フィクションに登場した食事の再現について
フィクション再現飯……というほどでもないんだが、フィクションにおいて登場した食事を厳密に再現しようとして、かえってその回の食事のテーマを見失ってるようなケースがあるのではないかと思った話をする。
2024-02-15 22:32:331日外出録ハンチョウ - 福本伸行/萩原天晴/上原求/新井和也 / 第46話 暴徒 | コミックDAYS #コミックDAYSで読む↓ [ comic-days.com/episode/108341… ] 有り体に言ってしまえば1日外出録ハンチョウのこの回なんだが、この回の再現飯とはどうあるべきかみたいな話。
2024-02-15 22:33:50この回、普段はきちんと節制を心がけ、「今日を頑張った者にのみ明日は来る」を実践している大槻班長が、その精神の抑制の反動で深夜にコンビニ飯のドカ食いをするという話なワケだが、この回において登場したメニューをそっくりそのまま再現することは、この回のテーマの再現として正しいだろうか?
2024-02-15 22:35:49劇中で大槻班長(本体)はこのコンビニ飯そのものにほとんど感想らしい感想を述べていないのだが(ぼそっと一言「うめーな」程度)、精神とは抑え付けた分反動のあるゴム鞠であるとか、欲望の解放といったニュアンスで語られる以上、おそらくは好きなものを好き放題ドカ食いしていると見るべきだろう。
2024-02-15 22:37:41とすると、この回を再現メシしようとしたとき、我々がすべきなのは、この献立をそっくりそのまま食べてみることだろうか?という疑問が生まれてくる。 もちろん、味や食感を確かめるならばそれで良いわけだが、この回で一番肝心なのは欲望の解放のほうだろう。
2024-02-15 22:39:25たとえば、この回で大槻班長は深夜のドカ食いに対する「言い訳のように」一本だけトマトジュースを買っているが、これは食べ過ぎに対する罪悪感的なものへの言い訳だとしても、本当に心の底から飲みたくない、大嫌いなものを無理矢理買ったとは読めない気がする。
2024-02-15 22:41:04すくなくとも、野菜的なものを摂らないとという最低限の言い訳の選択肢として、まあこれなら良いだろうという許容できたものを選んだ結果であるはずだ。 とすると、これの再現メシを我々が行おうとするとき、トマトジュースがかなり嫌いな人間はトマトジュースを飲むべきか? おそらく否だ。
2024-02-15 22:42:34再現メシならば徹底してメニューの再現にこだわるべきだとしても、この回の大槻チョイスは欲望の赴くままに、自分の好きなものを詰め込んだ結果のものだ。であれば、「俺ならポテトサラダよりもマカロニサラダだよな…」とか「焼きそばよりはカップ麺だろ…」が優先されるべきではないだろうか。
2024-02-15 22:44:28そっくりそのまま深夜コンビニドカ食い大槻メシを食べたところで、大槻班長ならざる我々は当然、大槻班長とは好みや欲望が異なり、おそらく大槻班長が感じたほどの爽快感や欲望からの解放を感じることができないはずだ。それは、この回における「再現」として本当に正しいだろうか?
