【真打昇進決定!】2023年8月・9月「立川らく兵真打トライアル」立川志らくの講評

落語立川流・立川志らく一門の二ツ目・立川らく兵さんが真打昇進を懸けたトライアル前編・後編における師匠・立川志らくによる講評。 立川らく兵さん、真打昇進決定おめでとうございます。 (※一度min.tでまとめたのですが検索に引っかからないとのことで、改めてまとめました。内容はちょっと変えています)
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立川らく兵 @tatekawarakuhei

8/9(水) 「立川らく兵真打トライアル前編」 立川志らくの講評1/3 先日開催しました真打トライアルでの師匠・立川志らくの講評を文章にまとめました。らく兵の演じた「子別れ」「紺屋高尾」に対する評価です。 約12分の話を文にしましたので、多少の修正などしております。何卒ご承知おき下さいませ。 文中の(笑)はお客様の笑い声です。 長いのでツイートを3つに分けます。 ★★★★★★  志らく『まぁとりあえず、今月と来月で真打にするかどうかをガチで決めると。  「子別れ」と「紺屋高尾」を二席聴いて、らく兵の世界ってのも作ってるし、このぐらいの技量で喋れれば、今のところ真打は問題はないです。  技術もそこそこあるし、オリジナリティもあるし、ちゃんと噺の主眼も捕らえてるし。  ただ問題は、真打になるってのが一つのチャンスですから。とりあえず立川志らくの弟子だと言えば、ほんのちょこっとでもメディアがこちらを向いてくれるかも知れない。新聞の片隅だとか、Yahoo!ニュースなんかでも出ることがあるでしょう。  なかなかチャンスってのは見付けないと拾うことができないのでございます。どんどん素通りしてしまう。だから何が言いたいかと言うと、売れないと困るんですよね。  無理な弟子に対して「売れろ」なんて、そんな乱暴なことは言わない。そりゃ売れない芸人がたくさんいるから、売れてる芸人が目立つわけで。全員売れてるなんてのは、なかなかありえない世の中でございます。  らく兵は個性がある。そりゃ家元談志が初めて見て驚いたわけですから。怯えたんですから(笑)。初めて会って、家元が「何でも弟子に取りゃあ良いってもんじゃねぇこの野郎!」って私に言ったくらいですから(笑)。  そのぐらい談志が驚くような個性を持って、狂気もあるし。もう酒を飲むと訳わかんない(笑)。一度破門にしてますから。だから社会人としてはダメだけど(笑)、落語家としては面白いと。  じゃあ売れるにはどうしたらいいんだろうと?テレビで売れろなんてことは一切言わないです。過去のスターたちは若い頃売れて、年を取ってからメディアを捨てて、落語に専念していった。  で、私の場合は全くその真逆を初めてやった落語家ですから。若い頃はずぅっと落語をやって落語で売れて、五十過ぎてからテレビの世界に入ったと。だから、それが結果的に私が七十、八十になった時にどういう芸人になるかってのはそれは分からない。  若い頃売れて、年を取ってから落語に専念した人はみんな成功してるわけですから。私がどうなるかはそりゃ分からないんだけど、志らくの弟子であるのならば、とりあえず落語界で売れて、それからもし、メディアで全国区になりたければ、五十過ぎてからテレビの世界に、ちょっと顔出して売れるのも、ありかなと。  じゃあどうやったら売れるんだろうと。それは誰よりも上手くなるとか、誰よりも面白くなる、それと同時にオンリーワンの芸人にならなくちゃいけない。  立川流の場合は志の輔兄さんの売れ方ってのは談志の真逆をやったわけですよ。談志と違う形で、どんどん全部真逆にやって売れてった。  談春兄さんは談志より上手くなった。技術の面で。談志が談春兄さんの包丁を聴いて「俺よりか上手ぇなあいつは」って言ったくらい。談志より上手くなることによって売れた。  で、志らくの場合は談志と同じような芸をやってるんだけども、談志と全然違った志らくの世界を作ってった。  今の、らく兵の落語の最大の弱点は、前から言ってるけど、ここ(顔の前あたり)だけでやってんですよ。  これがもっと大きいキャパになって、らく兵に愛情の無いお客さんがたくさんいて「誰この人?」ってなった時に、全部こちらに持ってくることができない。ここ(顔の前)だけでやってるから。それは「引きの芸」とは全く違うんですね。  紺屋高尾だと「もし会ったらその時に、久はん元気って、そう言って下さい、お願いします!!」ってこう、グワァっと客席の一番後ろに行って、一番後ろのお客さんをグワァっと前に引っ張って来るような芸をやらないと。  あの五代目の小さん師匠ですら、地味にやってるようで、それをやってるんです。圓生師匠でも。みんなそれをね、小三治師匠もやってる。それがどれだけ難しいか、それは一生掛けて築いてくものだけど。  ここ(顔の前)だけでやってると、楽しいんだけども、お客にはなかなか伝わらない。  マクラで吉原のシステムをいろいろ説明した時も「今、みんなこれを聞いて下さい。どれだけ花魁と会うのが大変なのか」って、後ろのお客さんをこちらにグッと持ってくる。その芸ができてないから、それをやらないといけないですね』 (続く)

