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「家に帰るまでが遠足です」 俺はそれを聞き流し家に帰る……だがそこにあるはずの我が家は消えていた。消えた我が家と家族。担任の陰謀。親友の死。おやつは300円までに隠された暗号。そしてバナナはおやつに入るのか!? 劇場版『ENNSOKU』 〜俺たちの遠足はまだ終わっていない〜
2012-02-27 18:46:37「はい、いいですか、気をつけて帰って下さいね。家に帰るまでが遠足ですからね」 担任のそんな言葉にクラスの女子が、はぁい、などと返事をする。馬鹿な奴らだ。そんなことを言われずとも、学校から家までの間に何があるというのだ。
2012-02-28 21:06:57そもそも、誘拐、事故、その他もろもろのことを『気をつけて』いることで防げるとも思えない。そうしてそれが起こる可能性は毎日平等であり、遠足の帰りにのみそれを注意喚起することが些か理解できない。いまさら遠足の気分で浮かれるのは低学年のガキまでだろう。
2012-02-28 21:07:16そこに、俺が帰るはずだった家は無かった。 家も、車も、庭も、もう何もかもが無いのだ。 そこにはただ、あった家と同じ大きさのがらんとした空間があるのみだ。
2012-02-28 21:13:14「なんだ……? 一体、どうなって」 「コウ!」 背後から声がして、俺はその方向を振り返った。同級生のケンが立っていた。 「コウ、俺の家が無い!」 何ということだ、ケンの家も無くなってしまったのだ。 「……俺の家もだ。どういうことだ?」
2012-02-28 21:14:17「わからない。わからないけど、コウは携帯持ってるから、来たんだ」 そうだった。家が無くとも、携帯がある。家族に掛ければつながるはずだ。 「……駄目だ」 「え、」 携帯の電波は切れていた。圏外だ。
2012-02-28 21:14:33朝まで何ともなかったのに、その場所はもう完全に外界から隔離されていた。 周囲を見渡しても、自分とケン以外に人間はいないようだった。 「学校。取り敢えず学校に戻ろう。誰かいるかもしれない」 二人でそう決め、辿ってきた帰路を折り返す。ひどい寒気がしていた。
2012-02-28 21:15:34学校に着くと、そこにはクラスメイトの半分程度が困惑顔で集まっていた。 「まさか、お前らも?」 「家が無いんだ。コウも?」 「ああ。他の奴らは?」 「わからないけど多分、家が遠い奴らはまだ」 「くそ、何でこんなことに」 「俺らが知るかよ。コウも知らないんだろ?」 「……そうか」
2012-02-28 21:18:40更に少しの時間がたって、家が遠い奴らも次々校庭に集まり始めた。 「どうする」 「職員室は」 「体育館に」 「家が無い」 様々な情報が錯綜する中、声を上げたのはミハルだ。 「取り合えず、2班に分かれよう。1つは誰か人を探しに行く、もうひとつは、どこか居られる場所を探す」
2012-02-28 21:22:51「居られる場所って何だよ」 「家が無いんだもん、寝床くらい探さないといけない。今日中に解決するとも限らないんだし」 ミハルは頭のいい女子だ。この混乱の中で次の対策を練っていたらしい。 「取り合えず、グッパーで」 ミハルの合図でクラス全員が手を出す。グーとパーと、2班に分かれた。
2012-02-28 21:23:47「ちょっと待て」 声を上げると、クラス中が俺の方を向いた。 「クラスの人間しかいないのか? ……そもそも、他のクラスの奴らは?」 「あ」 「見てないよな?」 そうだ、と声を上げたのはケンだ。 「うちのクラスのバスだけ、到着が遅れたから、帰りの会はうちのクラスだけでやったんだ」
2012-02-28 21:26:57「他のクラスのやつらは先に帰った……」「じゃあ、その時にはまだ家があったってこと?」 「……それはわからないけど、ここに来てないってことはそうじゃないのか」 「じゃあ、2組のミカの家に行ってみよう。何かわかるかもしれない」
2012-02-28 21:28:04結末から言うと、ミカの家は無かった。 家はあったが、それはミカの家ではなかった。 「どういうこと?」 「おかしい。ここだけケースが違う」 「え」 「ここは、誰の家かはわからないけど取り敢えず家がある。みんなは家ごとなかっただろ?」 「……ああ、そうだね。そういえばそうだ」
2012-02-28 21:30:11「あのさ、考えたんだけど」 声を上げたのはケンだ。 「すっげえRPG的な考えなんだけどさ」 「何だよ、いいから早く言えよ」 「ここってさ、――」 「あら、何してるのあなたたち」 振り返ると、担任が立っていた。不気味な笑顔を浮かべて。
2012-02-28 21:31:27「帰りなさいって、言ったわよね?」 「それが、先生、家が無いんです」 言ったのは、例のバカ女だった。この担任に何を期待してこんなことを言うのか、俺にはまったく理解できない。
2012-02-29 12:49:54「家が無い?」 「そうなんです。家も、家族も、無いんです」 その言葉に堰が切れたように、周囲のあちらこちらから啜り泣きが湧き始める。 「なんだよ、バカらしいなあ。なあ、ケン?」
2012-02-29 12:50:08だが、振り返るとそこにケンはいなかった。 「あれ? なあ、ケン居ねえ?」 「え? さっきまでそこに――え?」 クラスメイトの山がざわりと揺れた。どうやらどこにもいないようだった。 「あれ? 先生は?」 黒山のどこかから声が上がって、また周囲がざわつく。
2012-02-29 12:50:37「……まあ、ケンは小便かなんかだろ。俺が待つから、みんな学校に戻っていいぞ」 「そう、だよね。じゃあ私たち学校に戻ってるね。あっちの班で何かわかってるかもしれないし」 「おう。俺もケン戻ってきたらすぐ行くわ」 「うん」
2012-02-29 12:50:52だが、いつまでたってもケンは戻ってこなかった。 もしかしたら小便じゃないのかもしれないし、住宅街だから小便をする場所が見つからないのかもしれない。近所の知り合いの家までトイレを借りに行っているのかも。 思い当って、ふと首をかしげる。そういえばさっきから知った顔に全く合わない。
2012-02-29 12:52:14というか、たとえばもしここが俺たちの全く知らない場所だったら? 知り合いも居ない、それどころか周囲がすべて敵のような――全く別の世界だったとしたら?「あら?」背中に急に降ってわいたのは、さっきと同じ担任の声だ。驚きと寒気が一度に襲って、俺は振り返りながらその場を僅かに下がった。
2012-02-29 12:53:45「まだいたの。他のみんなは?」 「……ケン、が、小便に行ったきり戻ってこないから、俺だけ待ってるんです。みんなは学校に」 「そう。でも、屋外でトイレをすることは条例で禁止されているわよ? 学校に戻って用を足してるんじゃない?」 「そう、ですね、じゃあ、俺も学校に戻ってみます」
2012-02-29 12:55:02「気をつけてね」 何に、と聞けなくてまた後ずさる。 「……はい」 笑顔で俺に背を向け、担任は去って行った。 その背中に、泥がついていた。
2012-02-29 20:09:16