2024-02-15 22:46:19劇中、カップ焼きそばにポテトサラダを載せたものを大槻班長が食っているが、これを我々が再現して食ったからといって、この回のテーマそのものはおそらく再現できていない。それよりもベストな組み合わせ、自分ならこういう時に食べるべき!という組み合わせがおそらく、別に存在する。
2024-02-15 22:50:16野菜摂取の言い訳としても、トマトジュースよりはリンゴ味ベースの野菜ジュースを飲みたい人にとっては、再現するならむしろそっちを選ぶべきなのだ。 フィクションの再現メシとして明瞭に差異が出やすいし伝わりやすいので極端な回を選んだが、こういう話はわりとあるのではないかと思っている。
2024-02-15 22:52:06もうちょっと思うところあったので続き。同じくフィクション内の完全再現をすることの意味と意義について。 twitter.com/domioriha/stat…
2024-02-17 10:01:37同じ1日外出録の12話では、大槻班長が子供の頃に食べた「母ちゃんのカレー」を再現しようとする回がある。 1日外出録ハンチョウ - 福本伸行/萩原天晴/上原求/新井和也 / 第12話 隠味 | コミックDAYS #コミックDAYSで読む↓ [ comic-days.com/episode/139320… ]
2024-02-17 10:02:57もうひとつ似た話として、56話では親父の作ってくれた焼きうどんを思い出し、再現してみようと思いながら親父の思わぬ一面を知る話がある。 1日外出録ハンチョウ - 福本伸行/萩原天晴/上原求/新井和也 / 第56話 父飯 | コミックDAYS #コミックDAYSで読む↓ [ comic-days.com/episode/108341… ]
2024-02-17 10:04:12これ、どっちも劇中で大槻班長が再現メシを試みている話でもあるんだが、今回はそこではなく、作品の中で実際に登場(完成?)した食事をどう捉えるべきかという話。
2024-02-17 10:05:19この2つの話において大槻班長は「母ちゃんのカレー」「親父の焼きうどん」のどちらも完全再現に失敗している。カレーのほうは油断からヨーグルトを入れすぎて全然違う味になってしまい、焼きうどんのほうはきざみ海苔が入っていたことを思い出せず、微妙に一味足りないものになってしまった、
2024-02-17 10:07:26どちらも大槻班長にとっては再現失敗であり、本当にやりたかった目的は果たせなかったというメニューである。 では、我々が現実でこの2話の再現メシを行おうとした場合、作るべきはどういうモノになるのか。
2024-02-17 10:09:13再現メシが劇中に登場した飯を忠実に徹底再現するものだとするなら、我々はあえてヨーグルトを入れすぎた(正確には間違えて大量に入れてしまい、慌てて掬ったが大半は溶けた)カレーや、きざみ海苔を入れるのが正解だと分かっているのにあえてきざみ海苔を入れない焼きうどんを作るべきとなる。
2024-02-17 10:10:59実際、劇中において大槻班長はそうした思うとおりに完成させられなかった(焼きうどんのほうは未完成だと気付いてはいないが)食事を前に、母との思い出のスレ違いに残念がったり、遠い父との記憶に思いを馳せたりしてドラマが完成しているのだが。
2024-02-17 10:12:34我々は大槻班長ではなく、大槻班長の母ちゃんや親父との思い出もないため、班長が思い出の中の再現しようとした味とできあがった味との差異を感じることは難しい。まあこれについては劇中でも「完成」するものと、失敗した条件が示されているので、差異を比べることはできるかもしれないが。
2024-02-17 10:15:07そも、これを言ってしまうと大槻班長が真の意味で作りたかったのは、あくまで自身の思い出の中にある「母ちゃんのカレー」「親父の焼きうどん」であり、劇中に登場したのはあくまで大槻班長がそれらを再現しようとして完成したメニューである。
2024-02-17 10:17:11大槻班長の舌や審美眼は信頼に値するものだとは思うが、さりとて幼い頃の記憶、それも調理手順を完全に記憶していたわけでもないため、当時の大槻班長の母ちゃんや親父が作ったものとは細かいところで差異があるかもしれない。
2024-02-17 10:18:27この2話において登場したメニュー、どちらもそうした背景みたいなものがあって初めて成立する献立なので、再現を試みるならばそこをまったく考えずにただ「ハンチョウのカレー」「ハンチョウの焼きうどん」で済ませてしまうのは、たぶん違うんだろうなというようなことを考えた。
2024-02-17 10:19:54そして、「再現とは劇中に登場したものを再現することです」に徹底してこだわるなら、大槻班長が実際には完成させられなかった母ちゃんのカレーや親父の焼きうどんを間違えていない完成形で作るのはたぶん違うことになってしまうが、それは大槻班長が望んでいたことでもないんだよな……。
2024-02-17 10:24:37「ミスをしてうまく完成させられなかったメニューを前に思う郷愁・感じる悔しい気持ち」を再現するとしても、我々は大槻班長ではないので同じ郷愁や悔しさを感じることもできない。完成形メニューと食べ比べてもそれは完全には補完されない。
2024-02-17 10:26:42