美々ちゃんの憂鬱　その２

くさがみ•R•シン @kusagamirin

校庭の東面にあるコートで、今バスケ部による試合が行われている。二年生の精鋭チーム vs 新入部員（＋私）チーム。第二ピリオドが終了した時点で点差は６３対３７。４０点差が２６点差になった。これならイケる。息も絶え絶えな新入部員達。みんな声を出す余裕もない。（1/21） #mi_mi

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それでも彼女らは試合をまったく諦めていない。瞳に強烈な光が宿っているのがわかる。「みんな最高だよ。ほら、私が言った通り点差が半分近くになったでしょ？ あなたたちは、まだまだどこまでも伸びる。今日は何がなんでも“勝つ”よ？ いい？」「はいっ！！」（2/21） #mi_mi

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「じゃあ１０分間しっかり体を休めて。作戦は変えないから頭の中で何度もシミュレートしておいてね」フラフラになりながらバスケ部部長の元へと戻る4人の新米戦士たち。私は彼女達とは別の方向、美術部副部長の竹下君の元へと向かった。噴き出す汗もそのままに。（3/21） #mi_mi

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「部長、お疲れ様でした。はいどうぞ」差し出されたポカリスウェットを受け取って５００mlを一気に飲み干す。「ぷはー、生き返るー！ ありがとう」「どういたしまして」タオルで顔と頭をゴシゴシと拭いて、ジャージが汚れるのも構わず校庭にひっくり返った。（4/21） #mi_mi

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冷えた地面が体に気持ちいい。「それにしても部長って本当にバスケが上手かったんですね？」上から竹下君の意外そうな声が降ってきた。「なんか引っかかる言い方だなぁ」「いえいえ素直な感想です。そもそも部長がバスケをしてる姿を見るのも初めてだし」（5/21） #mi_mi

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「ま、そうね。久しぶりだから正直キツいかと思ったけど意外と何とかなるものね」「部長が毎日10kmのジョギングをしてるのは美術部内で周知の事実ですよ？」「何で知ってるのさ」笑顔で答えつつ体を起こす。そのままストレッチを始めた。うん。今日は体の調子がいい。（6/21） #mi_mi

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「つまり今日の練習試合は」「ん？」「僕との賭けは関係なくて、前々から部長とバスケ部の神野先輩との間で話が進んでいたんですね」「そういえば話してなかったっけ。隠してたみたいでごめんね」「いえ、別にいいんですけど。実はさっき、試合中、神野先輩に言われました。（7/21）#mi_mi

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『何の賭けかは知らないけど、君のおかげで美々を引っ張り出すことが出来た。部長の面目も立った。ありがとう』って」「ふーん、あの良子がそんなことをね」立ち上がり、竹下君に背筋を伸ばすストレッチを手伝ってもらう。背中を合わせて相手を背負うアレ。（8/21） #mi_mi

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「んー」。背筋が伸びて気持ちいい。青空を見上げながらは私は話を続けた。「良子とは中学の元バスケ部仲間でね」「ライバルってやつですか？」「ま、うん、因縁がいろいろとあるのよ。あの良子が『新入部員に自信をつけさせたいから協力して』と私に頭を下げてきた時には… （9/21）#mi_mi

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ビックリしたけどね。まさか、こんな形で手伝うことになるとは思ってなかったけど…はい、もういいよ。ありがとう」よし、ストレッチ完了。「それで、どうなんですか？　新入部員に自信をつけられそうですか？」「そうね。大丈夫だと思うよ。 （10/21） #mi_mi

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チームワークはまだまだ改善の余地があるけど、彼女たち一人ひとりのポテンシャルは凄く高いよ」「そうなんですか？　見てて動きがチグハグに思えましたけど」「それは当然よ。少し前までは、みんな別々の中学で、それぞれのバスケを貫いてきたんだから。（11/21） #mi_mi

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チーム一丸となるには、まだ時間がかかるわよ。ただ、なんかもったいないのよね」良子～、ボールをひとつ貸して～！とバスケ部に向かって大きく声をかけると、それを聞いた新入部員の野咲さんがすぐさまボールをパスしてくれた。「ナイスパス！ いい反応だね！」（12/21） #mi_mi

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野咲さんは嬉しそうに、こちらに向かって大きくお辞儀を返す。「もったいない？」「うん」空いているゴールに向かって３ポイントシュートの練習をしながら竹下君の疑問に答える。「野咲さんと最下さんのドリブルも、須々木さんの３ポイントシュートも、…（13/21） #mi_mi

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菅池さんのゴール下のリバウンドも、あともう少し磨けば県大会ぐらい楽に突破できる実力が身に付きそうなのに、何て言うのか、みんな今以上の上達をあきらめているようにも見えるんだよね。私の気のせいかもしれないけど」3ポイントシュート。１０発打って9発成功。（14/21） #mi_mi

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うーん、昔みたいにはいかないか。最後の一発は大きく上に外れて飛んでいってしまった。それを竹下君が取りに行ってくれた。あら優しい。ボールを拾ってドリブルをしながら戻ってくる。おや意外と様になってる。「それは」「え？」「努力が一線を越えるとどうなるのか、…（15/21） #mi_mi

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その体現者が身近にいないからじゃないですか？　例えば部長のような」鋭いパスを返してくれた。うまい。もしかして経験者？「ありがと。ううん、私なんか大したことないよ」すると竹下君がわざとらしく大きく嘆息した。（16/21） #mi_mi

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「試合の途中でベンチに引っ込み、しばらく観察した後、メンバー一人ひとりに指示を出して、その結果、誰も想像すらしなかったような試合展開を組み立てた立役者が何をいいますか。過去に努力をしたことがない人間に出来る芸当だとは思えませんね」（17/21） #mi_mi

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竹下君が真剣な顔で褒めてくれるものだから、ちょっと照れ臭くなった。「みんな、なぜか中学時代の私をよく知ってるんだよね。そんな私に憧れを抱いてくれているみたい。だからアドバイスはしやすかったけどね」「どうして…」すると第三ピリオドを始める笛が鳴った。（18/21） #mi_mi

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「あ、ごめん。聞いてなかった。何？」「どうして部長はバスケを辞めたんですか？」「唐突だなぁ」久しぶりに聞かれたよ、その質問。冗談っぽく答えようと思ったけど、竹下君が真面目な表情だったから止めた。「その質問に答えるのは試合が終わったらでいいかな？」（19/21） #mi_mi

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「ええ、もちろんです。じゃあ賭けをしましょう」「ホント賭けが好きだね、君は」「試合に負けたら答えてください。勝ったらいいです」なるほど。なかなか粋な返し方だ。「オーケイ、じゃあそろそろ本気を出そうかな」「まだ本気じゃなかったんですか」（20/21） #mi_mi

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呆れる竹下君にテヘペロ！と舌を出して微笑んだ後、両手で頬をピシャリと叩いて気合を入れた私は、期待に満ちた瞳が待つコートへ走って戻った。（21/21）（了） #mi_mi