３つのお題でツイノベる。12月

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

素朴の今日のお題は『夏休み』『列車』『螺旋』です。 http://t.co/G0ejMKvL #twnv_3 一息吐けたところで。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (１) 久々に田舎の祖母のもとを訪ねてみようか、と思い立ったのは、大学最後の夏休みも折り返しに差し掛かった時期のことであった。それも始めは単なる思いつきでしかなかったのだが、ついつい口にしてしまったところ、耳ざとく聞いていた両親に思わず食いつかれたのである。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (２) 近頃多忙を極めている我が親は、自分たちが出来ない親孝行を子に押し付けようと画策したらしい。「善は急げ」とばかりにそれはそれは潤沢な路銀と祖母への土産とを私に与え、家から蹴り出した。そこまでされては、もはや前言撤回などできようはずもない。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (３) そのようなわけがあって、今私は両の腕にそれぞれ旅行カバンと大きな土産袋とを携え、えっちらおっちら駅へと連なる螺旋階段を上っている。ただでさえ夏休み前半を食っちゃ寝の怠惰な態度で過ごしてきたこの身にとって、この運動は苦痛だ、拷問だ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (４) そうだ、列車に乗り込んだらすぐに荷物を広げてボックス席一角を占領してしまおう――。筆舌に尽くしがたい苦行に顔を歪めながら、私はつい現実逃避の世界へと没入する。――そうして席を取ったなら、途中の停車駅で駅弁を買って食べるのもいい。一人旅でも食事は楽しい。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (５) 席の占有は褒められた行為ではないが、ただでさえ辺境の田舎へと向かうこの列車、逆の行路ならまだしも乗客は少ないはずだ。しかもこの時期、一般人にとってはすでに夏休み明けである(そう考えると、改めて大学の夏休みの長さを感じさせられる)。今回くらいはいいだろう。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (６) 人影まばらな列車の中でボックス席一角を占領し、駅弁を口に運びながら、だんだん田舎の風景へと様相を変える外界を" 見下ろす" 。一興だ。愉快な構想が進むに連れ、まだまだ厳しい残暑に中てられながらもにやりと口角を上げる余裕ができる。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (７) …が、そのとき。“航空列車 ○○行き、まもなく発車いたします――。”田舎の朴訥とした口調で発せられたアナウンスは、私の脂汗を一挙に引かせ、代わりにどっと冷や汗をもたらした。しまった！ 『航空列車』は離発着に気付かせないほどの静かなエンジンが売りなのだ！

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (８) 祖母の住む辺境の田舎へは、日に１本しか列車が通過しない。つまり、これを逃すと家族の冷たい視線を浴びて気まずい帰宅をしなければならないのだ！ そうはいかない、と残りの階段を２段飛ばしに駆け上がる。マッタク、列車が空を飛ぶ時代、エレベータもない駅なんて！