2023-08-20 12:08:57

 だから「懐メロと映画は必要だ」って談志が言ったのは、そこにある。あなたは私のことを好いて、そういうのをたくさん聴いてるんだけども、それを全部、芸に取り込んで行かなくちゃいけない。

立川らく兵 @tatekawarakuhei

8/9(水) 「立川らく兵真打トライアル前編」 立川志らくの講評2/3 (承前)  志らく『紺屋高尾は談志がベースで、子別れは私がベースになってるとは思うんだけど。結局そのベースの落語から、あとは自分のオリジナルのギャグを入れて、亜流で終わってるんだよね。  そうすると、亜流が本流にならないと売れない。談志の物真似から始まってこれが亜流なんだけども、志らくという本流になってそれで落語界で売れる。  「談志さんも良いけど志らくさんの落語じゃないと嫌だ」っていうお客さんが出てくるわけですよ。「談春さんの落語じゃないと嫌だ」って、談志がいてもそう思うお客さんが出てくるわけ。  それには、みんな亜流から始まるんだけど本流にならなくちゃいけない。  一番、手っ取り早いやり方は、私なんかはどうしたかっていうと、過去の名人のありとあらゆるフレーズ、テクニックをパクるんです。  子別れの場合は圓生師匠がベース。  談志に教わった人がそのままの噺をやってるとする。そうすると薄まってるんだ、すごく。談志を越えることはできないわけだ。ただ教わってその通りやってたら。  その人からまた習う。そうすると、さらに同じにやったら薄まるわけでしょ。だから到底、談志を越えることはできないわけ。  だからどうするかっていうと、ベースは、圓生師匠なら圓生師匠、談志なら談志でいい。そこに、三代目の金馬師匠はこうやった、十代馬生師匠はこうやった、小さん師匠はこうやった、志ん朝師匠はこうやった、談志はこうやったって、フレーズとテクニックを全部盗んでくる。  だから私の子別れの中には先代の可楽師匠も入ってる、ここは圓生師匠、ここは志ん朝師匠、ぜんぶ私の中にそれは計算である。  で、あとは自分のオリジナルをこしらえる。私の場合は志ん生師匠の「八百屋ぁっ」てフレーズを元にして、何べんも八百屋が出てくるっていう新しいギャグを作って、オチも不自然じゃないように作り替えた。そうやって「子別れ」というものを作った。  それにはだから、過去の名人の落語をたくさん聴いてそれをやる、というのが一つ。  それから談志が「映画と懐メロに興味の無い者は落語家に向かない」って言った。その意味ってのは、映画を観ることによってカット割りをするということ。  あなたは、私のこれまで観てきた好きな映画を、たくさん観てる。良い映画、好きな映画、古い映画をいっぱい観てる。ただあなたの場合は観てるだけなんだよ。それを全部落語に取り入れる。そしてカット割りをする。  「ここは久蔵のアップ」「これは久蔵と籔井竹庵の引き」「ここでいきなりポーンとカットが変わって吉原に変わる」。それを全部、自分の中でイメージする。  その為に映画を観とかないと。ただボンヤリ観て「ハハッ、面白かった」じゃなくて、「あぁ、この監督だとこういうカット割りをするんだ」「ウディアレンだとこうだぞ」「小津安二郎はこうだ」「黒澤はこういう演出、指導をするのか」と。  落語の中の役者にもその指導をする。「あなたは黒澤のように演りなさい」「あなたは小津のように」「籔井竹庵先生は笠智衆のように芝居をしなさい」とか、そういう演出をするわけ。  あと懐メロは、たくさん昔の昭和歌謡曲を聴くと、世界中のメロディをパクってるから、日本の歌謡曲ってのは。ルンバもそうだし、ロックもワルツも、みんなパクって歌謡曲を作ってる。さっき言った、落語を作る時と同じで、世界中の良いものを取り入れて日本人が喜ぶように作ってる。  またそれを聴いていると、心地いいリズム、メロディが頭に流れてくるから、落語の語り口調がそういう語り口調になってくる。懐メロをたくさん聴くことによって。  だから「懐メロと映画は必要だ」って談志が言ったのは、そこにある。あなたは私のことを好いて、そういうのをたくさん聴いてるんだけども、それを全部、芸に取り込んで行かなくちゃいけない。  そこらへんができればねぇ、どうやったって売れるんだよ。これだけの個性があれば。  これで売れずにずうっと年を取ってごらん、ただ変な奴だよ(笑)。  面白くないでしょ、売れないと。  名人八代目文楽師匠が「売れたらこんなに面白い商売はありません。売れなきゃこんなつまんない商売はありません」、名人文楽師匠がそうおっしゃったんだから。だから絶対に売れなくちゃダメだ』 (続く)

