HK15の『戦場でワルツを』感想録

『戦場でワルツを』の感想まとめ。 独断と偏見でものを言っているので、あくまで参考程度に。
4
HK15 @hardboiledski45

『戦場でワルツを』、傑作だったなあ。さすがにアカデミー賞にノミネートされただけのことはあった。

2013-01-04 17:16:33
HK15 @hardboiledski45

BDで観賞したのだけど、メイキング見てびっくり。日本のアニメと全然作り方が違うのだ。

2013-01-04 17:18:14
HK15 @hardboiledski45

イラストレーターが描いたイラストをPCに取り込み、細かなパーツに分解して動かすという手の込んだ手法を採用しているのだ。労力を考えるとめまいがするが、そのおかげで斬新な画になっている。

2013-01-04 17:22:40
HK15 @hardboiledski45

本編を見る前、「なぜアニメなのか?」と首を傾げていたのだが、実際に観賞して納得。この内容にアニメという表現技法は適切だった。これが実写作品だったらかえって題材の魅力が損なわれるだろう。

2013-01-04 17:30:18
HK15 @hardboiledski45

監督のアリ・フォルマンがかつてIDFで宣伝映画を撮っていたこともあって、そのミリタリ描写の精密さはすばらしい。IDF兵士の持つガリル突撃銃、レバノンの大地を進軍するメルカヴァ主力戦車など、本物と見間違えるほどのクオリティで再現されている。

2013-01-04 17:42:12
HK15 @hardboiledski45

この手の戦争映画においてミリタリ関連のディテールは決しておろそかにしてはならない大切な要素。でも、そういうことを分かってる監督は意外と少ない。

2013-01-04 17:45:17
HK15 @hardboiledski45

そうした細かな要素をていねいに描いているからこそ、この映画の重いテーマがずしりと心に響いてくるのだ。「俺たちが過去を忘れても、過去は俺たちを忘れない」――かつてレバノン内戦で戦ったフォルマン監督の体験、そのときわきあがった感情、それらが自分のことのように思えてくる。

2013-01-04 17:49:11
HK15 @hardboiledski45

これは戦争の良し悪しについて語った映画ではない、とぼくは考えている。ある意味、戦争とは善悪を超越した出来事なのだ。はじめは誰かが言い出したことが原因でも、いつかそれは当事者たちの思惑を越えて暴走していく。そのどうしようもなさ、滑稽さを描いたのが『戦場でワルツを』なのだ。

2013-01-04 17:58:33
HK15 @hardboiledski45

「イメージの戦争」と「現実の戦争」の落差。豪壮な邸宅を接収し、TVでのんびりブルーフィルムを観賞する将校。物見遊山気分の戦車兵たち。前線に向かうおんぼろクルーザーで飲めや歌えのドンチャン騒ぎを繰り広げる兵士たち。

2013-01-04 18:03:31
HK15 @hardboiledski45

若き兵士フォルマンも降り立った空港で妄想にふける。土産物屋をひやかしたり、どこか遠い国に飛んでいけたらと考えたりする。しかし外に目を向けると、空港にひっきりなしに舞い降りてくるのはOD色の輸送機や迷彩色の戦闘機だ。彼は途端にいやな現実に向き合うしかなくなる。

2013-01-04 18:07:22
HK15 @hardboiledski45

生々しくリアルな現在のパートと比べ、レバノン戦争のパートは幻想的な色付けがなされている。あの頃がまるで夢だったかのような描き方。しかし、フォルマン監督にとって確かにレバノン戦争は「夢」だったのだろう。現実だとは認めたくなかったのだろう。

2013-01-04 18:11:04
HK15 @hardboiledski45

戦友たちの遺体を詰め込んだ装甲車を駆り、機銃を乱射しながら暗い夜道を突っ切る。彼方に見える光に向かって。そこで遺体を降ろし、たまった血を流したらまた急いで前線基地に戻る。その繰り返し。いつまでも終わらない悪夢を見ているかのような酩酊感。

