ミニバラコント

machico @mcc0604

俺の名は堀部。高田馬場で三人を相手に大立ち回りをしたことでちょっとばかり有名になった。そんな俺は最近気になるものがある。学校の花壇のミニバラの成長だ。

machico @mcc0604

「明日には咲くかな」ピンクのつぼみはだいぶ綻んでおり、それにつられて俺の顔も綻んだ。一枚写真を撮ると顔を引き締め、誰かに見られないうちに裏庭をあとにする。男子校のケンカ野郎がミニバラなんて似合わなすぎて笑われるのがオチだ。

machico @mcc0604

次の日、俺は一時間早い電車で学校に向かった。こっそり裏庭に向かうと予想通りミニバラが咲いていた。太陽の光を受けて咲くかわいらしい小さなピンクの花。笑顔になるのを止められない。「あれ？誰かいるんですか？」

machico @mcc0604

驚いて振り返ると、ジョウロを持った男がいた。「えっ…いや、あの」彼は俺を気にすることなくミニバラに水をやる。「好きなんですか？」「えっ」「花」「いや、別に好きとかそういうんじゃ…」なんとなく口ごもる。「俺みたいなのが花が好きなんておかしいだろ」苦笑しながら言う俺にその男は言った。

machico @mcc0604

「そんなことはありませんよ」彼が振り返る。「花が好きなひとに悪いひとはいません…あっ」彼は俺を見て、何かに気づいたようだった。そして手を首元へ伸ばしながら言った。「ネクタイ、曲がってますよ」

machico @mcc0604

スマートな手つきで俺のネクタイを直す。俺は突然のことで動けなくなっていた。水をやり終えた彼は再びジョウロを持つと裏庭をあとにする。「あっ…あの！名前、聞いてもいいですか…？」俺は衝動的に叫んでいた。

machico @mcc0604

「柳沢尻です」俺はその笑顔に、なにかいいようのない感情がこみ上げるのを感じた。 ミニバラがみてる

あゆ @ayu_usagi_nabe

オレの名前は尻口キーマ。元禄高校の１年生だ。

あゆ @ayu_usagi_nabe

１限の小テストに備えて早めに登校したその日、教室の窓からなにげなく中庭を見下ろすと、見慣れた人がそこにいた。２年の堀部…オレはやっさんって呼んでる。先輩だけど家が近所で、いわゆる幼なじみってやつ。花壇のミニバラなんか見入っちゃって、ガラでもないなって吹き出すオレ。

あゆ @ayu_usagi_nabe

一瞬、オレが見たこともないような表情で彼が笑った気がした。チクリ。あれ、オレ、バラに嫉妬してる？　そんなバカげた思いを振り払おうと、窓から身を乗り出し名前を呼ぼうとしたとき、誰かがやっさんに後ろから近づいてきた。あの人は…柳沢尻先輩…。

あゆ @ayu_usagi_nabe

何を話しているのか、ここからは聞こえない。そもそも２人が知り合いだなんて聞いたこともないし。なんだろう、なんだかすごく気になる。胸の奥でカレーが煮えるような熱がこみ上げてきたそのとき、　スッ　と伸びた柳沢尻先輩の手が、やっさんのネクタイをとらるのをオレは見逃さなかった。

あゆ @ayu_usagi_nabe

昼休み、オレはやっさんの教室まで行ってみた。「よお、キーマ。どした？」「…別に」　精一杯ポーカーフェイスを装って、それでもとっさに口をついて出た言葉に自分で苦笑した。これは、柳沢尻先輩の口癖じゃないか。やっぱオレ、かなり気にしてるみたい。

あゆ @ayu_usagi_nabe

「今日、いっしょ帰ろ？」「おう、いいぜ」　それだけ約束したところで５限の予鈴が鳴った。教室に戻る渡り廊下から見えた部室棟、「園芸部」の看板が見えた。その下には、二重線で消された「軽音部」の文字が隠れていることを、オレは知ってる。「フェニックス…か」　おっと、急がなきゃ。

あゆ @ayu_usagi_nabe

放課後、昇降口でやっさんが待っててくれた…のが嬉しくて、つい天の邪鬼に強がってしまう。「おい！帰るぞ！」「なんだよ！それっ！」　やっさんは笑いながらオレの頭をくしゃくしゃとかき回す。「なんだ、尻口は１人で帰れないのか？」って、通りすがりの先生に冷やかされた。

あゆ @ayu_usagi_nabe

２人でラーメンを食いに行く。くだらない話でいつもみたいにバカ笑いして。今朝胸を刺した小さな違和感なんてどこかに消えた…はずだったのに…　「なあキーマ、柳沢尻さんって…知ってる？」　チクリ　チクリ　チクリ　ああ、バラの蔓にギリギリと心臓が締め付けられるみたいだ。

あゆ @ayu_usagi_nabe

「…知らない」　早口で言い捨て、さらに畳み掛けた。「あ、ねえ、写真撮って。ブログにアップするから、ほら早く」　無理矢理オレのケータイを手渡し、シャッターを押させた。オレはめいっぱい笑顔で、潤んだ上目遣いで、レンズ越しにやっさんを見つめた。気づけよ。伝われよ。もう！

あゆ @ayu_usagi_nabe

「じゃあつぎオレが撮ったげるね」　今度は彼のケータイを取り上げて、強引に笑顔を作らせた。「じゃあ、やっさんもこれブログにアップしよーぜ。オソロで！」「…あ、うん」　その夜も、次の日も、結局やっさんのブログは更新されなかった。バラなんて、枯れちゃえばいいのに。