ボクとキミとゲーム (#twnovel)

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクとキミと(1ー1) 希実子は4つ年下の妹だ。2人兄妹にしては少し年の差がある。これだけ年の差があって、しかも男女差まであるとなれば、二人で共有できるものはほとんどない。それどころか、ジェネレーションギャップを感じさせられて物寂しく思うことだって多々ある。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1ー2) そんな僕と妹が共有する唯一のもの、ゲーム。妹が生まれるまでほぼ一人っ子と同様の愛を受け、また一人遊びもお得意だった僕は、割と早い時期からゲームを欲しがった。妹は物心つかない内からゲームに興じる僕の背中を見ていて、自分も、とねだったものだ。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1－3) そんな経歴があるものだから、それぞれ大学生と高校生という年に達した今でも、僕らは度々ゲームを共有して楽しむ。今や数少なくなった会話の半分は、ゲームに関する話題だ。あのゲームの新作出たらしいね。そんな話をするときだけ、僕らは昔のまま。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1－4) その妹が、ある日我が家のどこからか1本のゲームを発掘してきた。僕がしばらく前に買って、クリアしないまま放置していたゲームだ。「協力プレイが充実！」の謳い文句で今でも人気を博するタイトルだが、非社交性を有する僕の気質には合わなかったのだ。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1－5) けれども、妹が始めるとなればそれも別だ。僕にとって唯一のゲーム友達でもある妹だから、買ってきた当時このゲームに興味を持ってくれなかったのは痛手だったが、今から始めるというのなら協力は惜しまない。ゲーム機もう一台買うか、なんて算用も始める。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1－6) それだから、「彼氏に勧められたから」という妹の動機は、僕に大いなるショックを与えた。おまけに「使ってなかったし持っていってもいいよね？」という論理立った暴論の上にゲーム機ごと持ち出されては、もはや立つ瀬もない。遣る瀬もない。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-7) 「酷い話だろ？」 単なる笑い話のつもりで始めた身の上話だが、必要以上に力が入ってしまったらしい。強く机に拳を叩き付けると、その衝撃が軟弱な骨にまで伝わってびりりと痺れた。話の後半からうつらうつらしていた友は、その音を聞いてはっと顔を上げる。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-8) 「…おい、ちゃんと聞いてたか？」絡み酒する中年のようにねちっこい視線を送る。すると僕の数少ない友人の内の一人である彼は、「…聞いてた。要は『妹とゲームを他の男に取られて悔しい』って話だろ」非常に的確、かつ行間まで読んだ理想的な解答で応じた。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-9) 「…そうだよ。なんだ、ちゃんと聞いてるじゃんか…」友の模範解答に大きな花丸をつける一方で、僕の心は晴れやかさとは対極の感情へと急降下する。自然と頭も下がって、やがて机にごつんとぶつかった。顔面を打ったせいだろうか。目鼻の奥がじんと熱い。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-10) 「うっうっうっ…どうしてだよキミちゃん！ 兄ちゃんは今までお前に彼氏いるなんて話も聞いてなかったぞ…」ただ遣る瀬無く、白い机に涙のしみを作りながら嘆く僕。「そりゃ、フツウ親兄弟には話さないだろ。姉ならまだしも」友は…いや、他人は冷静だ。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-11) 机上に広がる悲しみのしみ。ええい、いっそこのまま広がって、この机で勉強するカップル共を気味悪がらせてしまえ！ 「おい、大学の机は公共物だ。汚すな」僕の儚く可愛げのある夢ですらあっさりとクラッシュするこいつは、本当に血の通った人間なのか。 #twnovel

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

ボクキミ(1-12) そう言ったって、涙が出るのはしょうがない。お兄ちゃんだもの。涙ながらにそう訴えれば。「な、素朴」冷静にして憐憫の欠片もない元人間、兼かつての友人は、処刑通達人の如く厳かに口を開き、非情な宣告を下す。「お前、大学卒業までに妹離れしろ」(完) #twnovel