おじさんありがとう

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

さっき、出社しようと家を出たら、マンションの下で小学二年生くらいの男の子に声を掛けられた。なんだ？道でも分からなくなったか？と思って聞いたら、「蝉触れますか？」……なん……だと？

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

どうも、すぐそばの木に蝉が留まってるのを発見したらしいのだが、網も持っておらず、自分では触れないのでどうしようかと思ってたら俺が通りかかったので声を掛けたらしい……。て、自分で触れないのに蝉を捕ろうという勇気が凄い！流石、子供は怖いもの知らずだ！

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

「いやー。おじさんも触れないよー」と言ったが、続けて「どうしても捕りたいんです」っておい、人の話を聞け！五分も掛からないから！

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

しゃーないので、その子がしてる手袋を見て、その手袋越しなら行けるんじゃ？と思って借りたが、どう考えてもサイズが合わない……。悩んだ末に、駐輪場に落ちていたタオル（多分、バイクの人が落っことしたもの）で掴むことにした

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

もう蝉掴むなんて何十年振りだよー(((；ﾟДﾟ)))と思いながら、蝉の背中からそっとタオル越しに掴む。蝉暴れる。手に伝わる振動。か細い鳴き声。もがく足。タオルの間から覗く振動する茶色の羽根……

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

急に視界を奪われ、自分を木から引きはがそうとする未知の力に戦きつつ、必死に細い足で木を掴む蝉を、なんとか木から引きはがして、タオル越しではあるが掴むことに成功した。やった！やったぞ！俺はやった！

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

「で？これから？箱とか袋とかないの？」と聞くと、「ないです」……っておおおおおおおぃ、このままどうしようってんだよ！

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

「僕の手袋してる方の手に」っておい、お前さっき触れないって言ったじゃないか！まあ、いいやとタオルから彼の手袋の中へ強制移動させられる蝉。「あああああ滑る滑る！逃げる逃げる！」と彼

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

彼が蝉を握りきれなかった為か、蝉はするりと彼の手を抜けてジジジッと短い鳴き声を残して、雨上がりの空へ消えていった。落ち込む彼に、なんと言っていいか分からず、「アブラゼミだから、きっと油とか出てたんだよ」という無責任な発言しかできなかった俺……

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

「今度は虫取り網とか虫箱とか用意するといいよ」と、アドバイスし、「じゃあ、おじさんは行くよ」と言うと、「おじさんありがとう」……なん……だと？お礼はありがたいが、おじさんは一人称であって二人称ではないぞ！と思ったが耐えた……

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

まあ、親族以外であんな年齢の子供と話す機会も滅多にないので、新鮮な感じではあったが、未だに右手に残るあの感覚……

Fumihiro Kanaya @fum1h1ro

夏の怪談話でした……