スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス #3
「ヒッ」モニコは慌てて周囲に目撃者のいない事を確かめる。「やめてよ!」「何がだよ、カッタリーナ!」リンホはモニコの背中を叩いた。「この写真見て、お前が雑魚のニボシ女子高生だってバカにする奴いねえし」「そんな事……顔ひきつってるよ」否定しながらも、モニコは少しにやけていた。 20
2024-03-04 22:57:06「マジでプロ感あったろ、アタシら。だから医者もプロの仕事したんだ」「そうだといいけど」「お前さあ」リンホは睨んだ。「何でアタシのピアス、パクってンだよ」舌を出す。モニコは首を振った。「たまたま。金髪と同じ。キアイ入れたらリンホ=サンと同じで……」言葉を濁し、情報データを開く。 21
2024-03-04 23:01:11画面上の01ノイズの滝の中から文字列が生じる。それは即ち、次のヤクザ・ターゲットに関する諸データだ。情報屋のネットワークにアクセスし、油断なく、プロらしく振る舞い、ヤクザマネーと引き換えに手に入れた情報だ。「作戦立てよ。結局、わたしは手伝うだけなんだから」「感謝感謝だな」 22
2024-03-04 23:04:32「アバーッ!」ヤクザの首が吹き飛んだ。リンホのカタナは結構な業物だ。あるいは右腕のサイバネアームがアタリだったか。「アッコラー!」KRAASH!鉄製ドアを蹴り開け、ヤクザ事務所の隣室から増援ヤクザが雪崩込んできた。リンホの視界、彼らの頭上に「A」「C」「C」と表示される。武装度Tierだ。24
2024-03-04 23:13:52リンホは既に動き出していた。耳から入り込む破壊衝動。集合的殲滅全体!高揚感撃滅満載!最強高機動!最強高機動!最強高機動!「「グワーッ!?」」武装度Cの弱いヤクザの足首をまとめて切り払い、戦闘不能に。そのまま横に転がる。怒り狂った武装度Aのヤクザは振り上げた拳を赤熱させた。25
2024-03-04 23:18:20リンホは床に唾を吐き、ヤクザに向き直った。カタナはケンドー下段の構え。すくい上げるように斬るための予備動作だ。「クソオヤジ」が「お父様」だった頃の教え。脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!「ザッケンナコラー!」赤熱する拳が振り下ろされる!リンホはカタナで迎え撃つ! 26
2024-03-04 23:22:26KRAASH!ヤクザの赤熱拳はカタナを手のひらで受け止め、熱しながら押し返す。「女子高生がコラー!センジャネッゾ!」「ウルッセーゾ!」リンホは叫び返した。そして笑った。「アタシとサイバネ比べンのかよ?ヤッテヤンヨ!」キュイイイイ……右腕の駆動音が頭蓋骨に、ニューロンに響く! 27
2024-03-04 23:25:58「テメッ……」ヤクザは目を見開いた。リンホの脳に強烈な快楽物質が爆発する。旧式テッコ如きに、この腕は負けない。ジャンク屋でも扱いきれなかった、なにかワケありの、ヤバいブツだ。この腕にはリンホを走らせてくれる力がある。そして左目が熱を帯びる。カタナが力に応える。 28
2024-03-04 23:29:27「オラッ!」赤熱アームがカタナの合金を熱損傷するより早く・強く、リンホはカタナを押し込み、そのまま腕ごと裂き切って、肩から鎖骨をえぐった。「グワーッ!?」「オラァッ!」リンホは肩から体当りし、そのまま押し込んだ。背後の装甲フスマを……薙ぎ倒す!KRAAASH!部屋突破! 29
2024-03-04 23:32:23「テメッ……テメッコラ!コラーッ!」ヤクザはリンホに押されながら、背中を繰り返し殴りつけた。だがリンホは怯まなかった。腰が入っていないから、耐えられる。リンホは最初の「殺し」の時に、真っ先に学んだ。ヤクザは脅すのが仕事で、生きるか死ぬかのやり合いは、また別の慣れの話なのだと。30
2024-03-04 23:39:29下っ端の連中は、ヤクザクランのパワーを傘に来て、キアイにしているだけだ。本心から殺したいとも思っていない。だから銃弾もそうそう当たらない。ドスにも本気の殺意がない。その点、リンホは最初から殺る気だ。復讐のショドー。花火のように生きる。この腕が気持ちに物理の力を与えるのだ。 31