2023-08-20 12:14:40

たぶん裏を返して下さるだろうお客様がいるから、次回その人が聴いて「なんだ全然変わってねぇな」ってならないように。

立川らく兵 @tatekawarakuhei

8/9(水) 「立川らく兵真打トライアル前編」 立川志らくの講評3/3 (承前)  志らく『ということで、次回はお客さんをいっぱいにすること。それで今日、たぶん裏を返して下さるだろうお客様がいるから、次回その人が聴いて「なんだ全然変わってねぇな」ってならないように。わずかひと月だけども、「あ、後ろの席のお客さんをグッと掴んで前に持ってこようとしてる」「あ、なんか名人のフレーズが入ってるぞ」となるように。  次回は何やるの?「文七元結」と「らくだ」か。  らくだはね、可楽師匠、志ん生師匠がいて、談志がいて、上方だと松鶴師匠がいて、米朝師匠がいて、それを何べんも聴いて良いところを全部パクって作ってくんだよ。  文七は談春師匠の文七も良いから、談春兄さんの文七を聴いて、私の文七も聴いて、談志の、それから圓生師匠の文七、いろんな人のを聴いて自分の世界を作ってく。そうするとわずかひと月で全然違う芸になるから。  こんな難しい話はねぇ、分からない弟子にはあんまり言ってないよ(笑)。脳が爆発して「何言ってんだこの人は」ってなっちゃうから。  あなたならおそらくそれが出来るだろうと思ってるから言いました。  変なおじさんにならないように頑張って下さい(笑)。  (お客様に向かって)本日は本当に、貴重な時間ありがとうございました』 (終わり) ★★★★★★ 以上、8/9(水)「立川らく兵真打トライアル前編」での、師匠立川志らくの講評でした。長文お付き合いありがとうございます。

2023-08-20 12:17:33

2023/9/7「立川らく兵真打トライアル後編」師匠・立川志らくの講評

どういう落語家になろうとしてる?

