ちなみにヤマトゴキブリ(おじさんのモデルにしてるゴキブリ)のメスは飛べないのね。だから友恵さんは逃げ遅れて人間に殺されちゃったんです。だからおじさんは同じメスである楓ちゃんを今度こそしっかり守らないといけないと思っている。
2011-10-06 01:23:40いや、違うんだ、ドロボーとかじゃなくて。おじさんはしどろもどろになりながら答えます。おじさんの動きと一緒にゆんゆんと揺れる触角。これだけは元の姿のものと同じでした。
2011-10-06 01:26:54あれって・・・あれって・・・。バニーちゃんは頭の中に、思い出したくもないあの姿をもやもやと描きました。すると同時におじさんは言いました。俺はその・・・お前がずっと前に見逃してくれた・・・。
2011-10-06 01:40:35ゴキブリ。なんだ。 申し訳なさそうにバニーちゃんを見るおじさん。自分の思い浮かべていたものとおなじ単語を耳にしたバニーちゃん。また一瞬の間ができます。
2011-10-06 01:44:41そしてさっきと同じように間が出来たのは一瞬で、バニーちゃんはおじさんに掴みかかります。あなた何言ってんですか、泥棒に入ったのがバレたからって言い訳だなんて。しかもゴキブリだって?気持ち悪い。どうせこれも作り物なんでしょう。そう言っておじさんの触角を引っ張ります。
2011-10-06 01:48:18急に掴みかかられたおじさんは驚き混乱し、何も抵抗できませんでした。触角が強い力で引っ張られ、やっと我に返ります。痛い!作り物なんかじゃない、本物だ!
2011-10-06 01:51:32いくら引っ張っても取れない触角。よく見ると、頭からちゃんと生えています。バニーちゃんはすぐに手を離し、後ずさりました。 触角の付け根を撫で摩り、涙目になったおじさんは言いました。本物だろ?
2011-10-06 01:53:25触った時の感触を思い出せば思い出すほど、全身に鳥肌が立ちました。プラスチック等とは違う感触。本物だと確信したバニーちゃんは、おじさんを置いたままバスルームへと走りました。
2011-10-06 01:58:11石鹸でバシャバシャと手を洗うバニーちゃん。あれがほんとにゴキブリだったなら、僕はゴキブリを素手で触ってしまったことになる・・・。考えれば考えるほど気分が悪くなりそうで、ぶるぶると頭を振り無心に手を洗いました。
2011-10-06 02:01:15一人残されたおじさんは、どうしていいのか分からなくなりました。元の姿に戻れればすぐにでも住処へ戻るのに。夢なら覚めて欲しいと思いました。泥棒だと勘違いされずに済んだものの、本物のゴキブリだと知った瞬間のバニーちゃんの表情はやはりいいものを見る目ではありませんでした。
2011-10-06 02:05:23しばらくぼーっとしていると、バニーちゃんが何かを持って戻ってきました。それ、何?新聞です。しんぶん?バニーちゃんは床に新聞紙を広げました。ここに座ってください、はやく。そう言っておじさんを急かします。
2011-10-06 02:10:09え?え?とおじさんは頭の上にはてなを浮かべつつも、バニーちゃんの言われたように、新聞紙の上に正座しました。よくわからない状況と、バニーちゃんの鋭い目付きにおじさんは怯え、触角を垂らし、ただただ膝の上に置いた自分の手元を見つめました。
2011-10-06 02:14:09あなた、本当にゴキブリなんですか。頭上からバニーちゃんの声がします。ぱっとバニーちゃんを見上げました。見下ろされているとはいえ、やっぱりいつもより目線が高いなあと、おじさんは思いました。
2011-10-06 02:16:08ちょっと、答えてください、あなたゴキブリなんですか、本当に。もう一度バニーちゃんが言いました。おじさんはハッとして、すぐに頭をぶんぶんと縦に振りました。一緒になって揺れる触角。バニーちゃんはまた嫌そうな顔をしました。
2011-10-06 02:20:10信じたく有りませんが、その気味の悪い触角は本物のようですし。バニーちゃんはおじさんから少し離れたところに座りました。それで、どうしてそんな姿に?続けて問いかけます。
2011-10-06 02:28:17おじさんは今までの経緯を話しました。見逃してくれたことにお礼を言いたかったこと、その時は驚かせて申し訳なかったということ、どうして人間になってしまったのかはわからないが、昨日の夜にそう願って眠りについたこと。
2011-10-06 02:31:28バニーちゃんはずっと黙ったまま話を聞いていました。おじさんが話し終えると、小さくため息をつき話し始めました。 あなたは僕があの日、あなたを善意で見逃したと思っているようですが、それは勘違いです。
2011-10-06 02:37:41ただ電話が入り、その場から離れざるをえなかっただけです。バニーちゃんは静かに言いました。おじさんは自分の勘違いに顔を赤くしていいのか、青くしていいのか、よくわかりませんでした。ただ、ぽかんと口を開けてバニーちゃんを見つめることしか出来ません。
2011-10-06 02:41:54そんなおじさんにまたため息をつき、バニーちゃんは言いました。で、どうして人間になりたいと思ったんです、まさかそのお礼を言うため? おじさんは、うっと押し黙り、また自分の手元を見つめました。
2011-10-06 02:45:05それもあるけど、もう一個あって。もごもごと呟くようにおじさんは話し始めました。バニーちゃんが毎日一人で寂しそうにしているから。人間になってバニーちゃんと友達になれたら、きっとバニーちゃんも寂しくないだろう。
2011-10-06 02:50:12そう思って、人間になりたいと願ったのだと、おじさんは言いました。バニーちゃんはそれを聞いて嫌そうな顔をしました。どうして僕がゴキブリなんかと友達にならないといけないんです。冷たくバニーちゃんは返しました。
2011-10-06 02:52:23そこまで言われると、おじさんはもう何をどう言っていいのかわからなくなりました。見逃してくれたのは勘違いで、ゴキブリの友達なんていらない。よくよく考えて見れば全てバニーちゃんの言うとおりでしたし、自分でもなんとなく分かってはいました。
2011-10-06 03:00:42数秒の沈黙。おじさんが口を開きました。 ごめんな。勘違い多いし、お節介がすぎるって、他の奴らにもよく注意されんだ俺。すぐこっから出て行くから。
2011-10-06 03:09:22