海老澤美幸氏による、「ピンクレディ事件」判決を例にとったパブリシティ権の説明

ありがとうございます。分かり易かったです(本質は微妙な概念だと思うので、それにしては)。
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海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

Attorney at Law(fashion law)/Fashion Editor 弁護士(69期、第二東京弁護士会、メインはファッションロー)/ファッションエディター・スタイリスト。三村小松法律事務所。ファッション関係者の法律相談窓口 fashionlaw.tokyo主宰。趣味は釣りと猫。

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海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

声優さんの声の権利と生成AIとの関係で、「ピンク・レディー事件」が話題になってるようなので簡単にご紹介しておきますね。 「ピンク・レディー事件」はパブリシティ権侵害の基準を示した超有名判決です。 「そもそもパブリシティ権て何?」という方もぜひお読みいただけましたら。 長文です。

2023-12-27 12:02:54
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

事案はこうです。 昔ピンク・レディーのヒット曲の振り付けでダイエットするのが流行ったんですよ。 で週刊誌が「ピンク・レディーdeダイエット」という記事を載せ、ピンク・レディーの写真14枚を使いました。 ピンク・レディーはこの記事がパブリシティ権を侵害するとして損害賠償を請求しました。

2023-12-27 12:02:55
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

そもそもパブリシティ権とは何か?から。 たとえばTWICEファンは、番組でTWICEのメンバーが着てたり雑誌で「メンバーの私服」と紹介された服を「欲しい」と思って買ったりしますよね。 つまりTWICEのメンバーの肖像や名前などには服の販売を促進する力があるわけです。 この力を顧客吸引力といいます。

2023-12-27 12:02:56
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

顧客吸引力はそのアーティストが頑張って出演したり宣伝して獲得したわけじゃないですか。 それを赤の他人が勝手に使ってお金儲けできるのは不公平ですよね。 そこで顧客吸引力がある肖像や名前などをその人だけが独占できる権利=パブリシティ権が認められたわけです。 基本的には有名人の権利ですね

2023-12-27 12:02:57
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

肖像や名前などはまさに人格そのものですよね。 だから顧客吸引力がある肖像や名前なども人格に深く結びついているといえます。「人格権に由来する権利」なんていったりもします。 人格はその人のものなので、基本的にはその人がOKすれば肖像や名前も使えます。 でも、有名人に同意をとるのは難しいし

2023-12-27 12:02:57
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

有名人は有名人だからこそニュースや創作物などで取り上げられたりするわけで、それは正当な表現行為として我慢しなきゃいけない場合もありますよね。 じゃあどんな場合にパブリシティ権侵害になるのか? その判断基準を示したのがピンク・レディー事件判決というわけです。 ここまでが基礎知識。

2023-12-27 12:02:58
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

さて判決に戻りましょう。 最高裁は何といったか? 「肖像や名前は、商品の販売を促進する顧客吸引力を持つ場合があるよね。この顧客吸引力を独占する権利をパブリシティ権ていうわけだけど、これって肖像とか名前が持ってる商業的な価値によるものだから、人格権に由来する権利のひとつだよね」

2023-12-27 12:02:59
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

「でもさ、有名人て社会の注目を集めたりして肖像や名前をニュースとか創作物とかに使用されることもあるでしょ。そういう正当な表現行為については我慢しなきゃいけないこともあるよね」 パブリシティ権と正当な表現行為とのバランスを図ったわけですね。 で、導き出した判断基準がこちら↓

2023-12-27 12:03:00
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

「肖像や名前を無断で使うことが、専ら肖像や名前がもつ顧客吸引力を利用する目的の場合は、パブリシティ権侵害になるよ! 具体的には、肖像や名前を ①それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合 ②商品の差別化のために使用する場合 ③商品の広告として使用する場合 だよ!」

