広範囲では932年ぶりな『ツイノベ祭』 2012/05/21お題「金環日食」
五日前
焦っている。一週間を切ってプレゼントがまだ決まらない。日付だけ伝えて、時間は前日で良かったのに。つい、朝だからって言っちゃった。「えーっ、何。金環食に合わせて、太陽にかざした腕を下げて、指輪を君に。なーんてベタじゃないよね」って、そのままじゃんか。何か代替えを。 #twnovel
2012-05-16 22:16:47前々日
「ほら、日食観測グラス。いやぁ、これで、何十年かに一度の、だったよね。金環日食が見られるんだ。でもさ、粗悪品だと目を痛めるから蛍光灯とかを。おお、見えない。君の姿は見えるぞ。ボクの太陽」「いつの間に月から太陽になったか知らないけど、あなたが話してるの、冷蔵庫よ」 #twnovel
2012-05-19 00:31:23日食鑑賞用のサングラスが売り切れとは。途方に暮れる。おれを使えよ。声がした。周りに人はいない。鳩が地面を突っついているだけだ。痛ぇな。失せろっ。怒鳴り声がして鳩が飛び立った。いいか。日食の日はおれが立ち上がってやるから。おれ越しに見ればいいよ。誰? お前の影だ。 #twnovel
2012-05-19 15:51:57前日
納戸をかき回していた父が、黒いセル板を取り出してきた。「これだ、爺ちゃんがあの時使っていた、金環日食の観察板だ。危ないからって使わせて貰えなかったけどな」。庭に出てセル板を空にかざすと浮かびあがってきた・・四十八手図絵が!えっ爺ちゃん、あの時何を見てたんだよ! #twnovel
2012-05-20 15:36:52黒い眼鏡を配る。金環日食のあの時間がチャンスだ。作戦の成功を祈って、黒い眼鏡を配る。さあ、いよいよ決行だ。#twnovel 人々の眼に、黒い眼鏡を確かめてから、僕ら旅立つ。従い続ける人生からの解放。「影」の行列が空へと吸い込まれる。黒い眼鏡越し、目の前を通る影に誰も気づかない。
2012-05-20 20:55:58#twnovel 僕んちには悪魔が住んでる。ずっと前から。食べ過ぎで太るのも、フィギュアを買って金欠になるのも。全て悪魔の囁き。今、財布には数枚の百円玉のみ。これで全財産は終わる。悪魔が囁いた。「なあなあ、明日の金環日食、肉眼で見ろよ。手帳貰っちゃえ」僕は初めて、悪魔を撃退した。
2012-05-20 21:26:35#twnovel 太陽神は怒っていた。あいつら祈りや祭りなどの太陽税をあまり払わなくなってきた。太陽のありがたみを教えるため、神はたまに太陽を部分的に、ときには全部隠している。今回は外側の端を残して中を全部隠してやろう。しかし隠すたびあいつらがむしろ喜んでるようなのは気になる。
2012-05-20 21:30:52#twnovel ラグランジュポイントと地球を結ぶ高速道路で、渋滞に巻き込まれた。「生鮮食料運搬車が事故を起こし、積荷が散乱しています」と交通情報。あ、こっちにも流れてきた。柑橘類の果実だ。そのひとつが、ちょうど太陽に重なった。太陽が光の輪のように見えた。まるで、金の環のように。
2012-05-20 22:27:22明日は数十年ぶりの日食だというのに雨らしい。そうだ、てるてる坊主を作ってfacebookにアップしよう。僕は面白おかしく顔を書いたてるてる坊主を作ってアップした。翌日、雲ひとつない晴天だった。僕は泣いた。「いいね」やコメントはなかった。#twnovel
2012-05-20 22:38:42#twnovel おかあさんがくれた曇りガラスを割ってしまった私は、それでも日食が見たくて、歯を食いしばりながら欠け始めた太陽をにらんだ。目の底を指を押し込まれるような痛みに耐えられたのはほんのしばらく。たまらなくなって太陽に手をかざすと、手の甲にぽっかりと開いた黒い穴を見つけた
