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小話/星の巡り

転生ネタ。鶴姫と関ヶ原と刑部。
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佐夜子 @s69_cd

子供が泣いている。祭囃子や喧騒にも負けぬ程の大きな声を張り上げて。家族を探して泣いている。「刑部さん…」隣に佇む連れを呼べど、反応は無い。彼の服をくい、と引っ張り、もう一度。「……吉継さん」「…うん?」連れは漸く振り返り。僅かな寂しさを押し込め、笑みを返した。「星の巡りです」

2012-07-14 01:08:32
佐夜子 @s69_cd

「星の巡り、とな」「はいっ。吉継さんが前におっしゃってたこと、本当でした!」「…ぬしは未だに本気にしておったのか。ヒッヒ。あれは戯言よ、ザレゴト」「でも、本当の事でした!というワケで、迷子救出に行って参りますねっ」「……迷子とな。さて、とんと話が見えぬわ」「こっちの話です☆」

2012-07-14 01:27:40
佐夜子 @s69_cd

駆ける、駆ける。声の方へ。幼子がいる場所へ。(……今、思えば。貴方はあの頃も、幼い子供のようでした)探して、探して。ずっと、ずっと。真っ直ぐに、迷い続けて。(貴方は、たった1人の背中に、誰を、何を、探していたのでしょう)星が巡り巡って。今もまた、求めている子供へ。駆ける。

2012-07-14 01:36:35
佐夜子 @s69_cd

人混みを掻き分け、辿り着いた先。大きな声で泣く子供。己を飾る藤色の甚平が、ぼろぼろ、と降り注ぐ涙で濡れている。その端をぎゅっ、と握りしめ。「ちかぁ…!まごぉ…!…っく、…いえ、やすぅぅぅ…っ!」わんわん、と、誰かを呼び続けている。周りは、ちらとそれを見遣りながら、通り過ぎるだけ。

2012-07-14 01:49:04
佐夜子 @s69_cd

「迷子になっちゃったんですね!お姉さんが、一緒にドーンと探してさしあげます☆」「!…だれ?」「わたしは鶴っていいます。あなたのお名前は?」「……みつなり」「みつなり君ですねっ。今日のお祭りは、ご家族といらしたんですか?」「…ちかと、まごと、いえやすと、きた」

2012-07-14 01:57:36
佐夜子 @s69_cd

「お父さんとお母さんと……ご兄弟…ですか?」「そう。ちかは、パパ。まごは、ママ。いえやすは、にいに」大声で泣くのを止め、子供は問いに答える。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、それでも、直ぐに。「…そうですか。では一緒に、パパとママとお兄ちゃんを探しに行きましょうっ」「うん!」

2012-07-14 02:06:30
佐夜子 @s69_cd

はぐれないように。今度は、迷子にならないように。小さな身体を抱き上げ、この腕に納める。小さな手が、きゅっ、と服を掴んでくる感触。(相変わらず、ですね。貴方は、とても真っ直ぐ)懸命に抱き着く様に、くす、と笑みを溢し。「さあ、行きましょう!皆さんはどちらにいらっしゃるんでしょうね」

2012-07-14 02:14:41
佐夜子 @s69_cd

ぐるり、ぐるり。立ち並ぶ屋台のひとつひとつを、二人で廻り。何度も何度も、自分達が思い描く人物を、視界に入れようと首を回す。(“ちか”はきっと、海賊さん。“まご”はきっと、孫市姉さま)確信にも似た感覚。確実では無いけれど。自身の記憶が『間違いない』と告げている。(…“いえやす”は)

2012-07-14 02:25:10
佐夜子 @s69_cd

「みつなり君は、パパとママはお好きですか?」ふと、問い掛ける。きょろきょろ、と辺りを見回していた小さな頭が、此方を向いた。「すき!ちかは、おもちゃつくってくれる!まごは、こわいけど、やさしい!」「うふふっ、素敵なご両親なんですね!……では、お兄ちゃんは…いえやす君は?」

2012-07-14 02:31:51
佐夜子 @s69_cd

真っ直ぐに、あの背を求め続けていた。そして、想いをぶつけ合っていた。故に、その心は迷い込んでいた。深く、深く。思い返さば、過るのは、そんな姿のみ。数多の星が巡っても。彼らは、それを続けるのだろうか。