立川らく兵 @tatekawarakuhei

9月7日(木) 「立川らく兵真打トライアル後編」 立川志らくの講評1/3 去る9月7日(木)、北沢タウンホールにて「真打トライアル後編」を開催致しました。その際の師匠・立川志らくの講評を文章にしました。らく兵の演じた「らくだ」「文七元結」に対する評価です。 約14分の話を文章化しておりますので、多少の修正等を加えております。 文中の(笑)はお客様の笑い声です。(拍手)はお客様の拍手です。 また敬称につきましては師匠志らくの経歴が基準となっております。何卒ご承知おき下さいませ。 長文ですのでツイートを3つに分けます。 ★★★★★★ 志らく『えぇ、「らくだ」と「文七元結」という、まぁ、あまりにも大ネタ二席ってのは、やる方以上に聴くお客さんが、なかなか体力がいる。 でまぁ、トライアル前編で「いろいろと名人のフレーズを入れて演った方が良いんじゃないか」と課題を与えました。 文七元結の「お父っつぁん」「早すぎるよ」、これは志ん生師匠だし。 それから、らくだの「ふざけんなぃ、ふざけんなぃ、オウッ」っていう所は先代の可楽師匠。 いろいろとそういった所を入れてはいます。 で、今の二席、ずっと聴いていて、「どういう落語家になりたいのか」っていうのが……。あの単純にそう思って。どういう落語家になろうとしてる?』 らく兵『……』 (笑) 志らく『うん、だからそれがねぇ、明確じゃないと売れないというか、お客が増えない。 どういうことかって言うと、例えば落語協会会長の、柳亭市馬兄さんなんかは、昔の名人の芸を再現してるわけですよ。だから現代との接点なんかは別に要らない。それが心地良いと思うお客もいるし、私みたいに昔の名人の芸が好きな人にとっては「市馬兄さんの落語はいいなぁ」と、ノスタルジーな世界に入っていける。 それで、談春兄さんの場合は同じ古典のいわゆる正統派と言われていても、市馬兄さんのクラシックとは別に、クラシックをやりながら現代の人も取り込んじゃおうと。現代との接点は、どこにあるんだろうという。そうなってくと、昔の名人とはちょっと違って、いろいろ入れ込んで入れ込んで、派手にしていくわけですよね。 志の輔兄さんの場合は、名人のようなクラシックを、要は昔で言う所のフォーク、今で言うとユーミンだとか、中島みゆきだとか、昔だと松山千春とか、そういった誰もが楽しめるような、現代の人が古典なんかを知らなくても「わぁ良いねぇ、この人の曲は」って感じるような、そこを目指してる。 で、昇太兄さんの場合はロックであり現代のコント、この両方を合わせているようなね。 私の場合は色々やってるけど、クラシックをベースにジャズをやるんだと。自分の感覚で楽しみながら、お客を乗せると。 そういう明確な形があるんですよ。 最近の一之輔なんかは歌謡曲みたいな感じですよね。 別にあなたのが悪いわけじゃないけど、大半の人はね、名人になることは放棄して、どうやったって圓生師匠にはなれない、八代目文楽師匠にはなれない、志ん生師匠にはなれない、志ん朝師匠にはなれないと放棄して、今のお客さんにも受けたいから、悪い言葉でいうと小手先をいじるわけ。チョコチョコっていうね。 そうすると、そこに来てるお客は確かに笑うと。小手先でチョコチョコっていうのは。だけども「この人をまた聴こうか」っていう風には、なかなかならないよね。 「じゃあやっぱり志の輔さんの方がいいな」とか。「一之輔の方がいいな」とかね。「クラシックも、それから中島みゆきも両方できる喬太郎の方がいいや」と、こうなってくるわけ。 だからそれを、どこに軸足を、目的を置くか。 らく兵ならではの面白さはあるよ。おかみさんが何べんも、法被の前がはだけて「イヤァッ」とか、何とも言えない音を出す。音の可笑しさっていうのは他の人にはない、らく兵だけの世界だから、それが中毒になる場合もあるけれども。 やっぱり結局、らくだなんかの場合は小手先なんです。 本質で「いや、俺はこういう道を進むんだ」っていうのが見えてこない。なんか「談志の方に向かってんのかな」「いや、それとも志らくなのか」「いや、昔の古典をやりたいのか、何だろう」っていうのが、聴いててすごく、分からない。 それがもっと見えてこないと、要は真打になったからと言って、売れる売れないというところの、すごい、壁にぶつかってしまうという。そう思うね』 〈2/3に続く〉 ※写真/橘蓮二さん撮影

2023-11-04 19:55:56
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まぁ、でも、このぐらいの「文七」と「らくだ」でお客さんを喜ばせることが出来るというのは、もう二ツ目に居る必要はないです、えぇ。

