20100821 たいなかりつ

ちゅーとろさん無双
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ちゅーとろ @chutro

その名は男の子だった時につけるはずでした。生まれたのは、とても小さな小さな女の子でした。お父さんは、元気に心臓を刻んで育ってほしいと願い、その名前をつけたいと言いました。お母さんは生まれたばかりの、栗色の髪の女の子に言いました。「君のお父さんはキザで困っちゃうね。りつちゃん」。

2010-08-21 00:04:48
ちゅーとろ @chutro

「たいなかりつちゃん」「はーい!」「元気いっぱいなお返事だねー」「はーい!」「でも園長先生がお話をしてるときはお口をチャックして聞いててね」

2010-08-21 00:12:58
ちゅーとろ @chutro

入園式の帰り道。お母さんは、園長先生のお話を聞かずに隣のおともだちとお喋りをしていた女の子を叱りました。「お母さん、すごく恥ずかしかったよ」「だってつまんないんだもん」「世の中ではね、きちんとお話を聞かなきゃいけない時があるの」「よのなかってなに」。まだ少し難しかったかな。

2010-08-21 00:22:08
ちゅーとろ @chutro

でも、元気いっぱいの、いいお返事だったね。

2010-08-21 00:31:14
ちゅーとろ @chutro

栗色髪の女の子は、家の近くにある公園のブランコが大好きでした。その日も、お母さんと一緒に公園に行くと、真っ先にブランコへ一直線です。「ぶらんこ、むかしからここにあるねー」。お母さんはあきれて、「りっちゃん、まだ4歳でしょ」と言いました。「そっか、このぶらんこも4さいなんだ」

2010-08-21 00:41:14
ちゅーとろ @chutro

幼稚園のブランコは、いつも足の速い男の子が先に陣取ってしまいます。一度に30回までというきまりになっていましたが、「もう30かいのったでしょ!」「まだですゥー」。栗色髪の女の子は30まで上手く数えられないので、くやしい思いをしました。毎日お風呂で30まで数える練習をしました。

2010-08-21 00:51:54
ちゅーとろ @chutro

30まで数えられるようになったので、ブランコに乗ることができるようになりました。他の子が30回漕ぐととっても長く感じますが、自分が乗るとあっという間でした。女の子は物足りなく感じました。100まで数えられるようになったら、100回漕げるようになればいいのにと思いました。

2010-08-21 01:02:40
ちゅーとろ @chutro

「おとうさんのとけいはどうしておもいの?」「大人の男の人はみんなこういう時計をするんだよ」「ほら、りつもぴったり」「それじゃ腕輪だなあ」

2010-08-21 01:14:42
ちゅーとろ @chutro

「りっちゃん、おやつ1回につきプリンは1つまでってお母さんと約束したでしょ?」「おてて2かいあらったよ」。プリンは1日1つまでになりました。

2010-08-21 01:27:06
ちゅーとろ @chutro

今日はお父さんの田舎に里帰りです。新幹線に乗ります。いつもと違う電車に乗るので、栗色髪の女の子も少しわくわくしています。「1ばんせんにのりたい!」「新幹線は23番線だね」

2010-08-21 01:37:48
ちゅーとろ @chutro

「はやい?」「いつもの電車よりすっごく早いよ」「どんくらいのるの?」「3時間くらいかな」「……いつもよりたくさんのるのにはやいの?」

2010-08-21 01:51:25
ちゅーとろ @chutro

「ほら、りっちゃん起きて。富士山が見えるよ」「うん……」「きれいだねー」「きれいだけどぜんぜんはやくない……」

2010-08-21 02:02:45
ちゅーとろ @chutro

「ほらー、田んぼだよ」「ふーん」「これ、みんなお米さんなんだよ」「どういうふうに?」「農家の人が収穫して、一生懸命に白いお米にしてくれるんだよ」「りつはたべるだけでいいや」

2010-08-21 02:16:40
ちゅーとろ @chutro

「もうここらへんは、ずーっと田んぼだね」「すぐいろがぬりおわっていいなー」

2010-08-21 02:27:31
ちゅーとろ @chutro

女の子は照れ屋さんでした。褒められると、照れてしまいます。「りっちゃん、大きくなったねー」と、おじいちゃんとおばあちゃんが目を細めます。大きくなったか自分でわからないので、どう答えていいか分かりません。「遠かったでしょう」「はい!」。本当に遠かったので、今度は答えられました。

2010-08-21 02:39:17
ちゅーとろ @chutro

「りっちゃん、すいかが冷えてるよ」「はい!」「いま切ってあげるからね」「はい!」。栗色髪の女の子は、自分のためになるときは礼儀正しい子でした。

2010-08-21 02:50:28
ちゅーとろ @chutro

「ここらへんの蝉は、りっちゃんが住んでる所と鳴き方が違うでしょ」「どうちがうの」「この蝉はワシワシワシワシって鳴くけど、向こうはミンミンって鳴くでしょ」「うーん、かえったらきいてみる」

2010-08-21 03:01:59
ちゅーとろ @chutro

「おばあちゃん、せみたくさんとったよ」。女の子は虫かごをぐっと持ち上げました。「あらー、随分とたくさん捕まえたのねー」「きょうのよるごはんはてんぷらだね!」「?」

2010-08-21 03:16:46
ちゅーとろ @chutro

「りっちゃん、お休みの日はお父さんに遊んでもらってる?」「うん。このあいだもおとうさんとどうぶつえんにいったよ。でもねー、おうまさんしかいなかったんだー」

2010-08-21 03:31:24
ちゅーとろ @chutro

「どうしておばあちゃんにおこられてたの?どうぶつえんにいっちゃだめなの?」「……おばあちゃんはお父さんのお母さんだからだよ…」「またどうぶつえんのぎゅうもつたべたいなー」

2010-08-21 03:46:22
ちゅーとろ @chutro

「りっちゃん、おいしい?」「うん!」「これはね、りっちゃんのお父さんが子供のころ好きだったからよく作ったけど、今はあまり好きじゃないんだって。やっぱり、子供のころと味の好みが変わるんだねえ」「りつはおとなになってもずっとすきだよ」

2010-08-21 04:01:19
ちゅーとろ @chutro

最後の日は暑くなりました。お墓の前で、家族みんなで手を合わせました。「ここがうちのお墓だからね。いつかおばあちゃんもおじいちゃんもここに入るんだよ」。「やだ!」。女の子は半べそになって、お墓を蹴ってしまいました。お父さんとお母さんからとても怒られました。「どうしておこるの…」

2010-08-21 04:17:31
ちゅーとろ @chutro

駅までのタクシーの車内、女の子はずっとべそをかいていました。お父さんが「ここらへんもだいぶ変わりましたね」などと運転手さんに水を向けますが、会話は途切れてしまいます。駅が見えてくると、今まで黙っていたおばあちゃんがポツリと言いました。「りっちゃん、またおいで」。「うん…」

2010-08-21 04:32:12
ちゅーとろ @chutro

「ばいばい!」。笑顔でさようならできて、良かったね。

2010-08-21 04:53:17
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