アイドルたちのWORLD WAR Z(秋月律子編)

アイドルマスター+「WORLD WAR Z」の合体事故その4。
23
現場猫教授 @Dr_crowfake

(秋月律子は大手の産業ブローカーである。かつて彼女は歌手だったが、日本の混乱に巻き込まれ、闇商人として生計を立てることを余儀なくされた。そこで彼女は自らの商業の才能を開花させ、新生日本の有力な財閥を形成している)

2012-12-27 11:33:37
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ゾンビ大戦の頃? 大変だったわ。社長は「ゾンビがやってくる、北に逃げよう」っていい始めて、春香がそれに反対して、やよいや伊織はどうしていいかわからないって顔をしてて。あたしも正直わけがわからなかったけど、社長の勘は当たる。そう信じてた。それに乗って、正解だったわ」

2012-12-27 11:35:40
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしはそのころ765プロのプロデューサー……といっても半分事務員を兼ねたような、半端な仕事だったけど、ともあれ管理職だったから、自分より小さなやよいや伊織の面倒を見る義務感ってものがあったの。あと、ぼやっとしてるあずささんも。社長についてあの子たちを動かすのは大変だったわ」

2012-12-27 11:37:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「こんな時にアメリカに行ってるプロデューサーには文句を云ってやりたかったけど、向こうは向こうでアフリカ狂犬病の猛威にさらされてるアメリカで、千早や雪歩の面倒を見なきゃなんないわけだし、お互い様と思ったわね。ま、向こうは向こうでうまくやったみたいだから良かったけど」

2012-12-27 11:39:44
現場猫教授 @Dr_crowfake

「で、あたしらは営業用のバンにありったけの非常食とサバイバルキットを詰め込んで、北に向かった。この辺りの話は、春香から聞いてるわよね? まあ、ひどいもんだったわよ。春香は泣きそうな顔をしてて、伊織も不安を隠しきれてなくて、一番しっかりしてたのは、やよいだったわね」

2012-12-27 11:41:50
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あの子、親兄弟を置いて北へと逃げ出す最中だったのに、全く動じなかったわ。今から思うに、多分そういう風に自分をしっかり持たなきゃって、あの子なりに気遣ってたのね。あたしはそれに薄々気づいてたけど、知らんぷりをしてた。下手につつくと、爆発しかねない爆弾だったから」

2012-12-27 11:43:24
現場猫教授 @Dr_crowfake

「で、まあ、北海道についたわけ。あそこの生活はひどいもんだったわ。何もかもが不足してるのに、人間の数だけは多い。自然と闘いあい、奪い合いになる。あたしは年長者としての責任を感じたから、その矢面に立った。そこで鍛えられたわけ、ブローカーとしての才能が」

2012-12-27 11:44:48
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしはそこに集まってる連中から、余ってるものを買い上げて、不足してる奴らに売りつけるサービスを展開したの。社長が倒れてからは、あたしの仕事量は倍増したわ。抱えてる人間は同じなのに、交渉量が倍になったんだもの。でもあたしはやりとげた。春になる頃には、一財産築いてたわ」

2012-12-27 11:46:49
現場猫教授 @Dr_crowfake

「貨幣が通用していたんですか?」「まさか。全部現物取引よ。時にはブツを取り損ねることもあったわ。こっちが女子供だと思って、ナメて掛かる連中はいくらでもいたしね。でも、そのしのぎ方も覚えた。あたしは、春にはキャンプで一番の散弾銃の使い手になってた」

2012-12-27 11:48:30
現場猫教授 @Dr_crowfake

「実際に人を殺したことは?」「ハードな質問ね……答えないでおくわ。この国、警察が復興したみたいだし、そうでない地域も自衛隊の軍政下だし」

2012-12-27 11:49:28
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ともあれ、あたしらはあの冬を生き延びた。時には挫けそうになったけど、やよいと伊織、あと、あずささんの存在が、あたしの中で引っかかってた。いつでも見捨てられる。でもそうしたらきっと一生後悔するだろうなって思えたからね」

