ゾンビサバイバル!《ふたりあそび番外編》 『もうひとつの懺悔』

*BL注意* http://togetter.com/li/418101 のついのべ別枠まとめ
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長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 気を失ってしまった蓮見を、運ぼうという椿を断ってベンは抱え上げた。考えてみれば男ひとり運べなければ死体の隠匿もできない。やだかっこいい惚れる。いいから、刀を持ってきてくれ。重そうに抱え直すベンのツナギのジッパーは開いたまま、鎖に下がったタグがちりりと揺れる。

2012-12-08 21:32:55
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 病院のベッドに空きはなく、仕方なく病室の床にクッションを敷いて即席の寝床を作り、歩行器を外してやるとアンナは大人しく寝そべった。ベッドは多少犬の匂いがするだろうが、寝かされた本人の意識がないので文句も言うまい。あとをベンに任せて、俺たちは部屋の外へ退散した。

2012-12-08 21:58:25
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 瞼を閉じた寝顔を見つめ、そっと髪を撫でる。椿は出ていきしなに、君にしか聞けないことがある筈だと優しく言った。だが、僕は蓮見に助けて貰うばかりで、ただ負担を増やしている。好きだと告げた気持ちに偽りはなく、蓮見はそれに応えてくれるが、僕が必要とされる道理がない。

2012-12-09 22:26:29
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus ごく短い眠りから覚めた蓮見は、僕の姿を認めて微笑む。あれ、今日は膝枕してくれねえの? …君の態度による。おっかねえ顔。手を伸ばして僕の鼻を摘まんでくるのを払いもせずにいると、漸く少し困った顔をする。流石に怒ったか、何も言わなかったから。違うと首を横に振る。

2012-12-09 22:53:00
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 君はいつも明け透けに笑っておどけて見せる。いかにも自分が何も背負ってなどいないかのように。僕は確かに、少なからずそれに救われてきた。でも、そろそろ教えて欲しい。僕に何を預けた? 蓮見は表情を硬くした。逸らした視線は、僕の鳩尾の前で揺れるタグに吸い寄せられる。

2012-12-09 23:32:04
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus …爺さんは、俺を庇ってゾンビに噛まれた。僕とヨギが館をさまよっている間の話を、蓮見はほとんどしなかった。それが立石との記憶につながっているからだ。最期、死に場所を探してたから満足みたいに言われて、ふざけんな残された方の身にもなってみろジジイって思ってたけど。

2012-12-09 23:53:29
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus …立石さんも残されてた訳か。たまんねえよな。蓮見は手で目を覆い、自嘲げに歪む口元だけが見える。誰かの為に死ねなかったから俺の身代わりになったのかとか、俺はそいつを見てるといろいろ考えて落ち着かなくなる。しかもそれが俺の祖父さんだとか笑えない、勘弁してほしい。

2012-12-10 00:13:52
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus ああやめよう、湿っぽくなる。取り繕うような明るい声に悲しくなる。こんな時、蓮見はどうしてくれたのだったか。ゾンビを補食する体になった時、ヨギを傷つけたと打ち明けた時、今まで数えきれない程助けられたのに。途中まで下ろしていたジッパーを全部開け、服を脱ぎ捨てた。

2012-12-10 14:01:24
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus ベッドに膝を載せると苦笑される。すごく勿体ないけど、俺そんな元気ないの。僕がしたいだけだ、気にするな。ちらりと床のアンナを見ると、慌てたようにぎゅっと目を瞑った。毛布の中に滑り込み、面食らった様子の照之の頭を抱き寄せる。そうして泣くに任せてくれた、温かい胸。

2012-12-10 14:17:33
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus …なんで脱いだの? 君はあの服嫌いだろう。いや、そうなんだけどね、ごめん、ちょっとあっち向いてて。軽い口調にやっぱり煙に巻かれるのかと落胆し、寝返りを打って照之に背を向ける。そのまま起き上がろうとすると、強い腕に羽交い締めにされた。…本当は何もできなかった。