立川らく兵 @tatekawarakuhei

9月7日(木) 「立川らく兵真打トライアル後編」 立川志らくの講評2/3 〈承前〉 志らく『あと、何でもねぇ、お客に甘えて、入れ込みゃ良いってもんじゃないです。 だから、らくだなんかはね、こういう人生を掛けた勝負だったら、もう極端な話、30分でやっちゃうと。今日は50分くらいやってるわけでしょ。 というのは、お客が優しいから。 あなたも見てると思うけど、ZAZEN BOYS(ザゼン・ボーイズ)のライブで、落語やってくれって言われて、私が「らくだ」をやった。千人ぐらいの、落語を聴いたことがない、ロックのお客がダァーッといて。その2時間の一番おしまいに出てって、私が「らくだ」をやった。それも30分でやったわけ。 客は最初、戸惑ってる。「こいつは何で独り言を言ってるんだろう」ぐらい。 (笑) でも、明確に分かるように、ガッとコンパクトにやって、落語を聴いてない人にも分かるような感じで詰め込んで、最終的には「こんなにらくだが受けたことがない」っていうくらい、ズドドドーンっと受けたわけですよね。東京公演、大阪公演って。 だから、お客に甘えずにマクラから決め打ちで「このマクラをやるんだ」と。で、30分ぐらいでドーンと、「どうだ、このらくだは」っていう、そういう作り方をしてくってのが、本当は大事なんだよね。 いっぱい入れ込んで行くってのは談春兄さん、志の輔兄さんレベルになって初めて出来るんで。談春兄さんが「居残り佐平次」を上・下、二つに分けるとか。志の輔兄さんが「井戸の茶碗」を1時間くらいでやるとか。でもそれは、あの人たちだから出来ることであってね。 まぁだから、今日の合格、不合格から言うと、らくだ聴いた時はね、正直言って「あぁ、これはちょっと危ないな」と。 でも文七元結は、前半がちょっとダラダラしてるんだけども、最後の笑いが起きてったでしょ。これがダレたらアウトだったんだ。 これだけ長いのを二席やって、文七なんかも最後ダラダラになってしまったらば、これはアウトだと思ったら、最後の方、ちゃんと盛り返して、お客をザァーッと笑いの渦に、人情噺に持ってった。 問題は文七の前半部。落語のやり方が違ってるってのがある。あれは演劇になっちゃってる。演劇になったらダメなんだ。 落語の人情噺でも、圓生師匠とか志ん朝師匠を手本にすりゃ、「子ほめ」とか「たらちね」と同じテンポで「文七」をやる。だから凄いの。うん。 それが出来ない、上の誰とは言わないけども、先輩たちが「人情噺」というのに囚われて、大間で、大きい間でもってタップリやる。 そうするとなんか「どうだ俺は上手いだろ」と聴こえるけど、仲間内からすると「何だ臭せぇ芸だなこりゃ」って。「もっとトントントンと出来ないかな」っていう。それになりつつある。うん。 演劇みたいなね、感じになってる。泣きじゃくりながら大袈裟に感情を出して。 サラッと。佐野槌の女将をサラッとやるんだよ。サラッとやって一ヶ所だけクッと泣くみたいな。私のやつを聴いてりゃ分かるけども。 今、らく兵が演ったら感情を入れて、 「長兵衛さん頼むよ!ね!」 ガァーッっと力が入る。そうじゃなくてサラッと、 「長兵衛さん頼むよ……、今度だけは……信じてるからね!」 一ヶ所だけパッと泣きを入れるだけで、ギュッと掴む。これは人情噺のテクニック。客の心を掴むっていうね。 泣くところも。長兵衛が泣くところが、泣きすぎるんだよ。そうでなくて、 「泣くなよ、お前は!皆が見てるから泣くなよ!泣……」 「お前さんが泣いてんだよ全く!」 って。ポーンと落語のリズムに変えるっていうね。 死んだ弟子のらく朝が真打トライアルをやった時に、談志が聴いていて、たしか人情噺を演って。俺は合格にしちゃったんだけど、談志が「俺だったら合格にしなかったな」と。 「全部、力が入ってんだ。違うんだ、落語ってのは。感情を入れないんだ。一ヶ所だけ、パッと入れる。それで、感情を全部入れてくように、観客に錯覚を起こさせる。それが落語なんだよ。それをこいつは分かってないんだ」っていう。談志はそういう言い方をした。 だから結局、らく兵も力が入りすぎちゃってるから。 まぁ、でも、このぐらいの「文七」と「らくだ」でお客さんを喜ばせることが出来るというのは、もう二ツ目に居る必要はないです、えぇ。 (お客様、どよめきと拍手) お客さんに助けてもらったっていう部分もあるんだけれども。 まぁ真打の準備もきっと来年になって、半年ぐらいの期間があるから。その時の披露目に来て頂くということになれば、今日、お客さんが私の喋ったことを頭の片隅に置いといてくれれば、また変わるはずなんです、芸が。すると「あぁ、ようやく今度は、もっと楽に聴ける」と。 今日は舞台袖で聴いてて、もうくたびれちゃったから』 (笑) 〈続く〉 ※写真/橘蓮二さん撮影

2023-11-04 20:04:43
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『…こん時の台詞も考えとくんだよ。そうするとお客さんが「わぁ、良いこと言うなぁ」で終われる。

