【続きもの】地味虎ss By桐江

TIGER&BUNNYのパラレルです。 元々「眼鏡おじss祭り」で投下した4Tweetだけのはずだったのですが予想外に続いてしまったのでタグを分けて個別にまとめました。 普段は気弱で赤面症な虎徹さん、でも眼鏡をはずせばヒーロー「ワイルドタイガー」に! という設定ですが、バニーさん視点です。 続きを読む
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桐江 @xkxyxrxixex

正義の壊し屋ワイルドタイガー。彼の事は前から知っていた。けれど僕が見ていたのは所詮表舞台。まさか舞台を降りた彼がこんな気弱な性格だなんて誰が予想出来るだろう。余った袖から覗く指先で口元を覆い、眼鏡の奥から上目遣い。それが彼のデフォルト。苛つくんですよ貴方…。#地味虎ss 1

2012-11-26 20:21:58
桐江 @xkxyxrxixex

僕の方が年下でヒーローとしても10年後輩なのに、普段の彼は先輩の威厳どころか、僕が傍を歩くだけで怯えるし、眼鏡越しの目は伏せがち。ロッカールームで鉢合わせて身を竦められ、流石に苛々が頂点に達した。肩を掴んで押し付けたロッカーが派手な音を立てる。彼が息を呑んだ。#地味虎ss 2

2012-11-26 20:22:22
桐江 @xkxyxrxixex

顔を真っ赤にして眼鏡の奥の目を潤ませて僕を見る彼。どうしてこんなに腹が立つ。ああそうかこれは怒りじゃない、情けないんだ。彼がこんな弱気な男だと知って。ヒーローの素顔が理想と違うからって癇癪を起こすなんて、馬鹿みたいだ…。肩からそっと離しかけた手を彼が掴んだ。#地味虎ss 3

2012-11-26 20:22:45
桐江 @xkxyxrxixex

僕の手を片手で引き止めて、もう片方の手で眼鏡を引き抜く。裸の琥珀色は、ヒーロースーツを纏って胸を張る時の雄々しさを湛えていた。逞しい腕に頭を抱き込まれたら、涙が溢れた。「貴方に、憧れてたんです」「…ガッカリしたろ。ごめんな」僕は彼の胸に甘えるように首を振った。#地味虎ss 4

2012-11-26 20:23:00
桐江 @xkxyxrxixex

僕が顔を上げるのと、彼が眼鏡をかけなおすのは同時だった。先程までの腕の力強さや声音が嘘のように、彼は再び真っ赤になって俯く。もしかして、いやまさか…「その眼鏡のせいなんですか」「な、何が?」「ヒーローの時と普段との、性格の違いって」間抜けな質問だと自分でも思う。 #地味虎ss 5

2012-11-26 20:26:40
桐江 @xkxyxrxixex

「ち、違う…と思う。この眼鏡は、悪くない。でも外せない。必要な、物だから」途切れ途切れに、けれどきっぱりと彼は否定した。だが今の切り替えを見ても、眼鏡の着脱がスイッチになっているのは明らかだ。外している時、つまりヒーロー時の性格の方が日常生活もスムーズだろうに。 #地味虎ss 6

2012-11-26 20:28:31
桐江 @xkxyxrxixex

思いながら彼の眼鏡に手を伸ばすと、「ダメ!」普段はぼそぼそとしか喋らない癖に、意外な程の声量で拒絶された。その虚を突いて彼はするりと僕の手をかいくぐり、ロッカールームを出ていってしまった。立ち尽くしながら、社内でこんなに彼と会話したのは初めてだとぼんやり考えた。 #地味虎ss 7

2012-11-26 20:31:30
桐江 @xkxyxrxixex

「これ…」朝の挨拶もそこそこに彼が差し出したクッキーの小袋。「き、昨日の、お詫び。怒鳴ってごめん」語尾は殆ど消えていた。いや、謝るべきは僕の方で。「僕こそ、取り乱してすみませんでした」後出しの気まずさを恥じながらも受け取ると、彼は赤面しつつも満足そうに微笑んだ。 #地味虎ss 8

2012-11-26 21:45:52
桐江 @xkxyxrxixex

昨日のやり取りを経て、僕の気持ちも少し整理出来た。普段の彼がヒーロー時の彼(今後タイガーと呼ぶ事にする)と全く違う性格なのは元々で、勝手に憧れていただけの僕が腹を立てるのはお門違いだ。いずれにしてもコンビは僕達2人で結成された。折合いをつけてやっていくしかない。 #地味虎ss 9

2012-11-26 21:48:58
桐江 @xkxyxrxixex

僕は昔からこういう、口下手で鈍重で冴えないタイプが苦手、というか正直に言えば嫌いだ。普段の彼はまさにそういう奴らの典型だ。しかしひとたび現場に向かえば、僕の隣に立つのは同じ人物でありながら、密かに憧れ続けたヒーローでもあって。この状況に、慣れるしかないのか…。 #地味虎ss 10

2012-11-26 21:54:13
桐江 @xkxyxrxixex

「ねえ貴方、どっちが本当の貴方なんです?」どうしても気になって、隣でPC画面を睨む彼に問いかけた。彼はびくりと身を震わせ、まるで僕の視界を遮るように掌で眼鏡の弦を押し上げた。僕も譲らず、黙ったまま彼をじっと見つめる。沈黙を破ったのは2人分の緊急コールだった。 #地味虎ss 11

2012-11-26 22:11:39
桐江 @xkxyxrxixex

午前中に発生したブロックス工業地区の火災は延々と燃え広がった。古株ヒーロー達は経験を活かし、現場の消防隊や工員と細かく連携を取って若手を指示しながら対応にあたる。陽も落ち始める頃に漸く鎮火した時には、報道陣すら疲労困憊で、インタビューもそこそこに解散となった。 #地味虎ss 12

