ナイフ

テレビとナイフの話。 一部出血描写があります、ぬるいですが一応。
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握りしめたナイフを何度も腹に突き立てる。
柔らかい肉が断裂する感触に背筋がぞくりと泡立つ。
力を入れナイフを引き抜いた瞬間、赤黒い血液が滝のように溢れ出す。
もう一度ナイフを突き立て、肉を抉るようにぐるりと回転させる。
呻き声も悲鳴も聞こえず、代わりに頭上からぼとぼとと血が降ってきた。
整えた金髪が血に濡れて束となり視界を遮る。
額に張り付く前髪に苛立ちを覚えながら、顔を上げた。
見慣れた顔が私を見下ろす。
いつものように微笑を浮かべているが、口元が真っ赤に汚れているせいで
メイクに失敗したピエロのように見えた。
男がけほ、と一つ咳をする。
霧吹きでスプレーされたように顔に血液が飛び散る。
最悪だ。咳をする時は手で口元を隠してからしろと教育されなかったのか?
いや、こいつの教育係は私だ。
私の調教が至らなかっただけだ。
相棒のマヌケ具合と自身のツメの甘さに頭痛がする。
一つ瞬きをし、ナイフから手を放した。

「お前のせいで髪も顔も血塗れになった」

「ごめんね」

何一つ悪びれる様子がない。
少なくとも謝罪の言葉を寄越さずのらりくらりされるよりはずっとマシだが。

「帰るぞ」

「うん、あのね」

「なんだ」

「今のアルフレッド、すごく可愛いね」

そう言い放つなり、背中を曲げ額に唇を押し付ける。
今までにも何度かこういうことはあった。
最初の方こそ無様に喚き散らし殴り殺していたが
今はもう慣れたものだ。男にキスされるなど慣れたくもないが。
慌てず騒がず、冷静にナイフを胸に突き立ててやる。
ぐげっ、とカエルの鳴き声のような呻きが聞こえたが気のせいだろう。
さっと踵を返し相棒に背を向ける。
家に着くまでの間一度も振り向かなかった。

溜息を吐きながらドアノブを回し、リビングに足を踏み入れる。

「おかえりアルフレッド。ねぇ恥ずかしがらなくても
キスって好きな人にするものだって僕テレビで見グポッ」

30分後、生き返った相棒の目の前でテレビをベランダから投げ落とした。
相棒は泣いていた。
久しぶりに心から楽しいと思える出来事だった。


テレビっ子リックとヒステリックアルフレッド
このあとまたその辺からテレビ拾ってきて
投げ捨てられてると思います、アホですね。
そんな話です。