『ハルに咲く、漆黒のシオン』
葬式の朝は、天気予報とは裏腹に、ボソボソと霙が降っていた。そういえば、彼女と会った朝も、そうだった。俺は、喪服みたいな真っ黒な服を着ていた…#yamifjmr
2012-07-10 00:50:40変な朝だった。曇天の中、光線に包まれた彼女は僕のマリア。むせる。いや、実際は光なんてなかった。でも僕には確かに見えたんだ。悲しみの連鎖を世界でたった一人で受け止めていた。僕は何もできなかった。ハルシオンだけが揺れていた。 #yamifjmr
2012-07-10 01:09:46俺が彼女に会った朝もこんな雨だったが、不思議と暗い気持ちではなかった。あれは確か第4次世界大戦中のイギリス。戦時中でも一時の安らぎの期間はあった。黒い雨が降り注ぐが、空は明るい。あの頃聴いていたのは凄い昔の曲。Radioheadの・・・あれは何だったっけ? #yamifjmr
2012-07-10 01:25:54そういえば、世界で最もシンプルな数式を思いついた科学者は、第三次世界大戦があるならば、人類は棍棒で争うだろう、と言ったそうだ。ところがどっこい、人類は未だ二十世紀の火器で殺しあう。僕もそうだ。十四歳で新ソ連製の銃を渡されてから。…暗転。#yamifjmr
2012-07-10 01:32:21『お花は、いかがですか?』神聖イスタンブール帝国と大ハプスブルク王朝との紅雪の戦いの後、ブタペストで兵站を調達していた僕らは一時の休息を得ていた。戦火と無縁に見えるこの町にもクスリは蔓延していて、まともな眼をしている人は一人もいなかった。『いらない…ですよね』 #yamifjmr
2012-07-10 01:50:14センチメンタルな戦い、後世の歴史家たちによってそう呼ばれるこの戦いの中では、愛も欲望も、全てが混ぜこぜであった。俺は忘れない,。彼女のピアスの片方を、ポケットに握りしめたまま、俺は東へ向かった。 #yamifjmr
2012-07-10 02:00:58俺にはその時彼女が差し出した花にも…、彼女の可憐さにも気づかなかった…。その言葉に何も返すことなく僕は歩きだしていった。…東へ向かう意味さえも知らずに………。 #yamifjmr
2012-07-10 02:08:24東へ…東へ…。少なくとも、言えることがある。僕は、愚か者だったと。彼女を損なっても、英雄に僕はなれるはずだったと。星だって撃ち落せると思っていたのだ。だから、これは、僕自身への葬送曲を奏でるのだ。それは、僕を信じてくれた、平和を願った彼女のためでもある。#yamifjmr
2012-07-10 02:15:22東に向かって歩く。一体どのくらい歩いたのだろう。太陽を追いかけるように歩いても歩いても太陽には追いつかない。太陽は沈んでいき、いつの間にかいなくなったかと思うと今度は後ろに浮かび上がってくる。僕にとってあの娘は、いつも近くにいて、届きそうで、とても遠い。 #yamifjmr
2012-07-10 02:25:30彼女を捕まえた時、俺は太陽をも掴んでしまったのかもしれない。あんなに遠かった太陽は、触れた途端に星屑になってしまうんだ。後に残るのは、星海を泳ぐさかなと、焦土にたゆたう名前も無い花だけだ。これは僕らが花畑で惑星(ほし)を撃ち落とす物語ー #yamifjmr
2012-07-10 02:41:21『シベリア超特急をご利用ありがとうございます。次は…』俺は新ソ連へ向かっていた。前大戦時に重力子操作装置「アトモス」が発明され、人は翼を失った。人が空を手に入れようというのが神への反逆そのものだったとも言える。『次はどの街に停まるのにゃぁ♩』耳元で猫が嘲る。 #yamifjmr
2012-07-11 01:28:45行く宛は定かではない。翼をもがれた蝶がどこへ行けるというのか?サナギにすらなれない俺が東へ向かうのは滑稽な話だ。何度読み返したかわからない手紙に再び目を落とした「晴れることなき闇を裂く7つの刃…その1輪たる君に告ぐ…東にて待つby 業を燃やす者」 #yamifjmr
2012-07-11 02:15:06ここは酷い消毒液の匂いがする薬物を運んだ貨物列車。世界各地に点在する「アトモス」は世界に闇をもたらし、人類の進化を止めた。この手紙はそのアトモスを破壊せんとする反組織「エヴァネッセンス」からなのだろうか?列車は新ソ連の国境沿いに来たらしい。外から女の声がした。 #yamifjmr
2012-07-11 22:39:10「はい、ミリアです。何?この列車に危険分子が乗り込んだ可能性が?了解です、大佐。あとはお任せください。」コツコツと足音が近付いて来る。やれやれ、東へ向かうことは危険だとは覚悟していたが、俺はもう戦いたくはない。俺の漆黒の刃はもう永遠の闇の中に封印したんだ #yamifjmr
2012-07-12 01:21:57思えば…誰にも言えないことだが…あの任務を受けた日から、この日が来ることは覚悟はしていた…俺の中の『可能性の獣』の目が覚めるのだ…#yamifjmr
2012-07-12 16:02:31俺は物心ついた頃から傭兵団【レーバテイン】に所属していた。意味は「裏切り者の杖」。あの日俺達はポーランドの片田舎に潜入し、大ドイツから逃走した科学者の身柄を確保するというミッションにあたった…そこにあったモノが俺の全てを変えてしまうとは、知る由もなかった #yamifjmr
2012-07-13 00:27:18…任務は簡単に成功すると思った…しかし研究所に仕掛けられた罠によってオレは右目を失い、代わりに得たこの世の全てに絶望をした…「そろそろこっちにくるにゃ」「しっ、黙ってろベルフ」女が乗客チェックをしながらこちらに向かってくる… #yamifjmr
2012-07-13 01:04:53「お客様、この旅はここで終点でございます」女の声が聞こえると同時に、銃のトリガーを引く鈍い音が聞こえる。これは「赤い戦車」の音だ。あんな重火器を女が扱ってるだと!そんなことがある訳がない!「まずいにゃ!ディル!」俺の身体はかつてないほど震えていた。 #yamifjmr
2012-07-13 01:48:53俺は顔を伏せた。『沢山のことを聞く気はありませんわ』そういって『…博士が死にました。貴方がやったのですか?』…俺はどうやら最悪の歯車が回り出したことを悟った。面をあげて、決めた。殺す。#yamifjmr
2012-07-13 02:03:09『博士にもお前との問答にも、興味ないね』俺は腕の仕込み矢を女に対して放った…が、手の赤い戦車で防がれる。 『それがあなたの答えね…消去します!』轟音が上がる。あらゆる金属を弾丸に替えてぶっ放すこいつが動き始めたら死だ。しかし…『な、なぜバレルが回らないの!?』 #yamifjmr
2012-07-13 03:41:04「…ソイツはもう使えないぜ。相棒が部品を少し喰っちまったからな。」「なっ…!?いつのまに…!?」女の後ろでベルフが呟く「まずい鉄だにゃ…」「…猫!?いや…アトモスクリーチャか!?」「…後ろを向いている余裕があるのかい?」 #yamifjmr
2012-07-14 19:03:15