2012-05-20 22:48:23#twnovel 恋人と日食を観察していた。俺は太陽に手を翳して摘む動作をする。ほら、とってやったぞ。手の中に隠していた指輪をころりと相手の手のひらに転がす。金色の輪に緑の小さな石。誕生日、おめでとう。お前と一緒にいられて良かった。今までも。そしてこれからも。
2012-05-20 22:57:10「あっ!」飛び起きた時には既に金環日食は終わっていた。次に見られるのは300年後という。男は準備していた日食グラスを呆然と見つめていた――。「あっ!」飛び起きた時には既に金環日食は終わっていた。次に見られるのはいつだろう。男は準備していた日食モードを解除した。 #twnovel
2012-05-20 23:53:59当日
「明日の金環を指輪に」というカップルたちに不思議な魔女は微笑ましいねぇと目を細める。きっといくつもの環が彼ら彼女らの指に輝くのだろう。本物は空に浮かぶたった一つだけでも。雲を抜けて箒から身を起こし、晴れたらいいねと口ずさむ。こればかりは不思議な魔女にも判らない。 #twnovel
2012-05-21 00:37:58#twnovel 金環日食が見られるらしい。ひとりで見る輪の太陽を何年後に出会う誰かもひとりで見ていて、それを何十年後かに話し合えたら、それはそれで素敵なんじゃないだろうか。そう思わないとヤワな部分を焦がされてしまいそうだから、あの手この手で遮るのだ。ピンホールから遠い光を覗く。
2012-05-21 01:39:09金環日食が起こる。私は早々と遮光グラスを買った。子供にも見せてやるためだ。珍しい体験から、刺激を受けてくれたら。ねえ、月曜の朝は日食なんですって。一緒に見てみない? いいよ。職のない人間の心には、もう蝕が起きてるんだから。閉ざされたままのドアの前で、私は泣いた。 #twnovel
2012-05-21 02:20:26お日様が月に喰われるって人間は大騒ぎ。一体どういう心境の変化?日が月に喰われることを、人間はお嫌いと思ってた。ついさっきだって喰われてたけど、そういえば今日はため息が少ない。不思議。日曜が月曜に喰われるの、いつもあんなに悲しむのににゃ。#twnovel 太陽が隠れた。ミケは眠る。
2012-05-21 06:59:38#twnovel 「…で、雨は無理だったが、なんとか曇らせることは出来たんだ」「お祭り騒ぎがそんなに気に入らないのかい?」「…ここの城址の上空で金環蝕が起きているのを気づかれるわけには…」 早朝のバー。徹夜続きだったような顔の男は、呟きながらカウンターに突っ伏して眠ってしまった。
2012-05-21 07:00:26「ほら日食よ!すごいねえ!」「取ってやろうか?」「え?」空に向かって手を伸ばし、太陽を掴む仕種をする。そして彼女の手をとり、薬指に、隠し持っていた指輪をするりと嵌めた。 #twnovel 「もしもし、私、ひよこ幼稚園教諭の…はい、あ、やはりお母様の指輪。では帰りにお返ししますね」
2012-05-21 07:38:25#twnovel 今日は金環日食だ。前日まで観賞用グラスを手に入れれず、望みの本屋を全滅だった。日食のときには寒くなるらしい。それだけでも話題に触れておきたいから、早めに家を出た。確かに肌寒い、かも知れない。駅まで歩くといつも通りのビジネスマン。だんだん空が明るくなってきた
2012-05-21 08:06:57待っていた。百年以上。太陽の影に封じられたかの人を助けられる日を。太陽が完全に金の環となったその瞬間、白いたおやかな手が現れる。手を伸ばす。しっかりとつかみ、僕は君を引っ張り出す。「お帰り。遅くなってごめん」腕の中の君を強く抱き締めた。 #Chrys #twnovel #金環日食
2012-05-21 08:22:02