『夢美堂』

―皆さま、ご希望の夢はなんですか― 素敵な空想の街でひっそりと繰り広げられる、少女宙(ソラ)と夢のお話です。 #空想の街 参加作品です。(超絶素人版w)
1
紫織 @bookmark2012

(ドーン...ドドーン...) 遠くで花火の音がきこえる。 「…はぁ。」 何度目かの溜め息をつくと、小さなカウンターに顎をのせた。母の怒った顔が浮かんだが、今日ぐらいは許してほしい。 「こんな日も店番なんて。」 #空想の街 #夢美堂

2012-04-21 20:22:36
紫織 @bookmark2012

ここは橋本駅から歩いて10分ほどの、満月の形をした小窓が目印のひっそりとしたお店─『夢美堂(ゆめみどう)』 夜の19時から0時の間、こうみえてもわたし、宙(ソラ)はまだ女子高生ながら、ここの店主をやっている。 売っているのはそう─店の名の通り、夢だ。 #空想の街 #夢美堂 2

2012-04-21 21:18:05
紫織 @bookmark2012

店と言ってもずらっと何かが並んでるわけでもなく、あるのはカウンターと小さな椅子とキャンドルの灯りが包むだけ。ただ一つ、カウンターの上に置かれた虹色の星型の瓶詰めが、ゆらりと光っていた。その瓶からこぼれる飴を求めに、人々はやって来るのだ。#空想の街 #夢美堂 3

2012-04-21 21:46:58
紫織 @bookmark2012

花火の音も止み、いつも通り静かな闇に見守られる頃。宙はすっかりカウンターを枕にまどろんでいたら、どんどんっと鈍い音に起こされた。 「んー...はい?どうぞ」 返事がない。恐る恐るドアを開けると、車椅子の男性がそこにいた。 「すみません、お邪魔します。」 #空想の街 #夢美堂 4

2012-04-21 22:03:03
紫織 @bookmark2012

中に通すと、彼は満足そうに店中をぐるりと眺めた。 「...コホン。いらっしゃいませ。」 「ああ…すみません。夢を、ひとつ下さい。」 わたしは金色のコインを一つもらうと、星型の瓶を3回ゆっくりと振った。 そして彼の手のひらにコロンと涙型の飴を落とした。 #空想の街 #夢美堂 5

2012-04-21 22:12:53
紫織 @bookmark2012

それはきれいなスカイブルーだった。 「…ありがとう。これでやっと空が飛べるよ。」 彼はそっと口に含むとふわっと笑った。 そしてギシギシと車椅子を軋ませながら店を出て行った。 「おやすみなさい。素敵な夢を…あなたに。」 ...たとえ束の間だとしても。 #空想の街 #夢美堂 6

2012-04-21 22:20:14
紫織 @bookmark2012

わたしがお店を継いだのは、2年前に母が亡くなってからだ。 わたしの家系は代々、女に生まれたものはこうして夢守(ゆまもり)となる定めだ。 人に本当に望む夢を与えるという不思議な力を持つが、その代わり短命で...母もわたしが15の冬に亡くなってしまった。 #空想の街 #夢美堂 7

2012-04-21 22:41:22
紫織 @bookmark2012

やさしくてしっかり者で、厳しい母親だった。わたしがいつでもひとり立ちできるように、必要なことは全て教えてくれた。 …さみしくないと言えば嘘になる。 ある日、わたしはそっと星型の瓶を手に取り、母を想い浮かべながら3回振ってドロップを取り出した。 #空想の街 #夢美堂 8

2012-04-21 22:50:55
紫織 @bookmark2012

出てきたのは、漆黒のドロップだった。初めて見る色だった。 なんとなく怖かったが、舐めながら眠りについた。 ―翌朝。 夢は…見れなかった。 ただただ、漆黒が広がるだけだった。 ―この不思議な力は、与えるためにある― そのことを強く思い知らされた。 #空想の街 #夢美堂 9

2012-04-21 22:58:00
紫織 @bookmark2012

もうそろそろ店じまいかな・・と思っていた矢先、ガチャッと勢い良くドアが開き、女の人がつかつかと入ってきた。 「いらっしゃいま…」 「どういうことよ!」 女はバンッとカウンターを両手で叩くと、キッとこちらを睨みつけた。 「どうって..」 #空想の街 #夢美堂 10

2012-04-21 23:27:13
紫織 @bookmark2012

「昨日飴舐めたけど、なんにも見れなかったのよ!」 そんなはず…。たしかにこの人は昨日来てた人だ。色は淡いさくら色だったのに、どうして…。 「…ちなみに、どんな願いを?」 「どうでもいいでしょ!そんなの…ただ…亡くなった彼に会いたかったのよ。」 #空想の街 #夢美堂 11

2012-04-21 23:37:23
紫織 @bookmark2012

彼女の拳はいつしかわなわなと震えていた。 わたしにはすでに、理由がわかっていた。 「ドロップは、その時その人に本当に必要な夢を見せるんです。」 彼女は涙をためてゆっくりと目をこちらに向ける。 #空想の街 #夢美堂 12

