ゾンサバ的食事事情　その３

28日目 食べるものがある。ということ。

【ゾンサバ的食事事情 番外】

路上に止まるオートバイ。その傍らで日本刀を抱えるように座り込む男。
「ゾンビか死神かと思ったが、なんだ人か。恥ずかしい話だが、もう食う物もなくてな」
私が近づくと、その男性は力なく顔を上げてそう答える。

フライパンに米、それから同量の水。そこに秋刀魚の蒲焼の缶詰、生姜、酒を加える。
後は蓋をして炊き込むだけの単純な料理。
久々に何か作ろうなどと思ったのは唯の気まぐれ。そんな時にこの男性が居たのも唯の偶然。

食事を終えた男は少しの間その手に持つ椀を眺めていたが、すっと立ち上がると自らのバイクにまたがる。
「こんな地獄で病院を作ろうなんて狂った男の話を聞いたんだ。最後にそいつの顔を拝んでやろうかと思ってな」
エンジンを始動するセルの音。続いてV-TWINのエンジン音。
何かを決心したことを感じさせる男性の目。その主の意志と共に生き返ったバイク。
「お前さんも一緒に行くかい？」
その言葉に私は無言で首を横にふる。

「そうかい。じゃあ俺は行く。メシ、美味かったぜ」

振り返らずそう言い残し去っていったその男性とは何故かもう一度会えるような、
そんな気がした。

【ゾンサバ的食事事情 28日目】

コンソメを湯に溶かしただけのスープ。それに石のように硬くなってしまったパンを浸し、食べる。
口の中に不快な感覚。元々味などに期待していた訳ではないのだが、そうではない何か。
見ればパンにカビ。調べるとこれ以外にも幾つかの食糧がダメになっている。

手持ちの食糧はもう残り少ない。
あとどれだけ生きられるのだろうか。
あとどれだけ、彼女を待っていられるだろうか。

２９日目 生きている。ということ。

【ゾンサバ的食事事情 29日目】

それは廃墟と化した街の路地を抜けた直後。
私は巨大な鉄の塊がぶつかってきたかのような衝撃を受けて、横に吹き飛ばされる。
受身も取れず壁に激突した私の目の前で、身の丈２ｍ以上はありそうなナニカが私を見下ろしている。
ヒグマ。こんな物までゾンビ化しているのか。

こんな物に対抗する手段は私にはない。逃げなければ！
頭では理解しているのだけれど、私の体は蛇に睨まれた蛙のように動いてくれない。
ずしん。また１歩ヒグマが私に近寄る。
私の体は意志を伝える回路が断絶してしまったかのように動かない。
目を瞑ることさえできない。

その時、何の前触れもなくヒグマの頭部が爆ぜた。
数瞬遅れて銃声。多分２発。
頭を撃ち抜かれたヒグマは地響きを立てて倒れ落ちる。

助かったのか。いや、助けられたのだ。
私は立ちあがり、姿の見えない恩人達に頭を下げる。

脇腹に激痛が走る。アバラに罅が入ったのか。
でもまだ動ける。まだ生きている。

その頃の同行者