2012-12-27 11:50:55
現場猫教授 @Dr_crowfake

「しかしまあ、物々交換でしょぼい商売やってても先が見えてるし、この国も先が見えてるし、ドカンと大勝負に出なきゃならないって思ったわけ。そこで「タツジン」さまの出番ってこと」

2012-12-27 11:53:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

「「盾の会」の西田氏ですか」「そう、あの神がかりの爺さん。最初は正気を疑ったわ。でも奴が間違いなく狂ってるってことに気づいた時、あたしは「これはチャンスだ」って思ったの。キチガイを踊らせて、生き延びる、儲けるチャンスだってね」

2012-12-27 11:54:13
現場猫教授 @Dr_crowfake

「あたしは爺さんの兵站部門請負業者になった。爺さんが「この母なる大地を取り戻す」とアジって、兵隊をかき集めてる間、そいつらを食わせて、戦わせるためのブツを調達した。その際マージンはたっぷりとったよ。だけど、あたしにはやよいと伊織とあずささんを食わせなきゃならないって義務があった」

2012-12-27 11:56:31
現場猫教授 @Dr_crowfake

「義務、ですか」「そう。義務。プロデューサーと約束したんだ。765プロ、留守にしてる間はあたしが守れって。社長とも約束したんだ。俺がいなくなったら、お前だけが頼りだって。あたしはこれでも情に厚いんだ。いい男ふたりにそこまで云われて、袖にするなんてできないさね」

2012-12-27 11:58:05
現場猫教授 @Dr_crowfake

「それに、あたしが預かってた子たちは、随分役だってくれたよ。やよいは会計係としてすごく優秀だったし、伊織は押しが強くて、あたしですら引く相手にすら押し負けなかった。あずささんは、天性の包容力で男をメロメロにした。みんな、あたしの足りないところを補ってくれた」

2012-12-27 11:59:51
現場猫教授 @Dr_crowfake

「それに、あの歌を聞いちゃったらねえ……」「歌?」「ああ。ふたりの歌。VOAで流れてた千早の「約束」、それとアマチュア無線のバンドで流れてくる、春香の「約束」。ふたりの「約束」のハーモニーを聞いたら、よしあたしも頑張らなきゃ、前に進まなきゃって思わされたんだよ」

2012-12-27 12:02:08
現場猫教授 @Dr_crowfake

「絆、ですか?」「ちと違うねえ。あたしは、千早と春香ほど強く結びついてはなかった。だけど、励まされたんだよ。人間、そういうちょっとしたはずみで動き出せることがあるだろ? いろいろな重荷を背負ってドン詰まってたあたしに、あの子たちは弾みをくれたんだ。そんなもんだよ、人生は」

2012-12-27 12:04:03
現場猫教授 @Dr_crowfake

「弾みがついてからは上々だったよ。西田の爺さんはどんどん南に進み、そのおかげであたしらの商売の相手も増えた。今や爺さんは新生日本公認の民兵組織のリーダーで、あたしはその後方部門総責任者で、日本経済を仕切るフィクサーってわけさ。世の中、何がどう転ぶかわからないねえ」

2012-12-27 12:05:56
現場猫教授 @Dr_crowfake

(秋月律子は遠くを見つめるような表情をし、今の日本では貴重品の純正タバコを吹かした)

2012-12-27 12:06:58
現場猫教授 @Dr_crowfake

「すまないね。あたしはこれなしじゃやっていけないんだ。あんたらの国では未だにQ(1/4タバコ)がメインなんだろ? 贅沢してると思うよ。今の世の中じゃ。でも――あたしがこんな贅沢な身分になれたのも、春香と千早が背中を押してくれたから、やよいや伊織、あずささんがいたからなんだろうね」

2012-12-27 12:09:29
現場猫教授 @Dr_crowfake

「もし千早や春香に合うことがあったら、律子が感謝していたって、伝えてくれない? 「あんたたちをプロデュースする夢は消えちゃったけど、お互いうまくやってるよ、だから心配するな」ってね」

2012-12-27 12:10:50
現場猫教授 @Dr_crowfake

(秋月律子はそう云って再びタバコをふかし、遠い目をした。彼女は過ぎ去った夢を帰り見ているかのように、私には見えた)

2012-12-27 12:11:37