0705 さそりんプレゼンツ「あなたの知らない世界」第一話
蟹は次の日も学校に来なかった。その次の日も。またその次の日もだ。風邪をこじらせたのか、とうとう夏休みに入るまで蟹は一日も学校に来なかった。──だんだんクラスも変な空気になっていったらしい。というのも、誰も蟹の話題を口にしない。朝の出欠のときも。まるでそれが当たり前みたいに。
2010-07-05 01:35:21夏休みに入った。牡羊は、なんともいえない気持ち悪さがピークに達していたもんで、ついに蟹の携帯に電話をかけた。でもいくら呼び出しても電話に出る様子もないし、メールしてみても返信がないんだな。奴はとうとう蟹の家にまで直接行ったっていうよ。家族と一緒にマンション暮らしだったらしい
2010-07-05 01:38:01家は空き家になっていた。──急に引っ越していったそうだ。何もないがらんどうの部屋が、クーラーもつけてないのに妙に寒かった。牡羊はこの時になってようやく自分の浮気を後悔したっていうよ。その後の蟹の行方を知る人間は一人としていなかった
2010-07-05 01:42:52そんなすわりの悪い状況で、結局魚との関係もうまくはいかなかったそうだ。夏休みの間に自然消滅した。牡羊は結局夏休みの間、蟹が戻ってくるのを待つ羽目になった。毎日毎日カレンダーの日付が進んでいくのを見ながら。
2010-07-05 01:46:47蟹はどこへ行ったのか。自分は蟹を愛していたのか。蟹は自分を愛してくれていたのか。どうしていなくなってしまったのか。忘れることもできずに毎晩毎晩。
2010-07-05 01:50:20八月の下旬にまで差し掛かっていたと思う。ある晩、牡羊の携帯が鳴った。ディスプレイに蟹の名前が出て心臓が跳ね上がるような思いをしたそうだ。牡羊は恐る恐る携帯を取って通話ボタンを押した
2010-07-05 01:53:05「もしもし、蟹です」あの声だった。恋人として聞き続けていた、愛情に満ち溢れた穏やかな声。牡羊はまっさきに聞いた。「お前いまどこにいるんだよ」
2010-07-05 01:55:42牡羊は、その時とてつもなく背筋が寒くなった。蟹は言った。「誰にも見られないように洗面所の鏡を見てほしい」牡羊は逆らえない圧力に突き動かされて、夜中の洗面所まで電気もつけずに歩いていったそうだ。そしておそるおそる洗面所の鏡を見ると
2010-07-05 01:59:36……牡羊がその後どうなったかって?今も普通に暮らしてるよ。ただ、言うことに若干整合性がなくなったらしいな。あと、背中と肩が異常に冷たいんだ。いつも。冷えからくる肩こりがひどすぎてスポーツもろくにできなくなっちまったらしい。それを指摘すると奴は土気色になった顔で笑うんだ。【終】
2010-07-05 02:08:37@hitsu_bot ただ無心に愛して、愛して、愛していると、急に泣きたくなるんですよ。そんなときに受け止められると俺は殻の下だけみたいなよわよわしい存在になってしまうんですね。
2010-07-05 02:25:35