なぜ金田一耕助のデビュー作は『本陣殺人事件』なのか

金田一耕助は昭和12年「本陣殺人事件」を解決して名探偵の仲間入りをした。 しかし作中には、金田一耕助は本陣の事件以前にすでにいくつもの大事件を解決し、警察にも名を知られる存在であった経歴が書かれている。 金田一耕助のデビューといえば、本来ならそれらの事件を指すはず。なのになぜ、横溝正史はそれらの大事件を小説にせず、後々まで「本陣殺人事件」を耕助のデビュー作と称したのか。 そんなことをつらつらと連投ツイートしたものをまとめました。
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木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

金田一耕助が本陣殺人事件の直前に大坂で解決した「むつかしい事件」、「かなり大袈裟なもの」で「警保局かなんかのお役人から身分証明書」をもらっていたとの記述あり。いま検索してみたら警保局とは全国の警察を統括していた内務省内の部局とのこと。高倉健金田一の警視庁嘱託を思い起こさせる設定。

2012-07-06 11:28:54
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

金田一耕助が一柳家の面々に紹介された際、鈴子が「えらい探偵さんというのはなたのことなの?」と聞いたのも、三郎がライバル心をむき出しにしたのも、彼に警保局の依頼を受けて大阪まで事件の調査にやってきた探偵という肩書きがあったればこそ。金田一耕助は初登場時からチート設定だった。

2012-07-06 12:09:50
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

たてつづけに大事件を解決し、警察の上部組織からも調査を依頼されるほどの勢いがあった新進探偵・金田一耕助にとって、岡山の片田舎で起きた殺人事件など「そんな平凡な事件にいちいち引っ張り出されちゃあたまらない」と感じたのも無理はない。だが事件はその慢心を戒めるかのような展開を見せた。

2012-07-06 12:19:31

金田一耕助が現実の事件に失望していたことを示すことば

木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

「正直なところはじめ私はこの事件に、あまり気がすすまなかった。新聞を見ると三本指の男が怪しいとある。むろんそのほかにもいろんな謎や疑問があるようだが、要するにそれは事件の核心となんの関係もない偶然がかさなりあって、たまたまそういう条件を、つくり出したのではないか。

2012-07-06 15:17:36
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

そういう偶然のころもを、一枚一枚ぬがせていけば、あとに残るのは結局三本指のルンペンが、通りがかりに演じた凶行─と、そんなふうなありふれたものになるのではないか。お世話になった小父さんへ義理があるからやって来たようなものの、そんな平凡な事件にいちいち引っ張り出されちゃあたまらない。

2012-07-06 15:18:00
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

次々と難事件を解決し警察にも一目置かれる存在となっていたヤング金田一耕助。しかし現実の事件は思い描いていた探偵小説の世界とは程遠いことを実感していた。「探偵小説のような事件は現実には起こらない」そう信じ始めていた耕助には、一柳家の密室殺人は偶然の産物にしか思えなかったのだろう。

2012-07-06 13:29:47
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

味気ない現実の事件に失望し、密室殺人にも食指を動かさなくなっていた金田一耕助。眠れる彼の探偵趣味を呼び覚ましたのは一柳家の探偵小説コレクション。「ひょっとするとこれはいままで考えていたような事件ではなく、犯人によって念入りに計画された事件ではあるまいか」耕助の興奮が伝わってくる。

2012-07-06 13:35:20

金田一耕助が探偵小説に出てくるようなトリックを駆使した事件と向き合い、「名探偵」として生きる覚悟を決めた瞬間のことば

木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

──一柳家の門をくぐった時の私の気持ちを正直にいうと、そんなものだったんです。それが急に興味をおぼえはじめたというのは、三郎君の本棚にずらりとならんだ内外の探偵小説を見てからでした。そこにともかく『密室の殺人』の形態をそなえた凶行が演じられている。

2012-07-06 15:18:15
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

そして、ここに『密室の殺人』を取り扱った多くの探偵小説がある。これをしも偶然というべきだろうか。いやいや、ひょっとするとこれはいままで考えていたような事件ではなく、犯人によって念入りに計画された事件ではあるまいか。

2012-07-06 15:18:27
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

──そしてその計画のテキストが、即ちこれらの探偵小説ではあるまいか。そう考えたとき、私は急になんともいえぬほど嬉しくなって来たものです。

2012-07-06 15:18:37
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

犯人は『密室の殺人』という問題を提出して、われわれに挑戦して来ているのだ。知恵の戦いをわれわれに挑んで来ているのだ。ようし、それじゃひとつその挑戦に応じようじゃないか。知恵の戦いをたたかってやろうじゃないか。こうそのとき考えたものでした」

2012-07-06 15:18:50
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

警察の信頼を得ながらも不本意な事件にばかり駆り出されていた金田一耕助は、岡山の一柳家で起きた殺人事件を解決することでなぜ探偵になろうとしたかの初心を取り戻した。その意味で「本陣殺人事件」はまぎれもなく我々が知っている名探偵・金田一耕助のデビュー作といってさしつかえない事件だった。

2012-07-06 13:39:56
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

なぜ「本陣」以前に金田一耕助が手がけた大事件が小説化されなかったのか、それらの難事件があるにもかかわらずなぜ「本陣」が金田一のデビュー作と位置づけられているのか。語られざる事件を整理していたら思いついたので連投ツイート。

2012-07-06 13:47:19
木魚庵@『金田一耕助語辞典』 @mokugyo_note

「本陣」で初めて描かれた金田一耕助! 形のくずれた帽子、見てすぐそれとわかるかすりの対の羽織と着物に縞柄の袴、紺足袋にちびた下駄、左手は懐手で右手にステッキと原作の描写をすべて再現している。 http://t.co/pHLolJam

2011-09-30 12:57:12
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