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

素朴の今日のお題は『チェス』『目玉焼き』『未対応』です。 http://t.co/G0ejMKvL #twnv_3 風呂入りながら考えてくる！

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (１) 「ほんの少し寝坊してしまった朝には、ベーコンエッグトーストに限る！」 ――アルバ嬢が母からそのレシピを教わってから、既に10年以上の時が経った。今やこのメニューは彼女とその師の朝餉の定番として、さして忙しくない朝にも提供されている。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (２) 「ベーコンの上に生卵を割り入れて、レンジでチンする間にバターをたっぷり塗ったブレッドをトースターに放り込む。それぞれ十分に加熱できたら、トーストに半熟のベーコンエッグを載せて出来上がり！」母から伝授された内容はいたってシンプル、かつお手軽だ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (３) それでも、このメニューは食の好みがうるさい彼女の師の気にも入っている。彼が言うには、「昔ニホンで見たアニメ映画でこれと似たような食事が提供されていた！」とのこと。それを聞いたアルバ嬢も、なるほど、と納得した。――あの国は、食とアニメに関しては一級だ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (４) いつものメニューを手早く用意したアルバ嬢は、両の掌の上にそれぞれ一膳ずつ、併せて2人分の朝餉を携えて居間へと急ぐ。「早寝、早起き」などという今日の子供の努力目標にすらならないような信条を掲げる師は、既に起き出して思索瞑想とやらに耽っているはずだ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (５) 「先生、ご飯出来ましたよ！」 案の定、既に寝床から抜け出していた師の姿を見出したアルバ嬢は声を掛けるが、彼の頭は前後左右に揺れるばかりで返答がない。「…ルドルフさん？」ともう一度声をかけ覗き込んでみれば、彼は机に広げたチェス盤を前に唸っているのであった。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (６) 「もう、先生ってば！」せっかく作りたてのベーコンエッグトーストが冷めてはたまらない。煮えを切らしてつい大声をあげると、その声でようやくアルバ嬢の存在に気付いたらしいルドルフ氏は、それでもやはりこちらを振り返ることもなく、「ん」と短い返答を返す。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (７) 彼はアルバ嬢の立っている背後に向けて逆手を突き出し、招くように手先を動かした。「皿から下ろして手に乗せてくれ」チェスに興じながら食べるつもりらしい。「お行儀悪いですよ」と苦言を呈する弟子に対しても、「ゲームに軽食はつきものだろう」と涼しげだ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (８) トランプ遊びに熱中するが故に、片手で食べることの出来る軽食を作らせたのは確かサンドウィッチ伯爵と呼ばれる男であったか。それならば、弟子の作ったベーコンエッグトーストをチェスの合間に食おうとするこの男は「ベーコンエッグトースト卿」とでも呼ばれるに相応しい。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (９) 「それに、」アルバ嬢は言い募る。師の前方に回りこみ、改めて盤上の様子を眺めた。ゲームの舞台にあるのは最低限のもの。彼女の視界の奥の方から、師、ベーコンエッグトースト、チェス盤、そして白と黒の駒、以上。「……一人でチェスをやったって、楽しくないでしょう？」

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (10) ある程度ゲームの進んだ状態から最短でチェックメイトを目指す、いわば「詰めチェス」と呼べる一人用のパズルがある。始めはそれをやっているのかとも考えたアルバ嬢であったが、それにしては、残っている駒が多い。師がやっているのは飽くまでも「チェスゲーム」なのだ。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (11) 「そんなことはない」ルドルフ氏は極めて冷静に返す。そしておもむろに盤上の白と黒のキングをそれぞれ指差して、「白の陣営は公明正大でフェアを好む性格として、対する黒の陣営は卑怯にして姑息な手段を好む性格として打っている。盤上にもそれが表れているだろう？」

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (12) 「いいえ、先生。私にはどちらも――」アルバ嬢は言い淀み、結局二の句を飲み込んだ。極めて常識的な彼女、師に向かって「どちらも同じ、社会に未対応なとち狂った大人がごっこ遊びに興じて打っているようにしか見えません！」などと正直に言うこと憚ったのである。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel (13) 結局師に押し切られた彼女は、彼の一人チェスを眺めながらようやく朝食を口にした。料理はすっかり冷めきってしまったが、それでもすきっ腹に物が入るとほっとする。「たくさん余裕がある日だって、やっぱり朝はベーコンエッグトーストに限る」彼女は小さく呟いた。

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

素朴の今日のお題は『一人』『まとめ』『白鳥』です。 http://t.co/G0ejMKvL #twnv_3 THE・現実逃避second

杏寺 素朴 @Angela_Soboku

#twnovel 目の前で、ぱっと白い翼が広がった。――デスクトップ上、開かれたばかりの" 後期演習まとめレポート.doc " にはまだ一文字たりとも打ち込まれていない。この白鳥をブラックスワンにするには、一体どれだけかかるのやら。誰にも頼れぬ孤独な戦いは、まだ始まったばかり。