか判らなくて、普段より少しだけ舌が痺れるような感覚を強く感じたのを、覚えている。

2011-06-14 00:07:15