茂木健一郎氏 @kenichiromogi 【ああ、勘違い】連続ツイート

2012.7/13 茂木健一郎氏:連続ツイート653回 【ああ、勘違い】 …この『処女の泉』を見たのは、確か池袋の文芸座(まだあるかわからないけれども)だった。二十歳そこそこの頃。古ぼけた名画座で、ベルイマンの映像世界に浸っていると、周りの様子がどうもおかしい。へんなおっさんがあちらこちらに来ていて、なんだかもぞもぞ落ち着かない様子である…
0
茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第653回をお届けします。文章はその場で即興で書いています。本日は、さっきシャワーを浴びながらふと思い出したこと!

2012-07-13 06:54:08
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(1)スウェーデンのイングマール・ベルイマン監督と言えば、本当に美しい映像を撮る詩人である。『ファニーとアレクサンデル』の冒頭、白い雪の中に色とりどりの花が置かれた景色とか、『夏の夜は三たび微笑む』 で、仕掛け時計の人形が回るシーンとか、ため息が出るほど美しい。

2012-07-13 06:56:11
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(2)そのベルイマン監督に、『処女の泉』という名作がある。白黒映画で、全編に叙事詩のような荘厳さがある作品。人間の感情の振れ幅や運命の深さ。復讐をしようというお父さんが、蒸し風呂に入って、自分の裸の身体を枝でぺしぺしと叩くシーンが、印象に残っている。

2012-07-13 06:57:43
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(3)この『処女の泉』を見たのは、確か池袋の文芸座(まだあるかわからないけれども)だった。二十歳そこそこの頃。古ぼけた名画座で、ベルイマンの映像世界に浸っていると、周りの様子がどうもおかしい。へんなおっさんがあちらこちらに来ていて、なんだかもぞもぞ落ち着かない様子である。

2012-07-13 06:58:59
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(4)やがて、おっさんたちは、「あ〜あ」と退屈したようなそぶりを見せ始め、一人、二人と映画の途中なので出ていってしまった。不思議なこともあるものだと思ってそのまま映画を見続けた。終わって、劇場を出た瞬間に「あっ」とわかった。あのおっさんたちは、勘違いしていたのだ。

2012-07-13 07:00:22
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(5)ベルイマンの『処女の泉』は文芸大作なのに、題名で勘違いして、よからぬ期待をして入ってきたのが、全然違うので、つまらねえ、と出ていってしまったおっさんたち。道理で、どう見ても名画座に来る観客とは違うとは思っていたが、まさに「ああ、勘違い」の一幕だったのだ。

2012-07-13 07:01:51
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(6)題名だけで、こんな感じなのか、と思っていて、実際には違うということはある。ツルゲーネフの『初恋』は、想像していたようなソーダ味ではなく悲惨な話だったし、それを言うならトルストイの『アンナ・カレーニナ』も。そもそもタイトルを、『アンナ・カレニーナ』と長らく勘違いしていた。

2012-07-13 07:04:23
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(7)勘違いと言えば、いちばんの勘違いは庄司薫の名作『赤頭巾ちゃん気をつけて』であろう。読むまで、赤頭巾ちゃん=女の子が、悪いオオカミさんに狙われて、キケンな思いをするちょっといやらしい小説とばかり思っていた。実際に読んでみたら、感動の青春小説であった。

2012-07-13 07:06:44
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(8)タイトルの『赤頭巾ちゃん気をつけて』も、ある素敵な場面に由来しているのだが、これ以上書くとネタバレになるので、まだの方は是非読んでください。同じように『ライ麦畑でつかまえて』も、読むまで、ライ麦畑で男の子と女の子が捕まえごっこをするのだと、勘違いしていた。

2012-07-13 07:08:09
茂木健一郎 @kenichiromogi

あか(9)「ああ、勘違い」の不思議なところは、実際に作品を読んで、その実体を知った後も、何とはなしにその前のイメージの残像があるということである。あの日、池袋の文芸座でベルイマンの『処女の泉』を途中で出ていってしまったおっさんたちの脳には、一体どのような残像があるのであろうか。

2012-07-13 07:09:29
茂木健一郎 @kenichiromogi

みなさんも、恥ずかしい勘違いはありませんか? あったら、告白してみませんか? 以上、連続ツイート第654回「ああ、勘違い」でした。

2012-07-13 07:10:34