漫画家先生の嫉妬と創作

『面白い漫画を読むと「すごい!!おもしろいーー!」って元気が出るケースと 「すっごく面白い…うん、もう、この漫画があるのなら、わたしの漫画、なくてもいいよね」となる二手に分かれる』表現者ゆえの後者の思いとどうつきあっていくか
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喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)手塚伝説で、ある作品をアシスタント達に示し、「この作品の面白さをボクに説明してくれ!」と迫ったとかもある。その作品は、梶原一騎だったり本宮ひろ志だったりするので、単なる都市伝説なのかも(中島らもさんがエッセイで書いた友人のネタが矢沢永吉のネタとして流布している例のように)。

2011-12-10 07:29:16
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)そう言えば、大友克洋がアシスタントの間で話題になった時、その緻密な背景を模写して、自分もそれぐらいは描けると誇示したという伝説もある。小学校の時に写実的な昆虫図鑑を描く画力があった手塚治虫なら、さもありなんとは思う。こうやって見ると、手塚の嫉妬には複数の種類があるようだ。

2011-12-10 07:33:18
藤島康介@トップウGP12巻7月21日発売🏍 @fujishimakosuke

@mogura2001 他人の作品を気にしてこそ自分を研ごうとするものなので、悔しい!死ぬほど面白い!って思わせてくれるのは大変嬉しく、そして妬ましい。私も誰かの砥石になりますように。

2011-12-10 07:38:03
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

本当にそうですね。相手をサビさせようと動くより、ずっと健全で発展的ですもん RT @fujishimakosuke: 他人の作品を気にしてこそ自分を研ごうとするものなので、悔しい!死ぬほど面白い!って思わせてくれるのは大変嬉しく、そして妬ましい。私も誰かの砥石になりますように。

2011-12-10 08:53:19
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)ひとつは、自分にない物への嫉妬。福井や梶原、本宮と言った泥臭い熱さは、裕福で育ちが良くインテリでもやしっ子だった手塚とは対極であり、子供の頃から自宅の映写機でチャップリンやディズニーに映画に親しみ欧米文化が身近だった手塚とは、日本的情緒の濃さにおいても対極的である

2011-12-10 07:39:14
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)もうひとつ、自分も持っているけれど、質や量に違いがある才能への嫉妬。石ノ森章太郎への嫉妬は、これの典型だろう。げに恐ろしきは男の嫉妬、と言うが。多分に、この嫉妬が一番強烈で根深くて、コントロールが効かないような。下手したら、自分の存在意義が失われる危険性もあるのだから。

2011-12-10 07:44:51
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)例えば、王さんと張本さんは同期で、同じく在日としての差別を経験し、ホームラン打者と安打製造機としてのスタイルの違いがあったため、とても仲が良い。しかし、イチローが登場した時、首位打者獲得回数や通算安打で記録が脅かされた時に、前述の嫉妬を感じる発言が見られた。

2011-12-10 07:49:44
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)もっとも、自分の記録が抜かれた後は、むしろメジャーで3000本安打(殿堂入りのひとつの基準)を目指せとエールに変わっている。嫉妬から葛藤、そして昇華への変化。手塚の嫉妬でいえば、楳図作品へのそれは、これに近いような気がしている。ホラーや怪奇という、ジャンルへの接近。

2011-12-10 07:54:37
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)ホラー作品は、手塚が愛したチャップリンやディズニー作品の、明るさやユーモアとは対極的であり、楳図作品への攻撃は、そういう意味では初期は自分にないモノへの批判の部分もあったかも知れない。しかし、妖怪や怪獣をこよなく愛する手塚眞氏のために『どろろ』を描いた結果、昇華が起きる。

2011-12-10 08:07:01
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)『どろろ』自体は、純粋なホラー作品と言うよりも、手塚の得意な冒険成長譚に妖怪という要素を加えた、一種のジャンルミックス。そこには、手塚作品には薄いとされる父親の影が濃厚でもある。手塚の父親はかなり亭主関白で、この父親への反発が、手塚作品の父親の影の薄さという指摘もある。

2011-12-10 08:11:50
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)百鬼丸の父親は己の野望のために息子を犠牲にするのも厭わない人物で、どろろの父親は義賊と、両極端(母親が夫に服従するタイプと慈愛の人というのは、手塚の母親像を分割した造形)。『どろろ』はホラー要素と同時に、手塚が避けてきた梶原的な親子葛藤要素を含む点で、興味深い作品である。

2011-12-10 08:18:28
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)けっきょく、自分にはない要素だと思っていた、もしくはあるのに気づかなかった要素としてのホラーに踏み込んだ手塚は、虫プロの倒産と低迷期、『ブラックジャック』という後期の代表作を得る。一般に医学物の先鞭と評価される同作だが、連載当初はホラー作品としてカテゴライズされていた。

2011-12-10 08:22:24
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)実際、初期の内容には怪奇的な内容が多く、読者として読んでいた自分も、手術シーンの緻密な描写で、怖い作品という印象を持っていた。後に、手塚本来のヒューマンな部分が増えるが、この点は重要。『ブラックジャック』という作品は、医師免許を持つ手塚の、医療とホラーのジャンルミックス。

2011-12-10 08:27:10
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)『ブラックジャック』のヒットで、絶縁されていた講談社では、よりホラー色の強い、しかし医療要素は抜いてどろろに近い冒険譚としての『三つ目がとおる』に繋がる。『ブラックジャック』では、かつては毛嫌いしていた劇画的手法を部分的に取り入れ、ヒットの一因にもなっているのも興味深い。

2011-12-10 08:31:10
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)その点では、劇画を憎み、出版社とも対立し、ついには書く場を失い、晩年はトキワ荘の仲間や家族とさえ会う事を避けた寺田ヒロオを思うと、思いは千々に乱れる。自分にないモノへの嫉妬や恐怖や反発は、人間ならば誰もが持つ。それらを切り捨てるのもひとつの生き方である。

2011-12-10 08:37:06
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)実際、手塚もスポーツ漫画はついに描かなかった。だが、ホラーというジャンルには踏み込んだ結果、後期のヒット作に繋がり、エログロナンセンスが好きだったのに漫画の神様と称されるようになったわけだから。避けてきたテーマへの取り組みや、ジャンルミックスの手法とも併せて、興味深い。

2011-12-10 08:40:33
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)思いの外、長くなったけれど。羽海野先生やおかざき先生がいう、好きと面白いの違いとか、喜びと落ち込みの差とか、自分なりにツラツラ考えてみました。他にも広がる話ですが、長くなりそうなのでまたの機会。

2011-12-10 08:47:52