2013-01-04 18:14:01
HK15 @hardboiledski45

いつ殺されるか分からない恐怖、いつ殺すか知れない恐怖。2つの恐怖にはさまれて、若い兵士たちは否応なく追い詰められていく。

2013-01-04 18:28:35
HK15 @hardboiledski45

国に帰ると、そこはまるで別世界だ。通りには華やかに着飾った人たちがあふれ、店先のショウウィンドーには様々な商品が所狭しと並べられている。街には戦争を批判するロック音楽が流れ、かつての友人たちも今この時に進行している戦争に対しとても無関心だ。

2013-01-04 18:31:40
HK15 @hardboiledski45

おれは誰なんだ?おれは何をしているんだ?兵士は悩む。おれたちのしていることに意味なんかあるのか?この戦争に意味なんてあるのか?

2013-01-04 18:32:51
HK15 @hardboiledski45

彼は当事者になれない。戦争の当事者になれない。それはレバノン戦争が本来イスラエルの戦争ではなかったからだ。よその国の内戦に勝手に首を突っ込んだ、それだけのこと。だから彼は当事者になれない。

2013-01-04 18:35:29
HK15 @hardboiledski45

しかし、物語の終盤、「部外者」たるフォルマンは戦争にコミットすることを余儀なくされる。指導者バシール・ジェマイエルを殺され怒り心頭に発したファランヘ党員によるパレスチナ難民の大虐殺の、いわば手助けをするという形で。

2013-01-04 18:42:11
HK15 @hardboiledski45

彼はその記憶に蓋をする。最後の最後になって、いきなり牙を剥いて襲いかかってきた「戦争」から身を守るために。目の前で何が起こっているか知りながら、何をしたらよいか知っていながら、何もできなかったことに目をつぶるために。卑怯かも知れない。だが誰が彼を責められよう。

2013-01-04 18:45:42
HK15 @hardboiledski45

この物語はフォルマン監督の物語であると同時に、戦争によって一生消えない傷をつけられた人々の物語だ。忘れたくても忘れられない記憶を心の深奥に刻みつけられた者たちの物語だ。そしてこれは、死者の物語でもある。

2013-01-04 18:49:48
HK15 @hardboiledski45

過去とはつまり死者と同義だ。死ねば人は過去のものとなる。しかし、死者の国はいつでもぼくたちのそばにあって、ぼくたちに強い影響を与えているのだ。

2013-01-04 18:52:59
HK15 @hardboiledski45

サブラ・シャティーラの虐殺で殺された人々もまた、死者の国の住人である。彼らは忘れない。自分たちがどんな仕打ちを受けたのかを。彼らは忘れない。誰が自分たちを殺したのかを。

2013-01-04 18:55:13
HK15 @hardboiledski45

「地獄はここにあるんですよ」と伊藤計劃は我々の頭を指さして述べたが、死者の国もまた我々の頭の中にある。死者は我々とともにある。死者が生者の罪を忘れないのは、それが生者の罪の意識の表れだからだ。

2013-01-04 18:58:26
HK15 @hardboiledski45

映画の終幕、サブラ・シャティーラの惨状を記録した映像が流れぼくたちは不意を衝かれる。それまで他人事のように見てきた事件が、急に自分たちの世界に侵犯してきたかのような錯覚に囚われる。こうして「部外者」たる観客は「当事者」になる。

2013-01-04 19:02:18
HK15 @hardboiledski45

フォルマン監督の一筋縄ではいかない巧みな演出と、繊細な感覚がイスラエルの暗部へと向けられたとき、傑作が生み出されるのは自明のことだったのだろう。

2013-01-04 19:04:19
HK15 @hardboiledski45

「アニメにしかできないこと」とは何か、ということをこれほど洗練されたやり方で描いてみせたフォルマン監督の非凡なセンスをぼくは深く尊敬する。別にこの映画がオスカー取るべきだったとか言わないけど(笑)、アニメを愛する全ての人にこの映画を観て欲しいな、と思う。

2013-01-04 19:07:55