2024-03-04 23:46:09「このッ……このクソが!」「ンンンンン……!」リンホはヤクザを壁に押しつける。そしてカタナの背に手を添え、さらに、押し込む。「グ……グワーッ!ワカッテンダロナコラー!」「ワッカンネーヨ!」「アバーッ!」血飛沫!集合的殲滅全体!高揚感撃滅満載!最強高機動!最強高機動! 32
2024-03-04 23:49:38ヤクザはリンホと取っ組み合い、ガラスを破ってベランダにもつれた。「死ねよ!いい加減に!」「ナマッコラー!」「オニ……オニイサーン!」背後、さっき足を斬ったヤクザが根性で立て直し、壁に手を付き追ってきて、チャカ・ガンを向けていた。リンホは呻いた。撃たれる前に、彼女は突き進んだ。33
2024-03-04 23:53:19重力の感覚が消失。視界が真っ暗になり、気がつけばリンホは仰向けだった。背中に濡れたアスファルトを感じて、夜空の割れた月を見上げている。隣で、さっきのヤクザが死んでいた。赤熱した腕に雨が当たり、蒸気を吹いていた。立てなかった。両足首がありえぬ方向に曲がっていた。 34
2024-03-04 23:56:13アタバキ・ブシド・ハイスクールの校門前には屈強な体育教師が腕組み姿勢で佇み、始業間際に校門に走り込んでくる生徒たちに睨みを効かせていた。「待って待って!待って!」声が飛ぶ。そして、パンを咥えたリンホ・クロキが角を曲がって現れた。「クロキィー!また貴様か!」体育教師が唸った。 36
2024-03-04 23:59:30ガラガラと音を立て、鉄のゲートが無慈悲に閉じられる。「クロキ!貴様は入場まかりならん。そこで反省のショドーを書いたうえで……」「アラヨット」リンホは見事な高度跳躍からのベリーロールで、鉄扉を苦もなく越えて、敷地内に着地した。「クロ……キ……?」体育教師は唖然とした。 37
2024-03-05 00:03:38リンホの足首には埋込式のヒキャク=サイバネティクスが換装されている。黒いルーズソックスがそれを隠していた。「そんなワケなんで!」リンホは手を振り、モニコのもとへ走った。「調子いいぜ、今度のやつも」「そんなこと言うけど……!」「だって、二度とのたうち回りたくねえし。痛いし」 38
2024-03-05 00:07:34「怪我もあるけど、ヤクザの警戒網が強まってるよ」モニコが歩きながら携帯端末で示した。『多分女子高生』『指名手配』の文言が流れる。「このままだと、返り討ちに遭うよ……」「まあそうだよな、ダラダラやってりゃ」「ちゃんとしよ」「ちゃんと復讐じゃなく勉強だな」「リンホ!聞いてよ」 39
2024-03-05 00:14:07他の生徒がぎょっとして二人を見た。モニコはベンチを指差し、リンホを座らせ、自らも座った。「わたし、リンホのことを応援してるけど、メチャクチャになって人生終わるために協力してるんじゃないよ!」「メチャクチャって……」「復讐、成功させて、そこから頑張らなきゃでしょ!」 40
2024-03-05 00:18:56「いや……そりゃそう……だよ」リンホは頭を掻き、遠くでアサガオに水やりをしている園芸部を眺めた。「別に考えてねえワケじゃないし。連中の戦力削って、腕試しをして、ヤクザマネーをゲットしてンじゃん、今。で、カネを使って強くなってる」足をぶらぶらと振ってみせる。「な」41
2024-03-05 00:23:51「続かないよ、こんなの」「続けるつもりもないッて」「ほら……」モニコがわなわなと震えだす。リンホは肩を押さえた。「いや最後まで聞けって!……だからさ、アタシはもう、後はヤルだけなんだよ。そろそろバーンとキメなくちゃな。命が幾つあっても足りねえし」「つまり……?」「ボスを殺る」 42
2024-03-05 00:26:40「……」「モニコ。お前が言った通り、ヤクザの連絡網が回るし、アタシが何者なのかッてのも段々わかってきちまうし。この前は皆殺しも失敗して、ヒヤッとした。だからさ。今まで以上に準備して、最小限のステップで、終わらす。それなら不満ねえだろ」「……わたしは、部外者だから、不満とか」43
2024-03-05 00:31:57「ん?」リンホは微笑み、モニコを見た。モニコは首を振り、嘆息した。「早く終わろ」「そうだな」リンホは頷いた。「感謝してるよモニコ。役に立ってる。アタシは当然、当初は一人でやってくつもりだったんだ。……なんでお前、ついて来ンの?」リンホはモニコから目をそらさない。 44
2024-03-05 00:35:12