2012-07-14 02:41:42
佐夜子 @s69_cd

「いえやすも、すき!いつもいっしょ!」応えは、屈託の無い笑顔。

2012-07-14 02:44:26
佐夜子 @s69_cd

「三成!みつなりーーーっ!」「あ、」子供を呼ぶ声。見れば、大きな男に肩車された少年が、ぶんぶん、と此方へと手を振っている。その姿に応えようと、子供は地面に降りたい、とせがんだ。「はい。気を付けて下さいね」「うん」それを見た少年も、男から降り、子供へと駆け寄ってくる。「三成!」

2012-07-14 02:54:21
佐夜子 @s69_cd

「いえやす!いえやす!」「探したぞ、三成…ごめんな、ひとりで怖くなかったか?」「こわくない。つるが、いっしょだった」ぎゅっ、と兄にしがみつく子供。弟の頭を撫でながら、それを受け入れる少年。幼い子供達の再会に、自然、顔が緩む。「っとに、心配かけさせやがってよぉ…このバカ息子」

2012-07-14 03:00:59
佐夜子 @s69_cd

少年と共にいた男が、ぺちん、と子供の頭を叩き。此方へと振り向く。「悪ぃな、嬢ちゃん。アンタがコイツを保護してくれたのかい?」「はい。とても大きな声で泣かれていたので。でも、見つかって良かったですねっ」「そいつぁすまなかったな。だが、おかげで助かったぜ。コイツ、すーぐ迷子になんだ」

2012-07-14 03:08:25
佐夜子 @s69_cd

困ったガキだろ、と苦い顔で、カラカラ、と笑う。それでも、安堵の雰囲気は、ありありと浮かんでいた。「うふふ、今度はしっかりジーッと、見ていてあげて下さいね」「おうよ!今日はホントにありがとな、嬢ちゃん。…ほら、サヤカんトコ戻るぞ!」言いながら、父は子供達へ声をかける。

2012-07-14 03:19:22
佐夜子 @s69_cd

「わかった!…どうしたんだ、三成?」「つる、つる」少年は弟の手を確と握り、父の声に応える。だが、子供は兄の手を握り返すと、真っ先に此方へと向かって来た。「つる、いっしょにいえやすをさがしてくれた。だから、ありがと、する」「そうなのか?じゃあ、お礼しなきゃだな!」

2012-07-14 03:26:51
佐夜子 @s69_cd

「弟と一緒にいてくれて、ありがとう!」「ありがと、つる!」にっこりと、眩しく思うような顔で。二人は笑う。(…ああ、)「どういたしまして。もう、迷っちゃ、ダメですよ?」迷いの無い幼子の顔、二つ。(あの頃とは違います、)「みつなり君、いえやす君。もう、その手を離しちゃ、ダメですよ」

2012-07-14 03:35:10
佐夜子 @s69_cd

迷わないで。数多の星が、幾度、巡り巡っても。もう、迷わないで。貴方達は、たくさん、迷ったのだから。迷子になって、たくさんたくさん、泣いたのだから。だから、今度は、迷子にならないように。その手を離さないで下さい。

2012-07-14 03:44:13
佐夜子 @s69_cd

去りゆく親子に手を振り、ただ、願う。「…やれ、ぬしのお節介も筋金入りよな」「吉継さん?もしかして、追い掛けてきて下さったんですか?」「おかげでわれは草臥れた」ふと、隣に知己が立つ。ヒッヒ、と笑うその顔に浮かぶは、呆れのみ。「…吉継さん、あの方々に見覚えは?」

2012-07-14 03:52:44
佐夜子 @s69_cd

突然の問いに、ぱちり、と目が瞬く。だがすぐに呆れ顔へと戻り。「何を突然。われがあのような者共と知己である筈がなかろ。ぬしは、われの子供嫌いを知っていると思ってたが?」「ふふっ、そうですよね……そうでした」こつん、と己の頭を小突くフリをして、やはり浮かぶ寂しさを、押し込める。

2012-07-14 03:59:32
佐夜子 @s69_cd

「……吉継さん、また星の巡りのお話をして下さいませんか?人の、生まれ変わりのお話を」「やれ、またその話題か。先刻、戯言と言った筈よ」「それでも、わたしは好きなんです。とても素敵なお話ですから!」ね、と、目の前の知己に微笑みかける。“刑部”という称を巡りの中に置いてきた、その人へ。

2012-07-14 04:06:29