とある審神者と鶴丸国永のはなし

女審神者と刀剣男士の、非日常な日常
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ホクギ °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° @hokugi

「白菊に囲まれた鶴丸が見たい。きっと凄く綺麗」 桃、黄、白と咲き誇る菊の景趣サンプルを見ながら、ふと思ったことをそのまま口にした。少し肌寒くなった夕暮れの縁側で、何の気なしに隣で庭を眺めていた鶴丸、今剣、秋田が一斉にわたしを見る。そうして次に、今剣と秋田が鶴丸を見た。何だなんだ?

2018-10-10 00:29:01
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三振りの様子がいつもと違うなとぼんやり考え始めた時、わたしを見たままの鶴丸が少し姿勢を正し、抑えた声で言う。「…驚いたな、きみは俺を折る気なのかい?」滅多に見ない真顔で聞かれ、そうしてようやく自分の失言に気付いた。そんな訳ないと返す言葉もなかなかマトモな声にはならず。

2018-10-10 00:43:51
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まさか自分のこころの奥底にはそういう願望があるのかと、焦りと恐怖で目をぐるぐるさせていたら、今剣がとん、と庭の石畳に降り空気を変える様にくるりと舞った。「あるじさま、いまのはまずいですよ」可愛らしい声色で咎められて、素直に反省する。ぐるぐるしている場合ではない。きちんと謝らないと

2018-10-10 00:49:42
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「ごめん。鶴丸も、本当にごめんなさい。純粋に綺麗だなって思っただけなんだ。けど、口に出したのは考えなしだった。嫌な気持ちにさせちゃったよね」淡い金色の目は、相変わらずこちらをじっと見つめている。その目をなんとか見つめ返して、ひと息に言い切った。

2018-10-10 00:55:50
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微妙な空気のわたしたちを、秋田が心配そうに見守っている。今剣はというと、言うことは言ったからあとはあるじさま頑張って!というオーラを出しながら、庭の木で遊び始めたらしい。幹を登る下駄の音がした。見てはいない。だって、目の前の鶴丸から目を逸らせなかった。向こうにそんな気は無いかも

2018-10-10 01:00:58
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知れないが、正に蛇に睨まれた蛙状態で、わたしは気を振り絞ってその目を見つめ返さなければならなかった。金色に囚われていたのは、時間にすればほんの数秒。ふいに鶴丸はいつもの飄々とした雰囲気と表情に戻り、笑いながらわたしの頭を揉みくちゃに撫で回した。わたしはされるがまま、頭を

2018-10-10 01:09:03
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ぐりんぐりんと回していると、焦った声で秋田が止めに入る。「鶴丸さんっ、主様の首、首が…」「おお、すまん。撫で甲斐があったもんだから、つい」全くすまなさそうじゃない鶴丸の謝罪を受け入れ、絡まった髪の毛を手櫛で撫でとかす。「怒られても文句言えないし、いいんだよ、秋田。ありがとう」

2018-10-10 01:16:06
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心配そうに眉を下げて見上げてくる秋田を安心させたくて、首はなんともないからと微笑んだ。そのわたしの言葉を聞いて、鶴丸は心外だと言うようにわたしに話し始めた。「怒ってはいないさ。寧ろ、これ以上ないくらいの驚きを与えてくれたんだ。感謝こそすれ、怒る理由がどこにある?」

2018-10-10 01:22:50
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「怒ってないの? 酷いこと言っちゃったのに? やっぱ神様だから怒らないの?」矢継ぎ早なわたしの疑問に、鶴丸はちゃんと応えてくれる。「本当に怒ってはいない、驚いただけだ。まぁ、きみが酷いことを言ったのは事実だから、物を言うときはもう少し考える癖をつけろよ。俺みたいに素直な刀ばかり

2018-10-10 01:28:19
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とは限らんからな。あと、神様だって怒るときは怒る」父親が子供に言い聞かせる様な、ゆっくりと、そしてしっかりとした答えが返ってくる。「俺達はひとの姿をしているが、その本質は刀で、そして付喪神だ。人の子とは価値観が違う。かと言って、きみ達と相容れぬ存在という訳でもない。理解はできる。

2018-10-10 01:36:08
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全てとは言えないが…きみの価値観を理解し、認め、尊重しようと努力をするし、そうしたいと思っている」いつになく饒舌な鶴丸に、秋田はびっくりした目を向けた後、神妙に聞き入っていた。わたしもびっくりしている。そして、感動している。ああ今、紛れもなく、鶴丸がレア太刀に見えている。いつもの

2018-10-10 01:42:44
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驚きを求めるやんちゃじじいの面影や、戦の時に見せる鋭い切っ先の様な鶴丸はいない。今の彼は、レア太刀で、付喪神で、御物・鶴丸国永だ。わたしはその刀の…鶴丸の主なんだ。改めてそう認識した途端、こころにじーんと何かが染み入る。「そうなんだ…そっか、そっか…。ありがとう、これからも

2018-10-10 01:52:03
ホクギ °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° @hokugi

宜しくお願いします」そう言って、鶴丸と秋田にぺこりと頭を下げる。わたしの言葉に鶴丸は笑って宜しくと返し、秋田はぺこぺことお辞儀を繰り返した。 「なあきみ、菊の景趣が手に入ったら、その日は俺を近侍にしておいてくれないか?」「言われなくても、鶴丸はいつも近侍だよ」「念の為だ、念の為」

2018-10-10 01:58:33
ホクギ °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° @hokugi

「わかった、約束する」「恩にきる。…そうしたらその時は、色とりどりの菊に囲まれた俺がどういう風に見えるのか、きみの感想を教えてくれ」「一番に?」「そう、一番に」「そんなの、綺麗に見えるに決まってるよ。見なくても分かる」「見て初めてわかるものもあるだろう?」「たしかに…うん、了解」

2018-10-10 02:06:03
ホクギ °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° @hokugi

終わる 白い菊の中に佇む鶴丸が見たいな〜と思ったけど、白菊は仏花によく使われるから、鶴丸が白菊に囲まれるということは、ある意味… と録でもない妄想をしたことから始まった。刀剣男士に人としてあって欲しい傍ら、刀としての矜持も捨てて欲しくないというワガママな主。それはわたしだ。

2018-10-10 02:11:18