2023-12-27 12:03:00
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

最高裁は上の基準を示した上で、こう判断しました。 「この記事はさ、ピンク・レディーそのものを紹介してるわけじゃなくて、流行のダイエット法を解説したものだよね。あとは、子供の頃にピンク・レディーのダンスをまねてたっていうタレントの思い出話の紹介でしょ。 ピンク・レディーの写真は

2023-12-27 12:03:01
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

200ページの週刊誌全体の3ページにしか使用されてないし、白黒で大きさも大きくないよね。そうすると、ピンク・レディーの写真は、ダイエット法の解説とタレントの思い出話の紹介にあたって、読者の記憶を呼び起こして記事の内容を補足する目的で使われてるわけで、パブリシティ権侵害にはならないよ」

2023-12-27 12:03:02
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

判断基準、ちょっと難しいですね。 この判決には金築裁判官による補足意見がついてます。 また、最高裁の判決には最高裁調査官という超エリートがその判決の関連情報をまとめたありがたい解説がつけられます。 調査官解説は読み物としても面白いので、ご興味のある方はぜひ調べてみてください。

2023-12-27 12:03:03
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

補足意見や調査官解説をみると、要はこういうことかと。 「専ら肖像や名前がもつ顧客吸引力を利用する目的」の「専ら」ですが、顧客吸引力を使う目的以外がちょっとあればダメなわけじゃなく、「主として」顧客吸引力を使う目的があればOKとされてます。 その上でさっきの①~③を見てみましょう。

2023-12-27 12:03:03
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

①それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合 ブロマイド、ポスター、ステッカー、シール、画像配信サービスなど、その商品自体を鑑賞する場合が①です。 名前についても、たとえばサインなど鑑賞できるものはここに含まれることになります。

2023-12-27 12:03:04
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

では、雑誌に掲載されるグラビアはどうか? ①の基準の「独立して」がカギになります。 つまり、写真の大きさや取り扱われ方と、記事の内容を比較して、記事と無関係に写真が掲載されてるとか、記事があくまで添え物にすぎないなんて場合は、写真が「独立して」使われてるといえそう。 逆にいえば

2023-12-27 12:03:05
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

記事と関連性があり、記事が添え物ではない場合は「独立して」鑑賞の対象となるとはいえないので、パブリシティ権の侵害にはあたらないということになります。 なので、パブリシティ権侵害にならないようにするには、記事にきちんと内容があり、それと関連する形で写真を小さく使うのがよさそうです。

2023-12-27 12:03:05
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

②商品の差別化のために使用する場合 いわゆるキャラクター商品がこれにあたります。 Tシャツ、ストラップ、下敷き、カレンダーなど。 キャラクターブックもこれにあたります。 調査官解説では例として、レシピ本の表紙に有名料理人の写真を載せるのは差別化を図る目的なので②にあたるとしています。

2023-12-27 12:03:06
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

③商品の広告として使用する場合 そのままですね。 なお調査官解説では、本の広告に著者の写真を使うのは、商品の出所を示すもので③にはあたらないとしています。 また、レストランに芸能人が来店した写真を店内に飾るのも、芸能人が来店した事実を示すだけで「広告」とはいえないとしています。

2023-12-27 12:03:07
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

パブリシティ権については、これからも裁判例が蓄積していくものと思われますので、要注目です。 なお、厳密にはパブリシティ権侵害にはあたらなくても、クレームやトラブルにはなりますし、他人の写真を使えば当然、著作権侵害にもなりますので、このあたりも十分ご注意を。

2023-12-27 12:03:08
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

ピンク・レディー事件最高裁判決はこちらです。 全体で7ページで、内容も読みやすく興味深いので、ぜひ読んでみてください。 courts.go.jp/app/files/hanr…

2023-12-27 12:03:08
DORA @DoraXjdkf086

@ebisawa_miyuki @h_yuzuki ピンク・レディー…時の経つのは本当に早いものでもうかれこれ50年近く昔の事件になりますね。

2023-12-27 20:00:46