兎虎に至る7日間＋兎虎に至った先の週末劇 by桐江

桐江 @xkxyxrxixex

「6年ぶりかな、この街で見るアイツの泣き顔。ありがとな」ジャスティスタワーへ向かう車内で相棒の元上司からこっそりと告げられた言葉が今になって胸をゆさぶる。流す涙が僕のためなら嬉しい、そう思える相手だと気付いてしまったから。二人きりの病室。眠る横顔にそっと微笑む。 #兎虎7日間 ①

桐江 @xkxyxrxixex

ゆっくり浮上した意識の先に待っていたのは、グラスの奥で長い睫毛にふち取られた綺麗な緑色。ふわりと細められるだけで充足感がじわじわと胸に広がる。後に続く軽い憎まれ口の応酬さえ泣けてくるほど心地良い。この距離感を手放す時は、お前のために上手に笑ってやらなくちゃ。 #兎虎7日間 ②

桐江 @xkxyxrxixex

恐らく気付かれたんだろう。貴方が痛みを堪えて密かに息を詰まらせるたびに背筋が凍る思いでいると。普段よりも陽気なおしゃべりは、優しさに見せかけた拒絶。もっと貴方の本心に寄り添いたいのに手を差し伸べる事も許されない気がして、取り繕った悪態で返す。僕達は臆病な嘘吐き。 #兎虎7日間 ③

桐江 @xkxyxrxixex

相棒の退院が一足先に決まり正直な所ほっとした。何か言いかけては切なげに唇を噛む横顔を、鎮痛剤の効いた鈍った判断力でやり過ごすのも限界だった。精一杯明るく門出の言葉を贈ったら、役目は終わったとばかりに眠気が押し寄せる。夢の中で誰かの息遣いを耳元に聞いた気がした。 #兎虎7日間 ④

桐江 @xkxyxrxixex

絞り出すような溜息を、もう何度吐いたか数える気にもなれない。別れ際に眠る彼の耳元へ囁くのが精一杯だなんてスタイリッシュが聞いて呆れる。コンビは解消し、彼はこの街を去るというのに。ああ駄目だ。せめて沢山の感謝の言葉を伝えたい。その更に奥の気持ちは密かに握り潰して。#兎虎7日間 ⑤

桐江 @xkxyxrxixex

通院帰りに見舞いに来たバニーの表情を一目見て、何となく予感はした。しばらく俺をじっと見据え、それからはらはらと泣き出した。堪らず肩を抱き合って二人して泣いた。結局碌な言葉もかけずに帰して、眠れない夜を過ごしながら腹を決めた。もう嘘はやめだ。認めるよ。俺はお前が― #兎虎7日間 ⑥

桐江 @xkxyxrxixex

目覚めると一通のメール。息を切らせて扉を開けた自分が酷く滑稽に思えて仏頂面でベッドに近付いたら、ふいに手を掴まれ胸元へ引き寄せられた。早鐘のような鼓動を聞きながら打ち明けられた告白。謝らないで、嬉しい、嬉しい！ 涙で滲む視界の中、弱り顔をする愛しい人に唇を重ねた。#兎虎7日間 ⑦

桐江 @xkxyxrxixex

退院した虎徹さんを乗せてアパートへ向かう。ロイズさんがほぼ引払い準備を済ませ、個人的な荷物を残すのみの部屋。彼は女性用の日用品が入った箱を抱え上げた。「捨てられなくて」寂しそうに笑う彼の中に彼女は在り続ける。それでいい。僕の一番が貴方だと貴方が認めてくれたから。 #兎虎週末劇 ①

桐江 @xkxyxrxixex

友恵の私物を処分した。こんな物なくたって俺の愛が消えるわけじゃない。新しい恋を自分に許す事でそれに気付いたのは皮肉だけど。それでも良いかって聞いたら、もちろんだって微笑むあいつが本当にいじらしくて。でもそこまで慕われる価値がどこにあるんだ。ヒーローを辞める俺に。 #兎虎週末劇 ②

桐江 @xkxyxrxixex

この街最後の夜は僕の部屋へ誘った。グラスを傾けながら思い出を語り合ううちに、彼がぽつぽつと迷いを零し始める。その口を強引に唇で塞ぎ、そのまま組み敷しいた。「信じさせてくれ」伸ばされる手を握って、僕の想いと同じだけ強く、首筋に跡を残す。彼は安堵のような息を吐いた。 #兎虎週末劇 ③