2012-11-27 22:31:43
桐江 @xkxyxrxixex

僕達2人も同じく、煤けた体を引きずるようにトランスポーターへ向かっていると、後を追ってきたロックバイソンがタイガーを引き止めた。「お前、大丈夫か」彼の声も疲れが伺える。「大丈夫だって。お前こそ早く休めよ」無骨な装甲を軽く弾くと、僕に続いてポーターに乗り込んだ。 #地味虎ss 13

2012-11-27 22:35:14
桐江 @xkxyxrxixex

二人とも無言のままヒーロースーツを脱ぎ、帰社までの僅かな時間でも休息を取ろうとラウンジへ移動したその時、タイガーがぐらりと傾いだ。慌てて支えながら異常を探す。「タイガーさん、どこか具合が?」「ごめ…会社着くまで、寝かせて」言い終えると彼はすとんと眠りに落ちた。 #地味虎ss 14

2012-11-27 22:55:37
桐江 @xkxyxrxixex

帰社して軽くシャワーを浴びる間も、タイガーは酷く億劫そうだった。着替えていつもの眼鏡をかけた所でようやく人心地がついたのか、大きく息を吐いて「お、お疲れさま」ぎこちなく笑む。「顔色が優れませんよ。やはり怪我を?」彼はふるふると髪を揺らし、何かを言いかけた。 #地味虎ss 15

2012-11-28 21:23:46
桐江 @xkxyxrxixex

ロイズさんから労いの言葉と共に帰宅許可が出た。僕は渋る彼を助手席に乗せ、彼の自宅を目指す。「何か言いかけましたよね」先程の話を蒸し返したら、予期していたのか彼は驚かず、ただ膝の上で両手を握り締め「は、話しておいた方が、良い、かもしれない」きゅ、と唇を噛んだ。 #地味虎ss 16

2012-11-28 21:28:08
桐江 @xkxyxrxixex

彼の抽象的な説明によれば、普段の自分とタイガーとの切り替えは自覚して行ってはいるが、演技というより別人格にシフトする感覚に近く、また、タイガーの発現は精神的に負荷がかかるらしい。長時間続けば疲労は蓄積し、集中力も散漫となる。つまり「長丁場は危険」ということだ。 #地味虎ss 17

2012-11-29 22:28:21
桐江 @xkxyxrxixex

旧友であるロックバイソンさんや前の上司はそれを知っていたそうだが、僕を始め、アポロン関係者には誰一人告げていなかったという。今の会社に拾われたような立場で、致命的な欠点ともなり得る話をするのは躊躇われたと彼は語った。「それに…」彼は目に力を宿して僕を見上げた。 #地味虎ss 18

2012-11-29 22:29:45
桐江 @xkxyxrxixex

「出動中はヒーローだから。自分の都合で、倒れたりしない」固い意志が感じられた。僕はずっと以前から彼を見てきた。その言葉に嘘が無い事を知っている。また、その言葉を嘘にしないために、彼が全力を尽くしている事も解った。今日だって、その言葉通り彼は最後まで耐え抜いた。 #地味虎ss 19

2012-11-29 22:38:03
桐江 @xkxyxrxixex

「まったく貴方って人は…」こんな重要な事を今まで隠してたなんて。しかし言い出せなかった気持ちも判らなくはない。「貴方を、信じてあげます。だから僕の事も少しは信じて頼ってください。相棒なんですから」隣を見ると、彼はシートにすっかり体を預けて静かな寝息を立てていた。#地味虎ss 20

2012-11-29 22:47:06
桐江 @xkxyxrxixex

声をかけても揺らしても頬を叩いても一向に起きる気配がない。今度こそ完全に寝入ってしまったらしい。ロッカールームで聞きそびれた話が気になって強引に車に乗せたけれど、僕は彼の住所を知らない。どうしろっていうんだ…。その時、助手席から耳慣れない着信音が響いた。 #地味虎ss 21

2012-12-03 23:45:33
桐江 @xkxyxrxixex

ポケットから端末をそっと引き抜く。画面にはBen Jackson―彼の元上司の名前。この人なら住所を教えてくれるかもしれない。僅かな逡巡の後に通話ボタンを押した。ベンは電話に応対したBBJに最初は面食らったようだったが、すぐに事情を把握したらしい。 #地味虎ss 22

2012-12-03 23:45:40
桐江 @xkxyxrxixex

すんなりと住所を教えてくれたベン氏が、ふいに口篭る。「その…あいつはお前さんに何か言ったか? 例えばいま眠っちまってる理由とか」タイガーを10年見てきた人だ、彼の事情は僕以上に知っているに違いない。だからこそ心配で電話してきたのだ。僕は先程知った内容を告げた。 #地味虎ss 23

2012-12-03 23:45:48
桐江 @xkxyxrxixex

僕の話を聞き終えた彼は、陰りを帯びながらも安堵の息を漏らした。「TOPMAGのヒーローを守れなかった甲斐性無しの俺に言えた義理じゃないが…あいつの事を、よろしく頼む」彼の多くの思いがその一言に集約されているようだった。「解っています」僕も決意を込めて頷いた。 #地味虎ss 24

2012-12-03 23:47:23
桐江 @xkxyxrxixex

アパートに到着し、ベン氏に聞いた通りドアポストへ手を差し入れて鍵を取り出す。無用心な気もするが、時に私服で大立ち回りをしなければならない自分達にとっては、持ち歩くよりはマシなのかもしれない。車に戻って助手席のドアを開けても、彼はまだぐっすりと眠りこけていた。 #地味虎ss 25

2012-12-09 01:08:26