立川らく兵 @tatekawarakuhei

9月7日(木) 「立川らく兵真打トライアル後編」 立川志らくの講評3/3 〈承前〉 志らく『で、もう少し言葉を明瞭にした方がいい。途中でもうね、ちょっと言葉を聞き漏らすとね、なんか外国の人の言葉かなと。 (笑) 何を言ってんだか、だんだん分かんなくなる。 圓生師匠、志ん朝師匠とか、文楽師匠とか、そういった人のは、分かるんだよ。三代目金馬師匠とか。 もっと明確に言葉をね。ただでさえね、「八ツ口が……」とかね、分かんない言葉だらけでしょ。現代の人からしたら。「何なんだろう?」って、きっと思考ストップするんだ。 八ツ口が開いてどうのこうの、見返り柳がどうのこうの、吉原で……と、知らない言葉がバンバン出てくるところを、それを想像させるわけでしょ。その言葉を知らない人達にも。それが、ただでさえ分かんない言葉がさらに分かんなくなったらね、優しくない客は途中で、もう聴くのを断念する。 だから、そこら辺をもっともっと自分の落語を録って聴いて「あぁ何言ってんだか分かんねえなぁ」と、それじゃ、きっと伝わんない。 高校生に聴かせるぐらいのつもりで。 高校生に文七を……。あのぉ、若い頃、高校生に文七聴かして、ほとんどの客が寝たけどね。 (笑) ネットなんかにも残ってる。 でも、そうすると自分で反省する。千人の高校生がほとんど寝たんだ。文七やって。 前に、昇太兄さん、談春兄さんが爆笑させて、トリで出てって文七やって脅かそうと思ったら、みんな寝ちゃった。シーンとして。あぁ、これは思考ストップするんだなと、高校生じゃ。 まぁでも、気迫が伝わって、二人だけの高校生が「こんな感動したことはない」って私んとこに来たっていう、……これは自慢話ですけど。 (笑) まぁ取り敢えず今宵は、新しい真打が誕生したその場に、皆様が居合わせて下さったということを、本当に感謝を致します。えぇ、ジャニーズの記者会見以上の、来た意味があったろうと、私はそう思っております。 (笑) じゃあ最後に一言、お礼を申し上げて』 らく兵『えぇ、トライアル前編もそうですけども、お運び頂きましたお客様のお陰で、真打トライアルに挑戦することができ、また「真打に」ということで言葉を頂きました。あのぉ、…本当に御礼の言葉もございません。ありがとうございます』 (拍手) 志らく『…こん時の台詞も考えとくんだよ。 (笑)(拍手) そうするとお客さんが「わぁ、良いこと言うなぁ」で終われる。 (笑) それがあの、オンリーワンになる為の術だよね。俺は「ひるおび」とか適当にコメントしてるように見えて、ずぅーっと何か考えてるんだよ。 (笑) (お客様に)どうも本当にありがとうございました』 〈終わり〉 ★★★★★★ 以上、9月7日(木)「立川らく兵真打トライアル後編」での、師匠・立川志らくの講評でした。 長文のお付き合い感謝申し上げます。 ※写真/橘蓮二さん撮影

2023-11-04 20:14:04
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読まれた方の反応など

加藤順彦ポール @ykatou

落語立川流志らく一門の二ツ目・立川らく兵さんの、2023年8月/9月「真打トライアル」前編・後編における師匠・立川志らくによる講評を、四家正紀さんがまとめてます。 min.togetter.com/Vnfft1Y

2023-11-27 08:37:55
壽 かおり⚙️Six Apart広報🎼Vivaldi PR @kaoritter

@shike @min_t_official 落語家の芸を音楽のジャンルに例える話、面白いですね。なるほど、クラシックと中島みゆきと両方できる喬太郎で、ロックで現代コントな昇太は言い得て妙ですね。

2023-11-26 23:42:44
四家正紀(シェアする落語12/17の次は3/16) @shike

@kaoritter @min_t_official 志らく師は、自分の考えを事細かに説明しようとする姿勢がすごいんですよ。だからこういう比喩が出てくる。Twitterで絡んでくる馬鹿に対しても丁寧に説明しちゃう。でもこの講評は弟子と落語への愛にあふれていると思います。

2023-11-26 23:51:49
壽 かおり⚙️Six Apart広報🎼Vivaldi PR @kaoritter

@shike @min_t_official はい、あんな風に踏み込んで講評もらえたら弟子としては嬉しいでしょうね。

2023-11-26 23:58:31
緋牡丹おみつ @o_mi_tsu

@shike @min_t_official まとめ作成ありがとうございます。あの日の会場の空気を思い出しました。

2023-11-27 10:07:59