2012-04-21 23:48:14
紫織 @bookmark2012

「あなたに今必要なのは、亡くなった彼ではなく…さくら色に満ちた明日なんです。」彼女はその場に泣き崩れた。神様、どうかこの人に優しい夢を。わたしは瓶からドロップを取り出し、彼女の手に握らせた。「…ありがとう。」「…おやすみなさい。素敵な…夢をあなたに。」 #空想の街 #夢美堂 13

2012-04-21 23:59:28
紫織 @bookmark2012

今日も夢は届いただろうか... わたしは髪をほどいてベッドに入ると、星型の瓶を月光が差し込む窓辺に置いた。夜の間こうして置くと、次の日には瓶が満ちている。 どうして瓶が星型か、どうしてドロップが涙型か…昔尋ねた時、母もわからないと言っていた。 #空想の街 #夢美堂 14

2012-04-22 00:15:41
紫織 @bookmark2012

でもわたしは、きっと星の涙だと思う。 誰かの願いの結晶が、想いが、雫となって溜まっていくんだ。 「…明日も素敵な夢になりますように。」 おやすみなさい、誰か。 眠りゆく街にわたしは目を閉じた。 #空想の街 #夢美堂 15

2012-04-22 00:20:45
柑南 @aoikannna

明日、どうしても寝られそうになかったら、夢美堂ってところに行ってみよう。素敵な夢が見れるかもしれない。 #空想の街 #探し人 #夢美堂

2012-04-22 00:19:23
紫織 @bookmark2012

朝目が覚めると、瓶にはドロップが満ちていた。わたしは大きく伸びをすると、手早く身支度と朝食を済ませた。「よーし。はじめますか。」今日は一週間に一度の、お店をピカピカにする日。母はいつも隅々まで綺麗にしていた。 平日は学校があるから、頑張らなくちゃ! #空想の街 #夢美堂 16

2012-04-22 11:17:00
紫織 @bookmark2012

「…ふぅ。終わった~~。」 最後の満月窓を綺麗に磨き終わると、床にごろんと寝っ転がった。 きれいって気持ちいいんだなぁ…っといけない! 慌てて片付けると、萌黄色のコートを羽織り店を出た。 少し肌寒く、霧雨が降っている。宙はまず遅めのお昼へと向かった。 #空想の街 #夢美堂 17

2012-04-22 15:48:17
紫織 @bookmark2012

「小籠包と担担麺で。」 笑顔の素敵な店員さんに注文を告げると、コートを脱いだ。パンダ食堂はこの天気にも関わらず活気に溢れている。皆、美味しそうな湯気に包まれて幸せそうだ。(笑顔を感じられる仕事もいいなぁ…)わたしの仕事はその瞬間を見ることができない。 #空想の街 #夢美堂 18

2012-04-22 16:04:08
紫織 @bookmark2012

わふわふとあっという間に平らげると、宙はすっかり幸せな一人になって店を後にした。 相変わらず天気は落ち着かない様子だ。 暗くなる前に買い物を済ませなくちゃ...。 宙は小走りに時計塔の方へと向かうことにした。 #空想の街 #夢美堂 19

2012-04-22 16:14:45
紫織 @bookmark2012

「…ふふふ。」 ここはいつものお店、いつものカウンターにわたしがひとり。 ただ一ついつもと違うのは、カウンターで揺れる薄紫のあじさいだった。 『「雨に唄えば」っていうんです。今日入荷したんですけど、こんな日にはピッタリですね!』 #空想の街 #狐 #夢美堂 20

2012-04-22 20:48:51
紫織 @bookmark2012

わたしが通りかかったお花屋さんでもう10分も見入ってた時だった。 ふわふわのしっぽにぴょこんと耳を2つ付けた可愛い店員さんが立っていた。今度はその姿に釘付けになる... 耳がピクピクして、なんだか照れてる様子だった。 (かわいい…狐さん…?) #空想の街 #狐 #夢美堂 21

2012-04-22 20:53:49
紫織 @bookmark2012

『あらぁ、それ可愛いでしょ~。おすすめよ。』『みどりさん』 みどりさんと呼ばれた人は、少し…母に似ていて、なんだか胸があったかくなった。かわいい狐の店員さん(あまねちゃんと言うらしい)からもらったあじさいで、わたしもお店も少し明るくなったみたい。 #空想の街 #狐 #夢美堂 22

2012-04-22 21:01:31
紫織 @bookmark2012

お客さんの方といえば、天気が悪いせいか未だ一人だけだ。 たまに来る、隣のクラスの女の子だ。来る度彼女は決まって同じ願いをし、同じ薔薇色のドロップを持って帰る。 「…ずっと恋、してるの?」 「女の子だもん。当然。相手は毎回違うけどね。」 #空想の街 #夢美堂 23

2012-04-22 21:13:32
紫織 @bookmark2012

彼女はぺろっと舌を出して、悪戯そうに笑った。 「ねぇ、毎日来るから毎日もらえないの?」 「何回も言ってるけど、だーめ。舐めた後は最低でも30日空けないと。夢に取り憑かれてしまうんだって。」 「ふーん…。まだまだ恋したいし、それはごめんかな~。」 #空想の街 #夢美堂 24

2012-04-22 21:20:47
1 ・・ 4 次へ