2012-12-10 16:31:53
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 下敷きに抱き込まれて息が詰まる。…剣術とか教わったのに、役に立たなかった、何も。聞いたことのない弱い声に身が竦む。温かい滴が僕の背中に降り、どんどん濡らしていく。ああ、こんなに大きな悲しみを抱えながら、君は僕に手を伸ばしたのか。だから君は馬鹿だっていうんだ。

2012-12-10 16:38:29
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 僕が泣いてどうすると己を叱咤するが、涙が勝手に溢れて止まらない。照之の手が僕の胸の鎖をまさぐり、タグを握り潰したいみたいに強く掴んだ。息苦しく嗚咽しながら、しかし僕は今はもういない二人に頭を下げる他ない。尤も、自分のしたいようにしただけと一蹴されるだろうが。

2012-12-10 22:49:08
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 泣き疲れていつの間にか眠っていた。背後から規則正しい寝息が聞こえてくる。巻きついたままの腕からそっと抜け出した。いつもは僕が一人で残されるが、先に姿を消している照之はこんなに名残惜しい気持ちなのか。でもここで留まってはいられない。行かなくては。生きなくては。

2012-12-10 23:35:27
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus それが、彼らに報いる唯一のことだ。ベッドを降りて服を着ていると、寝息が乱れるのが聞こえた。眠り続けている照之の眉間に皺が寄っている。照之? 呼ぶと呻いて薄く目を開ける。悪い夢を見たのか、額に汗が浮いている。僕を捉えないままさまよう黒い瞳を、そっと掌で覆った。

2012-12-11 21:14:14
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 僕は、君を悪夢からは守れない。安らかであれと願うことしかできない。でも、目覚めた君が僕を求めてくれたら、僕にはそれ以上のことはない。掌をずらすと睫毛が穏やかに下りていた。ほっと息をつき、立ち上がる。アンナに近寄ると、耳だけをぴくりと動かした。…蓮見を頼むよ。

2012-12-11 21:15:01
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 床に膝をついて額を撫でると、アンナは目を開け顎を上げる。悪い奴じゃないんだ、ただ少し強引なだけで。でもそれは僕の責任もある。あんなのは二度と御免だ、お前はどこにも行くな。悲痛な声が蘇る。大切なタグを残していった気持ちが、今は頷ける。立ち去り難さを噛み殺した。

2012-12-11 21:21:28
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 目を覚ますと、カーテンの向こうが白み始めていた。泣きすぎたせいか喉がおかしい。顔もむくんでる。横にベンジャミンはいなかった。いつかはこういうことがあると思っていたが、消えられるとやっぱり寂しい。未練がましく痕跡を探して部屋を見回すと、床に黒い犬が座っていた。

2012-12-11 21:23:09
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus おう、あいつは行っちまったのか。床に降りてアンナの前に座り込むと、またそっぽを向かれた。…お前には感謝してる、ありがとう。頭を下げるとふんと鼻を鳴らされた。別に俺の為じゃないんだろ、わかってるって。思わず吹き出して顔を上げると、大きな舌に頬を舐められて驚く。

2012-12-11 21:24:14
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus お前、俺のこと嫌いじゃねえのか。アンナの顔を見返すと、煩いというように尚も舐めてくる。涙の跡を何度も拭われる。そういえば、昨夜は一方的に泣きついてベンジャミンに何もさせなかった。その事を責めるみたいに。わかったよ、あいつに謝るから。そう言うと漸く解放される。

2012-12-11 21:25:06
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus アンナはもう用はないと言いたげに身を伏せてしまった。 お前も正直な獣だと苦笑する。でも、ベニーがいてくれるだけで俺がどんなに救われてるか、きっと誰もわからない。それが本人にも伝わってないから怒られるのだろう。上着を羽織り刀を手に取る。ドアを開け、歩みだした。

2012-12-11 21:25:52