いつにもまして投げやりなのは気のせいではないです。
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死体で埋め尽くされた広場の真ん中に彼はいた。
踵の上に尻を乗せるような体勢で両膝を地面に付き
手のひらで覆った顔をがくりと俯けた姿でそこにいた。
殆どゴミ同然にゴロゴロと転がる死体を踏みつけながら彼に近づく。
遠目からでは気が付かなかった異変にようやく気がつき
鋭い悲鳴を上げそうになったが、無理やり飲み込んだ。
真っ白なボディスーツに覆われた彼の体に
無数の顔が浮かびあがり、蠢いている。
一歩、また一歩と足を進めるごとに、その顔がマネキンのような
記号化された顔ではないことを知る。
男/女/子供/老人-人種や年齢を問わず、
ありとあらゆる"人間"の顔が彼の体を漂っていた。
苦悶、憤怒、悲哀、絶望、そして笑顔。
うつむき地面に膝をついた彼の目の前に立つ。
ふっと彼が顔を上げる/顔は覆ったまま。
僕は何か言葉をかけようとして口を開くが、何も言わない-言えない。
唇を薄く開いた間抜けな僕の顔を嘲笑うように
彼の体に浮かび上がった顔達がゆっくりと蠢く。
叫び声を、あるいは笑い声を上げるかのように口を大きくパクつかせる様は
人間というより餌を求める魚のように滑稽に見えた。
指の隙間から彼の目が覗く。
その瞳は足元に転がる死体のように濁りきり
僕を見つめているのか、僕の体の向こうに広がる曇り空を見つめているのか
あるいは瞳には何も写っていないのか、僕には分からなかった。
輝くオパールのような、何色でもない/何色にも見える
表情豊かな色合いは消え去っていて、それが酷く悲しかった。
痛々しいほどに見開いた瞳で僕を見つめる。

「駄目だ」

溜息を吐くように言葉を零す。
唇の両端を少しだけ持ち上げ、力無く微笑んでみせる。

そして 

「―もう抑えられない」


なんかカオナシ君が不憫だったので書いた。
スラッシュはマルドゥック・ヴェロシティのパkいえオマージュです。
特に何も言うことがないというか、そんな話です。
…話です。