井泉水の震災詠(1) 「大震災の記 九月一日、大震起る、宮村町なる我家は幸に火を免れたれども、傾きて安き心もなし、草原に出でゝ露宿す 空にうつる火の中より蒲團負うて來る 劫火更けつつ缼(欠)けし月を吐けり
2012-09-13 02:12:56(承前) 地がふるふ夜の深き井戸水を釣る 土に睡る疲れを月に照らし出され 湯漬けの端をもち又強くなゐふる (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-13 02:14:06井泉水の震災詠(2) 其後も餘震絶えず 餘震つづく日の家の蜘蛛は巣をつくる 初めて口そそぎまだ搖れる家に居る 搖れやんだ土のきのふけふ木が葉をおとす 蟲鳴く家のゆがみに住めば住まるる 崖のくづれをほつほつと咲きそめし萩 (続く)
2012-09-13 18:46:48(承前) 施與のさかなの鹽辛く顔を集めて 焼けのこりて秋寒き風鈴が鳴るを 避難の親子も入れて蚊帳はまだ釣りて 無事で今は顔を剃りあふ姉妹(けふだい)であつて (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-13 18:47:32私事ながら震災の時とほぼ同じ場所、同じ状況(自宅のソファーの上であぐらかいて仕事中)だったせいか、似た揺れ初めだったのでビクッとしてしまった。
2012-09-14 02:43:36井泉水の震災詠③ 大震記の二 一夜にして焦土と化せし東京を見る 飛行機を仰ぎ焼原の飢ゑた子供等 日が出てけふも迷ひ人呼ばるる焼原 お城の松も焦げてゐてずつと焼原 焼原の焼けた並木に梨賣つてゐる 誰もが汗しておのが家の灰搔く事 焼け出された兒が蟬を握つてゐる
2012-09-14 15:19:50(承前) おのが焼け跡にて西瓜にかぶりつく 焼けのこりし椅子一つあり腰かける 凡てを焼いた人達に空が青いばかり (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-14 15:21:29井泉水の震災詠④ 青い物焼原に葱提げて通る 焼け穴のゆもじして無事で水汲む 焼け跡の秋風にたちて尿する 屍體が寄り來る汐に渡しを待たされる 焼原の屍から産れたばつた飛んでゐる 何と赤い夕日に命ありてこそ (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-14 23:27:22井泉水の震災詠⑤ ※「大震記」の次章だが内容から震災詠の範疇と判断。 「雑草の秋」 雑草のなかに家が建ち秋の日があたる 雑草の青空の雲を描いてゐる 友だちの欲しい子がひとり雑草の實
2012-09-16 09:56:43(承前) 雑草に日かげつた犬があるいてゆく そこに路が出来て雑草枯れて 雑草に脚出して一本残つてゐた烟草 (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-16 09:59:08井泉水の震災詠⑥ 教師が休んで雑草の日南が暖い 學校の午後は枯草に靴屋がきてゐる 枯草を飛ぶ蝶の飛べども飛べども × 末枯の草に來て思索の釣針を垂れる × 子供を先へ立てて雑草の路を歸る 雑草の靑空が匂ふところに座る (『井泉水句集』改造文庫)
2012-09-17 19:22:59井泉水の震災詠をメモるうちに虚子が気になるが、震災詠を残していないっぽい。「丸の内」という短文に「震災の時、私は鎌倉から横須賀まで歩いて、関東丸に乗って品川湾に著(つ)いた。その夜は風波が荒くて上陸が出来ず、或士官の紹介で軍艦長門(ながと)に移って、はじめて安らかな眠りについた。
2012-09-18 02:59:20(承前)陸地におれば絶えず余震におびえていたのが、海上に浮んでいる城の如き軍艦の上では、眠りを驚かすものは一つもなかった。」http://t.co/l6BKz2GB 等々とあって、実に虚子らしい一文。それにしても震災の日に上京し戦艦長門で寝ていたとは。
2012-09-18 03:05:21では碧梧桐はどうだったか?「小熊座」2011vol.27no318に、渡辺誠一郎さんが時評で碧梧桐の震災詠を紹介し、虚子との違いに触れ、そこから今般の震災詠、時事句の問題に及んで論じている。http://t.co/Ggc0SxTq 反応おくれたが、これは読むべき文だろう。
2012-09-18 03:46:54