【創作ヴィラン】 GHOST 【SS】
GHOST
今日はとても嫌な夜だ。
真っ暗で、風の音ばかりがびゅうびゅう鳴ってる。部屋のなかの全てが軋んで泣いているみたい。
誰か知らない子どもが泣いているような風の音。
こんな夜に立ち向かうやり方を私は知らない。 ただベッドのなかで 、膝を抱えている。
最悪な時には命乞いするみたいにぶるぶる震えたりする。そして今日は最悪な時。
私がぶるぶる震えたりしていると、変な鳴き声をたてながら、ヨクトが私に寄ってくる。その鳴き声は私をむかむかさせる。今日も私は枕を投げつけてばかで醜いヨクトを追い払った。
私は醜いものは嫌い。醜くて馬鹿なものはもっと嫌い。どこからも救い様のない遺伝子が嫌い。 嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。
嫌い。
夜が嫌い。何もかも嫌い。私を思い出すから。私と私の妹を。母親を。父親を。あいつらと比べたら、震える私に擦り寄ってこびを売る獣のほうが、ずっとまし。膝を抱えて震えてる今の私のほうが、もっとまし。
妹。私のいもうとは綺麗だった。良い人とは言い難い人間だったけど、とても綺麗な顔と体を持ってた。
いもうとはよく私に、「あんたのような醜い人間が、なぜ産まれて来たの?」 「なぜ生きてるの?」と言った。醜い生き物は、生きてる意味がないんだよ、生きてるだけで迷惑だけど、生きていることは許してあげるけど、意味なんてないんだよと言う。
わたしは、死ぬ間際のいもうとに、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったきたないきたないその顔を見て、いもうとに、「確かに」と言って、頭を叩き割った。綺麗ないもうとは死んで、頭が割れたボディだけがそこにあった。
ずっと前の春か、夏か、秋か、冬か、それとはまた違う時の朝か、昼か、夕方か、今日みたいな夜かのことだった。
涙と鼻水と血でぐちゃぐちゃになった妹の顔はそれでもやっぱり綺麗で、私は羨ましかった。
羨ましかったから。
私はぼんやり、妹の顔と、今、鏡に写る私の顔を思い出した。ぼんやり浮かび上がる、同じ顔。
どっちも誰かをにやにや笑ってる。
妹は私に殺されて無様に死んだけど、はっきり ここに残ってる。
この私の顔は、この遺伝子は、妹からの借り物だから。
違う。妹に、私が貸していたものを、取り返した。いまは、正しい持ち主のところにいる。
そう。
だから、だけど、妹はここにいる。
それでももういもうとは死んだ。いもうとの醜い心はどこか遠い宇宙に行って、時々名残惜しんで、こういう夜にわたしに会いに来て、泣く。
頭が割れたいもうとは、部屋の隅に立って私を視てる。泣きながら、むかしの自分と同じ顔をした私を視ている。
多分、後悔してるんだろうと思う。私達は、幸せな家族になれたはずだったから。だからそんな時私は妹に
「気にしなくていいよ。もうあんたのことは怒ってなんてないからね。」
と言ってあげる。
そうすると、妹は幸せそうにしゃっくりをした。 醜い頬骨を伝って涙が流れて落ちた。へちゃむくれの大きな鼻から鼻水がだらだら出ていた。ぐしゃぐしゃの赤毛が血で湿ってべちゃべちゃと汚らしく見えた。それを見てわたしはなんだかとてもいらいらした。いらいらすると余計に泣き声が耳にさわったので、ベッドに立て掛けていた武器を手にとって、音を立てないまま、また妹を殺した。
妹は声もあげずに死んで消えた。
365人めの妹を殺した。一年分の妹を殺した。
私はため息をついた。
出来の悪い妹を持った姉はすごく大変。でもやっと部屋は静かになった。ヨクトももう鳴き声をあげなかった。ぎらぎら輝く三つの目がただ部屋のどこかで光っていた。
その瞳の、出来損ないの輝きは少しここちよくて、私はため息をついた。
私は静かにベッドにもぐりこんで、明日になれば忘れているだろう私の家族のことを考えた。考えた末に、今忘れることにした。
私は目を瞑った。 やっと眠れるみたいだった。
遠くの宇宙で妹が泣く声がした。
私の顔をした妹が泣く声がした。
オリジンをうっすら語っちゃったような気がしないでもないアルマさんSS。ヨクトは苦労人ならぬ苦労ライオンです。
・一応アルマさんの設定トゥギャ