私は『まれ』を見て以来、篠﨑絵里子さんのファンです。ファンといっても『まれ』と『紙の月』と『コピーフェイス』と『グッドワイフ』と新旧の『クロサギ』しか見ていないのですが、私はあまりドラマを見ないので、その割には見ているほうだと思います。
2023-02-28 19:03:00ドラマは脚本だけでできるわけではないので、脚本家さんのファンという言い方がどの程度成り立つのかわかりませんが、私から見て、篠﨑さんが手がけたドラマには、どれも構成の美しさと展開の速さがあり、そこに魅力を感じています。本稿もそのあたりを中心に書いていけたらと思っています。
2023-02-28 19:03:33なお、本稿で話題にするのは、主にドラマの構成に関することであり、演技や演出や音楽やカメラワークや美術装飾のことなどは一切わからないので、割愛させていただきます。
2023-02-28 19:03:56【目次】 [1] 初期設定 [2] 疾走感 [3] 立体交差感 [4] ゆるい回 [5] 《異所同形》の分類 [6] 《同所異形》の事例 [7] 二人の物語 [8] 涙・月 [9] その他
2023-02-28 19:15:50【参考】 漫画 下記「クロサギ」シリーズ 黒丸, 夏原武(原案) 小学館 『クロサギ』1-20巻 2004-2008 『新クロサギ』1-18巻 2008-2013 『新クロサギ 完結編』1-4巻 2013-2014 『クロサギ再起動』2022 (上記の出版年は電子書籍のもの)
2023-02-28 19:16:38ドラマ 『クロサギ』2006 TBS 『まれ』2015 NHK 『グッドワイフ』2019 TBS(原作はアメリカのCBS) 『クロサギ』2022 TBS
2023-02-28 19:16:53[1] 初期設定 このドラマは、長い原作を少ない話数にまとめたということもあり、高速かつわかりやすい情報提示がされていると思います。そこでまず#1(第1話)を例にとり、その特徴を分析してみたいと思います。
2023-03-01 18:04:31といっても、しょせん素人の思いつきの域を出るものではないのですが、とりあえず《同所異形》《異所同形》《異時同形》という三つのパターンを抜き出してみることにします。
2023-03-01 18:04:53[1-1] 奥村の事件《同所異形》 #1 では、最初の数分でいきなり一つの事件の結末部分が示されます。これにより、このドラマの基本的な構図と代表的な登場人物が紹介される形になっています。
2023-03-01 18:11:28すなわち、詐欺師(ここでは奧村)と、それを狙う詐欺師(黒崎)と、詐欺師を追う警察(神志名ら)が一つの場所に集まり、そこをすり抜けた黒崎が一般人(氷柱)と出会うわけで、これがこのドラマの基本の形ともいえます。
2023-03-01 18:11:52このように、同じ場所に異なる種類の人や物事が集まることを、本稿では《同所異形》と呼ぶことにします。これ自体はとくに変わった現象ではありませんが、この現象を利用して、基本設定と中心人物を一気に見せたところが、この最初の部分の特徴と思われます。
2023-03-01 18:12:15そしてその後、#1 が終わるまでに、他の主要人物、すなわち詐欺師系の主従コンビ(桂木と早瀬、御木本と垣根、白石と榎木)や一般人(吉川一家、ゆかり、鷹宮ら)も順次姿を見せて、初期配置が整うことになります。
2023-03-01 18:12:35まず講演をしている春日の姿(この時点では名前は不明)が映り、次に桂で春日の名前と写真が紹介され、さらに吉川家で辰樹の口から春日の名前が出た後、やってきた黒崎から春日を詐欺師と言われて辰樹が驚く、という導入部があります。
2023-03-01 18:13:23そこから春日の詐欺の手口が説明されていくのですが、まず辰樹による説明があり、そこに黒崎による説明が加わり、それらに合わせて「春日の講演を聞く辰樹」「春日と面談する辰樹」「春日らとの交流会に参加する辰樹」など、具体的な映像が次々に流れていきます。
2023-03-01 18:13:49このように、同じ形象が異なる場所に現れることを、本稿では《異所同形》ということにします。犯罪の手口の説明で、加害者や被害者の姿が何度も現れるのは当然のことですが、それが多角的に表現されているのがこのドラマの特徴と見られます。具体例については、後の[2][4][5]で追記します。
2023-03-01 18:14:10#1 では、現在の吉川家と過去の黒崎家が「起業セミナー詐欺」という同種の詐欺に遭ったことがわかります。このように、異なる時期に同じ形が現れることを、本稿では《異時同形》と呼ぶことにします。これにより、現在と過去の案件が一話の中にまとめて示されることになります。
2023-03-01 18:18:05このドラマではまた、吉川家と黒崎家の家族構成も共通しており、四人の「父母姉弟」型になっています。このことを私はとくに意識することなく見ていたのですが、#10 を見た時点でやっとその意味に気づきました。
2023-03-01 18:18:39この点に関しては、#1 で黒崎が吉川家で食事中、敦の言葉をきっかけに急に塞ぎ込んでしまう場面が、その時点では少し不思議に思ったことにもふれておきます。黒崎にとって過去の出来事はいつも思い返してるはずのことなのに、なぜあそこであらためて辛い状態になったのか。
2023-03-01 18:18:57#10 を見て、黒崎には家族を失った悲しみだけでなく、自責の念もあったことがわかりました。あのときの黒崎の位置にいるのが今の敦であり、そこから出た言葉だからこそ、黒崎の内面をあらためて強く揺さぶったのだと思われます。
2023-03-01 18:32:15