稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.05.26)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いやあ、稲川な、俺も不思議に思って考えたんだけど、 俺たちのテント、グルグル回れるわけねえんだよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「なんで？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「だってさあ、俺たちのテントは崖にくっついて建ってるし、 おまけに後ろには薪が置いてあるんだぜ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

誰があんなふうに歩けるんだ」って言うから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「それもそうだな」と言って、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「じゃあ、ちょっと見に行こうや」 と、ふたりで見回りました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

我々のところは崖にくっつけてあるんですが、 そこのところに草がボウボウと生えてるんですよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それを私、持っていったナタで、 “ポンポン”とどかしてたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうしたら、なんと、崖にくっつけていたと思ってた、我々のテントの横に洞窟が。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

手堀りの！

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこに、海岸を掃除にくる、 小父さんや小母さんが来たもんですから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すいませ〜ん、この洞窟は？」って聞いたら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あら、知らなかった」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って言うんですよ、小父さんや小母さんたちも。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、「これは、昨日今日のもんじゃないね。 きっと、その昔のもんだよ」 って言うんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それで、小父さんや小母さんが話してくれました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「昔、八丈島に流された流人たちが、 泳いで逃げてきたんだけど、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その人たちが身を隠すのに、 穴を掘ったんじゃないかね」ってね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そしてね、「中には助かった人もいるんだけど、 ここはね、死体もよく上がったもんだよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

あんたら、昨日はよくいたねえ」 って言われました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

要するに、八丈島にいる流人が、 飛び込んで逃げると、流れにやられて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

最後に死体になって上がってくる場所が、 ここだってわけですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それが証拠には、 泥饅頭が上の崖にある測候所の下は、 三宅島ではいちばん、流がきつくて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

流木だとか、いろんなものが流れつくんだそうです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

しかも、我々が遭遇した、その日というのはね、